水のコンテンツ③ 『水』をとりまく諸問題 その


大気の問題についての現況
異常気象とは  時々、例年の気候とまったく違った天候になることがあります。こうした天候のことを異常気象といいます。
 異常というくらいですから、何十年に一度、何百年に一度ぐらいしか起きませんでしたが、80年代から90年代にかけて世界各地で多発しました。記録的な猛暑、干ばつ、台風、洪水が世界各地に深刻な被害をもたらしたのです。
 あまりに頻繁に起こったために、「異常気象はもはや異常ではない。日常の出来事」と言われたほどです。
地球温暖化が原因?  
 この異常気象の原因と考えられているのが温暖化現象です。人間の生産活動によって地球の温暖化が進んだために、地球の気候が変動したという説です。温暖化と台風の関係を裏付けるかのように、近年、台風が猛威をふるっています。
 例えば、アメリカ南東部ではここ数年、何度も強烈なハリケーンの直撃を受けています。92年には、20世紀にアメリカが体験した3番目に威力を持つハリケーン「アンドリュー」がフロリダ州南部に上陸し、430平方キロメートルを壊滅させました。その結果8万5千戸の家屋が崩壊し、30万人が家を失い、被害総額は300億ドルと推定されています。
 ハリケーンが頻発するようになった原因と考えられるのが、海水温度の上昇です。ハリケーンはカリブ海、南太平洋、インド洋などの暖かい地域で海水の温度が26度を超えると発生するもので、破壊的な暴風雨となります。その破壊力は、海水温度が3〜4度上昇すると50%増すといわれています。また海水温度がいつも高ければ、ハリケーンの起こるシーズンは長期化するかも知れません。
 アメリカでは、温暖化によってハリケーン・シーズンが少なくても2ヶ月長期化し、従来は被害のなかったニューヨークなどの大都市にまで及ぶだろうと予測されています。
 日本でも89年、ふつう秋になって上陸する台風が7月から上陸し、8月には死者・行方不明者11人という集中豪雨が首都圏を直撃しました。
動き出した生保業界   異常気象は長い間原因がわからず、対策はあまり進んでいませんでした。しかし、被害のあまりの激しさに各種研究が進んでいます。
 以外なところでは、保険業界も熱心に動いています。というのも異常気象が頻繁になって一番困るのは保険業界だからです。各地で被害がでれば被災者への保険金額がふくらんで経営は圧迫され、倒産にもなりかねません。実際、92年のハリケーン「アンドリュー」によってアメリカの保険会社が8社、倒産しました。
 90年から95年までの5年間に、世界の保険業界は気象関連の損害に対して総額480億ドルもの保険金を支払っています。これは80年代の10年間に支払った140万ドルをはるかに上回っています。
 保険業界はこの温暖化と異常気象の関係をいち早く着目し、気候変動に関する公式会議にオブザーバーとして参加するなど、世界の気候制作づくりに積極的に取り組んでいます。
 こうした努力も加わって、異常気象の研究は活発になりつつあります。
地球温暖化現象とは?  二酸化炭素などは、光は通しますが熱をためるという働きがあります。つまり大気中の二酸化炭素が増加すると地球の気温が上がります。
 また、二酸化炭素以外にもメタンガスなどがあり、中でもフロンは二酸化炭素の数千倍の温暖化効果があります。特にフロンはオゾン層破壊だけではなく、地球の温暖化にも非常に危険な物質です。
 この温暖化現象は、人間活動によって大気中に急増した二酸化炭素やメタンガスが原因であることは、専門家の間ではほぼ一致しています。
 それは南極の氷3000mから得られた氷柱の中の気泡を分析することで過去16万年の二酸化炭素濃度の変化を調査した結果、二酸化炭素の濃度と地球の気温が比例関係にあることがわかったからです。
平均気温の変化  96年の世界平均気温は、平均値(1961〜90年)を18年連続で上回り、観測史上8番目の高温を記録しました。特に80年代に入って、温暖化傾向が完全に定着したと考える専門家が増えてきています。
 環境庁が発表した予測のなかでは「平均3度上昇」がベースとなっています。3度だったらと感じますが、この40年間に、すでに平均気温は0.5度上昇しています。たった0.5度の温度上昇でも、さまざまな異変が報告されています。長野県にある諏訪湖の冬の風物詩、「御神渡(おみわた)り」は見られませんでした。過去11年間で1回だけ「御神渡り」があった1991年を除いて、10年もなかったことになります。
 したがって、平均気温3度の上昇は非常に大きな影響が考えられます。これは亜熱帯気候に近づくことを意味し、自然や生態系、私たちの生活に大きな変化をもたらすと考えられます。

南極・北極の温度上昇   温度上昇はどこでも同じではありません。赤道付近ではあまり上がりませんが、北極・南極では10度以上も上昇します。
 南極から南米大陸に向かって突き出した南極半島では、年平均の気温がこの50年間で2〜2.5度も上昇しています。ウクライナ地方でも1957年〜90年に2.69度も上昇しています。
 また、この気温上昇と並行して、南極では海に張り出した棚氷の崩壊が続いています。1995年1月から約50日にわたって高さ約180m、神奈川県を上回る面積の棚氷が崩落したのをはじめ、86年には、ほぼ秋田県の面積に匹敵する棚氷が海に崩れ落ちました。
 現在、150万平方キロ以上もある巨大な氷山が13個も南極周辺を漂っています。いずれも棚氷の崩落によって生まれたものです。
北極の氷が解ければ  北極の氷が全部解ければ・・・実は、海面は上昇しません。北極は水に浮いた氷山であるため、氷がとけても水の量は増加しないからです。
南極の氷が解ければ  南極は北極と異なり、氷は岩床にのっています。面積は日本の約40倍ほどで、氷の厚さは最大4500m、平均2450mで、この約7割が海面上にあります。この巨大な氷が解ければ海面は70m上昇するという膨大な量です。
 この急激な温度上昇で、南極半島に生息するアデリーペンギンも個体数がこの20年間で約4割減少しました。気温の上昇で海水の面積が縮んで、ペンギンの生息場所が奪われたためだと考えられています。

地球温暖化の影響予測  100年後には米の栽培が西日本では難しくなり、全国のブナ林の40%はコナラ林に取って代わられる、都市部が高温化するヒートアイランド現象も加速・・・・環境庁は「地球温暖化の我が国への影響」についての報告書をまとめました。
 これは、21世紀末には平均気温が現在よりも3度高くなり、海面が65cm上昇するとしたIPCCの報告を受けてまとめたものです。 報告書によりますと、
 ●温暖化で降水量が10%程度増えるが、雪解け時期が早くなってしまうことや、蒸発量が増えるなどから河川の流量パターンが変化し、特に近畿地方の水がめの琵琶湖は大きな影響を受けるとしています。
 ●農業面では水稲の収穫が東北・北海道で増加し、一方で西日本では現在のジャポニカ米は高温障害で栽培が難しくなり、東南アジアで栽培されているインディカ米の導入や両方の交配が必要になると考えられています。
 ●気温上昇に伴い森林の樹種分布が北に移動し、ブナ林は40%が消滅し、コナラ林に代わると予測されています。

 ●生活面では、冬季の暖房利用の減少分が夏季の冷房の増加分を上回り、全体のエネルギー消費量は減るが、夏季の電力消費量のピークは高くなり、都市部では冷房の廃熱でヒートアイランド現象が強くなるとしています。
 ●また、そのため冷房を強めるという悪循環も予想され、報告書は「都市の水面や植物を意図的に保全することが一段と重要になる」と指摘しています。
 ●海岸では現在の砂丘の82%、約15,600ヘクタールが水没や浸食で失われるとも述べています。

 これら温暖化の原因となる二酸化炭素は化石燃料の大量消費に伴って排出されています。しかし、二酸化炭素の削減には、石油などの化石燃料の消費量を抑えなければならず、経済に悪影響が及ぶことを恐れて及び腰の国が多いようです。しかし、もしも対策をとらなければ、私たちの子孫は重大な影響をこうむることになりかねません。


酸性雨とは? 
 世界中に降っている雨はただの水ではなく、有害な酸が含まれています。これが「酸性雨」で、塩酸とか硫酸と同じような成分です。
 酸性雨の原因は、大気中に含まれている硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)だと言われています。硫黄酸化物は石油や石炭をを燃やしたときなどに、窒素酸化物は自動車のエンジンで燃料を燃やしたときなどに発生します。これらが水蒸気と反応して酸性雨となります。
 また、正常な雨は完全な中性ではなく、大気中の二酸化炭素によって弱い酸性を示します。したがって正常な雨よりも酸性の強いものを「酸性雨」と呼びます。

 酸性やアルカリ性を表す尺度としてpH(ペーハー)があります。pH7を中性として7よりも小さいほど酸性が強くなり、7より大きいほどアルカリ性が強いということになります。

酸性雨による被害  北米では銅精錬所、発電所、工場からの排煙が原因で湖沼で魚類が住めなくなり、カエデなどの樹木の立ち枯れが発生しています。
 同様にヨーロッパでも排煙により湖沼・地下水などで被害がでています。
 日本でも中国からの排煙が日本海を渡って日本に届いており、酸性雨の被害が続いています。

 過去を遡ると、1600年代にはイギリスで「石炭から地獄のような陰気な煙がロンドンを覆っている」とジョン・イブリンという作家が記しています。また、1800年代には「かつて豊かだった田園は死海の沿岸部のように荒涼たる風景に変わった。いくら見渡しても、葉を付けた木は1本も見当たらない」とロンドンのタイムズ紙は伝えています。
 そして1952年には、わずか5日間で4千人もの死者を出したロンドン殺人スモッグが起きました。この時の酸性雨のpHは1.5だったと報告されています。

 日本でも1900年代後半から四日市、川崎、尼崎、北九州など各地で大気汚染による気管支炎などの被害が続出しました。また、1974年には関東北部一円で降った霧雨で3万人以上の人が目や皮膚に刺激を訴えました。

酸性雨による影響
樹木の衰退  酸性雨の最も大きな被害は森林の立ち枯れです。特に針葉樹の被害が多く、花粉アレルギーが最近ひどくなったのは、酸性雨で弱ったスギが多くまき散らしているためであるという説もあります。
 正常に見える森林が、酸性雨や酸性霧によって蝕まれて、寒波や高温、雨不足などをきっかけに突然立ち枯れて大規模に破壊されてしまいます。
土壌の酸性化  酸性雨が続くと土壌までもが酸性化し、土の中で固定されていたアルミニウムが溶けだしてきます。アルミニウムは土壌中の微生物を死滅させ、また樹木の栄養分であるカルシウムを奪い、やがて枯死させてしまいます。
湖沼の酸性化  酸性雨は湖沼を酸性化し、水棲生物に影響を与えます。pH6ではエビ・カニ・貝が死滅してしまいます。
人体への影響  気管支炎や肺炎などのほかに、アルツハイマー病は酸性雨によって溶けたアルミニウムが脳に蓄積されるためと言われています。
 また、水道水で髪を洗ったら金髪が緑色になったという報告もあります。これは酸性雨が地下にしみこみ、銅製の水道管に作用し、錆と同じ色に染まったというわけです。
建造物  大理石や石膏でできている建造物は酸性雨により溶けだし「酸性雨つらら」ができます。
 つまり長い間保存されてきた建造物や文化財がわずか数年で見る影もなく変形・変色する可能性もあるということになります。

 酸性雨の被害は国境を軽く超えてしまいます。このため酸性雨に対しても、国際的な取り組みが必要になってきます。

まとめ
大気に含まれる炭素の量が増加し、地球の平均気温が上昇している。代表的な温室ガスである二酸化炭素(CO2)に地球温暖化の約60%の責任がある。
ブラジルとインドの2つの開発途上国を含む6ヵ国の総排出量は、地球全体の55.8%を占め、米国の排出量が最大である。
成層圏オゾンは太陽からの紫外線を吸収し、地表に生物が生存可能な程 度にそのレベルを保っている。このオゾン層が、人類の造りだした化学物 質により消失しつつある。

大気汚染は国境に妨げられず、発生源から遠くはなれた地域 の農業や生態系に影響を与えている。
二酸化硫黄(SO2)濃度が、世界保健機構(WHO)の指針値を超える都市地域に、6億人以上が生活している。また、浮遊粒子状物質(SPM)濃度が許容レベルを超える都市地域に、1.25億人以上が生活している。
一般的に、大都市において、単一汚染物質として最も脅威となっているのはSPM である。著しく高濃度のSO2とSPMが次の5都市で観測されている:北京、メキシコシティー、リオデジャネイロ、ソウル、上海。

比較可能なデータが得られる都市のうち、メキシコシティーが全体的に 最も大気汚染がひどい。
工場から上空に排出された汚染物質は、しばしば酸性雨となって地上に 戻る。世界資源研究所(WRI)によれば、ヨーロッパでは酸性雨により、すで に、全森林の22%(214,016,000ヘクタール)を失った。英国だけでも森林の 約57%(2百万ヘクタール以上)が損傷を受けている。この現象は、 非持続可能な工業化の世界的拡大とともに広がりつつある。


オゾン層破壊 

オゾン層とは? オゾンとは、酸素原子が3つ結合したものです。そしてオゾン層は地上から約20kmの上空にあります。
 このオゾン層は有害な紫外線を遮断するという非常に重要な働きをするものなのですが、その量は1気圧で3mmしかありません。その薄いオゾン層がいま、フロンによって破壊されています。
フロンとは? フロンはもともと自然界には存在しなかった物質で、人間によって発明され、次のような用途で使用されています。
 スプレーの圧力剤
 冷蔵庫・エアコン・自動販売機などの冷却剤
 発泡ウレタンなどの発泡剤
 精密機器・精密部品・半導体などの洗浄剤
 このようにフロンはすぐれた性能をもち、人体にはほとんど無害であるとされていましたが、アメリカのある科学者はフロンはきわめて有害であり、すぐにでも全廃が必要であると指摘しました。さらに、フロンを使い続けるとオゾン層に穴が開き人体にも影響がでる、とまで警告していました。
 その後、オゾン層は科学者の警告した通り現実となり、オゾンホールが現れました。
オゾン層破壊の実態  96年9月に南極上空で観測されたオゾンホールは、南極大陸の1.8倍もの面積に広がり、観測史上最大となりました。南極のオゾン層は80年代初期に、日本の越冬隊が最初に発見して以来、年々面積が拡大しオゾン量の減少も激しくなっています。
 一方、北極でも80年代半ば以降、オゾン層の減少が確認されるようになり、97年4月には正常値よりもオゾン層が60%も減る南極なみのオゾンホールが出現し、カナダ・シベリアの一部もオゾンホールに飲み込まれました。日本でも96年7月には北海道でオゾン層が30%も減っています。

オゾン層破壊で生物は死滅する? 南極は無人なのに対して、北極圏ばヨーロッパ、カナダ、アラスカ、ロシアなどの人口の多い国を抱えています。もし、これが南極のオゾンホールなみに広がれば、何億もの人々がオゾンホールのもたらす紫外線におびえながら暮らすことになりかねません。
 また、オゾン層が1%減るごとに、皮膚ガンが3〜6%、白内障が1%前後それぞれ増加すると考えられています。60%のオゾン層が破壊されれば、皮膚ガンが3倍以上も増える危険性があります。さらに10%のオゾン層の破壊が長引くと、世界の皮膚ガンは20%も増加し、毎年160〜170万人が白内障で失明すると警告しています。

 すでに世界各地で紫外線の増加が確認されていますが、最も大きな影響が予測されているのがオーストラリアとニュージーランドです。もともと紫外線に弱い白人種が移住したため、世界で最も皮膚ガンの発生率が高くなっています。
 これらの国では、
 スリップ:長袖をを着なさい
 スロップ:ローションを塗りなさい
 スラップ:帽子をかぶりなさい
 ラップ:サングラスをかけなさい
が呼びかけられ、太陽はもはや恵みの存在から恐ろしい存在に変わっています。

フロン規制の実態   オゾン層を保護するため、85年には「オゾン層保護のためのウィーン条約」が、さらにフロンを規制するための「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が87年に締結されています。
 しかし、これで問題が解決されるわけではありません。エアコンや冷蔵庫に使われていたフロンが大気中に排出され成層圏にたどり着き、オゾン層を破壊するには10年の時差があります。ということは、これから本格的なオゾン層破壊が始まることを意味しています。

 世界各国では次のようなフロン規制が行われています。
 アメリカ、ドイツ、イギリスなどでは冷蔵庫、エアコンなどフロンを使用している製品は、廃棄時にフロン回収を義務づけ、フロンを放出すると罰金が課せられます。
 さらにアメリカではフロンは安く、使いやすいことから「フロン税」が導入されていたり、製造過程のどこかでフロンが使われた製品全てに「フロン警告ラベル」の添付を義務づけています。

 一方、世界のフロンの15%を消費する日本では、これらの規制が一切ないのは驚くべき事実です。
 オゾン層が正常に戻るには、楽観的に見積もっても21世紀半ば以降になるでしょう。その影響を被るのは私たちの子孫の代です。とんでもない遺産を後世に残してしまいました。



海からの警告   

 海洋は地球表面の7割以上を占めていますが、しばしばそれは当然のこととして意識されません。35億人以上の人々が第1の食料源を海洋に頼っています世界人口の半数以上が海岸線から60km以内に住み、その数は2020年までに世界人口の4分の3に増加するでしょう。また、海洋と同様に重要であるのが沿岸域です。それは、人々の生活、開発、および地域の存続のために重要な、多様で生産的な生物生息域となっています。沿岸域の資源は多くの地域コミュニティおよび先住民にとって不可欠なものであり、海岸から320kmまでの範囲の排他的経済水域(EEZ)は、国が自国民の利益のために、自然資源の開発と保全に責任を有する重要な水域です。
 海洋はまた航路網を提供するとともに、エネルギー、鉱物、および医薬品の供給源でもあります。これらの貢献は、技術の進歩と陸上資源の枯渇に伴いますます増大するでしょう。

 海洋は地球表面の大部分を占めるため、気候に大きく影響し、私たちの惑星の生息可能性に深く寄与しています。海洋には120種以上の哺乳類のほか、無数の生物が生活しています。海洋はまた行楽客を海岸に誘い、多くの国で、重要な収入源を提供しています。
 世界の国々は、海洋と海洋に依存するコミュニティが脅威を受けていることを認知し、アジェンダ21を通じて、世界が「海洋と沿岸域の管理と開発について、国、地域、および地球レベルでの新しいアプローチ」を必要としていることを表明しました。

海をめぐる脅威
 海洋、特に沿岸の資源は、かつては、きわめて広大で復元性に富み、どんな人間の無礼に対しても無傷であると思われていましたが、今では、誤った管理と悪用のために生態学的崩壊の危機が訪れていることを示す明瞭な証拠が増えつつあります。次第に頻繁に海洋災害が世界の注目を集めるようになりました。米国東部では、医療廃棄物が海岸線を洗い、多数の海水浴場が閉鎖されました。イタリアのアドリア海沿岸では、藻類異常増殖により、何百もの海水浴場が一時閉鎖されました。アラスカでは巨大タンカーが座礁し、25万バレルもの油が世界で最も豊かな漁場のひとつに流出しました。

 このような大災害は真に国際的注目に値しますが、それとは別の、あまりセンセーショナルではないものの有害性については劣ることのない脅威が、海洋と沿岸を荒らしています。陸上起源の廃棄物の多くが海を行き先としているのです。世界中の海洋と沿岸--西アフリカ沿岸から原始的北極海まで--がプラスチックや残骸をまき散らされています。プラスチック製の漁網、釣り糸、ひも、および袋は浮遊し、かつ分解しにくく、海洋生物が飲み込んで窒息したり、からまって動けなくなったりします。
 人間は海洋を巨大なごみ箱のように扱っています。DDTやPCBのような有機化合物は今やありふれた海洋汚染物質であり、海洋生物の生殖異常をもたらしています。複数の漁場が、高濃度の有機化合物や重金属による健康上の懸念から閉鎖されました。人と産業の廃棄物を含むほとんど未処理の都市下水の流出は沿岸水域の最大の汚染源のひとつであり、それは沿岸地域の人口増加とともにおそらく増大するでしょう。
 油流出は海洋生息域を荒らし、魚類、哺乳類、鳥類を死に追いやります。大規模な油流出は数日間、メディアの大きな注目を惹きますが、ずっと多量の油が音もなく、街路から、船舶のタンク洗浄から、そして工場の排水路から海に流出しています。このような流出量は年平均2100万バレルと推定され、過去10年間の事故による流出量の年平均60万バレルの何十倍もあります。
 沿岸の生息域は、世界各地で都市開発、農地造成、海洋栽培施設造成により破壊されています。エクアドルではマングローブ林の3分の1以上が急成長しつつあるエビ養殖産業のための生けすに変えられ、フィリピンではほとんどすべてのマングローブ林が海洋栽培施設造成のために取り払われました。
 過剰漁獲もまた、長い間人類に食料、油、その他の有用物を供給してきた重要資源である海洋生物を脅かしています。国連食料農業機構(FAO)によれば、世界の商業的漁場の7割が枯渇または利用し尽くされ、あるいは以前の過剰漁獲からの回復期にあります。
 海洋哺乳類は世界各地で、沿海小規模漁業や公海の流し網漁業による偶発的捕獲によって大きな圧迫を受けています。そのほか、汚染、生息域の消失と劣化が、特に沿岸域で懸念されます。
 サンゴ礁は約百万種の生物の住まいとなっていますが、森林伐採や農地侵食に伴い河川を通じて海に流出した土砂により窒息しつつあります。サンゴ礁はまた、宝石や建築材料として採掘されています。乱暴な漁師は大量漁獲のための安易な方法として、時々ダイナマイトを海に投げ入れます。その結果、全魚群のみならず生息域も破壊してしまうのです。
 世界の海洋生物資源はまた、次第に高度化する漁法と大規模な工業的漁業の拡大により極度の圧迫を受けています。
 このほかにも、地球の海洋の未来は、南極保護や海面上昇のような課題に直面しています。南極は、その独自性ゆえに、膨大な資源の保護のための国際的努力が必要です。現在、南極の感受性の高い海洋生態系は、過剰漁獲、廃棄物投棄、および鉱物資源開発によって脅かされているのです。
解決策を探る  
 世界の海洋は、すべての国が保全に努力しなければならない巨大な共有物です。「環境と開発に関する世界委員会」は、報告書「私たち共通の未来」の中で、「持続可能な開発は海洋管理の大きな進歩に依存している」と結論しています。

 UNEPは、報告書「海洋環境の状況1990」の中で、「もし、沿岸の開発が今の割合で続くならば、海洋環境の質および生産性は地球規模で劣化するだろう」と述べています。

 さらに、国連の報告によれば、強力で連携した、各国の、および国際的な行動が今実行されなければ、次の十年間に海洋環境はひどく劣化すると予想されています。必要な努力は膨大で、コストは高くつきますが、海洋の持続的健康と資源の保全を確保するにはそれしか方法がありません。

 現在、国連はUNEPを通じて、160カ国以上で12の「地域海洋計画」 によって海洋の問題に取り組んでいます。この計画は次の地域で、状況の監視と政府活動の勧告を行っています。地中海、クウェート地域、紅海・アデン湾、大カリブ海、西・中央アフリカ大西洋岸、東アフリカ沿岸、南アメリカ太平洋岸、南太平洋諸島、北西太平洋、黒海、東アジア海域、南アジア海域。

海洋汚染の対策 
海洋汚染源を見つけよう
 海洋と沿岸を有害廃棄物から守る必要があります。汚染源管理の重要で比較的容易な方法のひとつは海洋環境劣化につながる意図的な海洋での廃棄物投棄をやめさせることです。そのためには調査活動として、まず汚染を把握し、次に汚染源を辿ることが必要でしょう。発見される可能性のある有害廃棄物として、有毒産業廃棄物、放射性廃棄物、下水汚泥などが挙げられます。
都市流出物を減らそう
 あなたの組織および他のコミュニティグループを動員し、この種の汚染源を減らすためにできるだけのことをしましょう。道路、側溝、空き地などに捨てられたあらゆるものが最終的に海、川、あるいは湖に到達します。雨水がこれらの廃棄物を水路に洗い流し、大量の沈澱物、栄養塩、バクテリア、そして有毒化学物質(有機物、重金属、油脂など)で海や川を汚染するのです。必要な防止対策は、道路清掃のような単純な保守作業から周辺水路への汚染水流出防止のための建設事業まで多岐にわたります。
海を油から守ろう
 油流出は海洋生態系に破滅的影響をもたらします。海洋環境を回復不可能な破壊から守るため、感受性の高い地域では石油やガスの開発を避けるべきです。石油タンカーの通過地域では、厳格な航行管理が必要です。これを達成するには、コミュニティが地元の行政府と協力し、沖合いでの石油探査と環境影響とのコスト−利益比が確実に認識されるよう努めましょう。
省エネを推進しよう
 コミュニティの省エネが進めば石油の需要が減り、沿岸でのタンカーからの破滅的な油流出の可能性も減ります。石油の消費減はタンカーの寄港減につながるのです。
ごみ捨てをやめさせよう
 プラスチック物質が、陸上でのおよび船からの投棄によって海岸に散乱し、海洋生物に重大な被害を与えています。特に海洋哺乳類、潜水鳥類および爬虫類が、プラスチック片を食べようとして、あるいはプラスチック製容器や漁具にからまって傷つき、あるいは死に至ります。既存の、陸上、海上での規制が守られ、人々の意識が高まれば、海洋と沿岸でのプラスチックごみの散乱は減るでしょう。教育、厳格な監視、および懲罰の実施によって浜辺、海洋、および沿岸水域の汚染を防ぎましょう。組織の人々を動員して、海岸に浮遊している、あるいは漂着したごみを除去しましょう。軍や沿岸警備隊も地元の組織や市民グループとともに、週末のコミュニティ規模の「クリーンアップ・ザ・ビーチ」作戦に参加できるとよいでしょう。
地球温暖化を防ごう
 海面上昇は、世界各地の島国、特にバルバドスやモルジブのような小さな島国や沿岸地域が直面する問題です。その犯人は、炭素の放出に主として起因する温室効果です。
テーマ館目次 BACK TOP NEXT