水のコンテンツ⑥ 『水』をとりまく諸問題 その6
 世紀越えの衝撃ニュース


■日本の予感 温暖化続けば破滅 秒読み 

20XX年、東京は40度を超す酷暑。
 環境、エネルギー問題で死活の岐路に立つ。
 2031年。7月31日午後6時。東京・大手町の気温は43.5度――。

 東北大学の斎藤武雄教授の理論的な予測では30年後、東京は熱帯だった。
 石油などを燃やすと出る二酸化炭素が地球を温室のように暖める。エネルギー消費量の多い大都市には車の排ガスや冷暖房の排熱がたまる。ビルは日中に吸収した太陽熱を夕方に放出する。都市は熱の島だ。
 この「ヒートアイランド現象」が専門の斎藤教授は、100年後の2100年の東京の気温を予測しようとデータを打ち込んだ。
 エネルギー消費量の増え方を年率2%と控えめに見積もっても、100年後には7倍以上になってしまう。温暖化やビルの蓄熱効果が加わるとエネルギー放出量はぐっと増え、人間が耐えられる気温とかけ離れる。やむなく、現実的な2031年を選んだ。

 米アリゾナ州フェニックス市で、43度の気温を体験したことがある。
 「20分も外を歩けなかった。30年後、熱中症の死者が続出するだろう」
   ■キリバス共和国。

 2001年の日の出を最初に迎えた太平洋の島国は、地球温暖化の帰すうに国土の存亡がかかる。
 標高が平均1メートル余りの33のサンゴ礁からなる。すでに、海中に没した家屋がある。道路も波に削り取られている。温暖化で北極海やグリーンランドの氷が解け、海面が上昇した。
 昨年10月に完成した新国会議事堂は、標高3.25メートルの人工島に造られた。設計、施工を請け負った大日本土木の今枝郁雄さんは「何メートルかさ上げするかで悩んだ」と話す。
 高くするだけ費用がかさむ。水没の心配のないぎりぎりまで土盛りし、50センチの防波堤を築いた。
 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は昨年11月、2100年までに平均気温は最大6度、海面も最大80センチ上昇すると発表した。従来の予測値をほぼ2倍、上方修正した。

 ひとごとではない。東京や大阪をはじめ世界の大都市は海辺にある。工業も農業も、多くは低地に立地している。農地が水没すれば、現在60億の地球人口は生きていけない。

 大量生産・消費・廃棄の20世紀型経済社会は、資源が枯渇する前に、地球の許容量を超える環境汚染を引き起こしてしまった。

 山本良一・東京大学国際・産学共同研究センター教授は警告する。
 「エネルギーの浪費を続ければ、地球環境は100年もたない。破滅に向けたカウントダウンが始まった」    朝日新聞 2001.01.11

せっけんも地球を汚す?
合成洗剤とどちらがいいか
 せっけんは合成洗剤より環境に優しい、という定説が揺さぶられている。有機汚濁が大きいなどの欠点に対する認識も広まってきたからだ。せっけん運動を引っ張ってきた生活協同組合で、合成洗剤を扱うところが増えてきた。「せっけん推進」の旗を降ろす自治体も出ている。洗剤は化学物質と環境について考えるときに最も身近なテーマだが、二者択一ではなく、より総合的な視点が求められるようになってきているようだ。
 自治体まで判断困った

 埼玉県は1999年5月、県全体でせっけん利用を推進していく方向を打ち出した。利用率の低下に悩む「せっけん推進派」にとっては、久しぶりに元気の出るニュースだった。
 ところが結末は意外な方向に。
 本当にせっけんが環境に良いのかどうか2000年4月から検討していた専門家の委員会は、同年10月、結論を出せないまま解散した。推進の旗は事実上降ろされた。
 「いったん振り出しです」と、埼玉県大気水質課の担当者は少しばつが悪そうだ。県の施設で始めていたせっけん使用も取りやめた。「合成洗剤で何か問題が生じているのか。せっけんに変えると環境は良くなるのか」という洗剤業界からの公開質問状に対して、具体的なデータが示せなかったのが大きな理由だった。
 岡山県は91年に作った児島湖環境保全条例で、水質に悪影響の少ない洗剤を知事が定めることにし、事実上せっけん推進をはかるつもりだった。専門家らの委員会が94年度までかけて、分解しやすさ、生物への影響、人体への影響について合成洗剤とせっけんを比較した。
 すると、期待とは異なり、「明確な差は認められなかった」という結果になった。
 結局、条例が出来て10年もたつのに、知事が決めるはずの「環境に優しい洗剤」は、せっけんなのか、それとも合成洗剤なのか、いまだにあいまいなままにされている。

 環境省のホームページにある「エコライフガイド」。「合成洗剤ではなくせっけんを使う」という項目は、98年12月に「洗剤の使用量は適量で」に変わった。現在は「洗剤・せっけんは適量に」だ。
 「今の科学でわかっていることで、行政がせっけんを推進する理由は出てこない」と、せっけんと合成洗剤の問題を研究してきた須藤隆一・埼玉県環境科学国際センター総長は話している。
 有機成分多いのが難点

 せっけんが環境に悪いとされる一つの理由は、含まれる有機物の量が、合成洗剤より多いことだ。

 滋賀県は97年から98年にかけて、市販の合成洗剤、せっけんの水質への影響を調べた。その結果、1回の洗濯に使う量で比較すると、せっけんには合成洗剤のおよそ3倍の有機物が含まれていた。

 有機物は微生物のエサになるが、量が多過ぎれば生態系のバランスを崩してしまう。
 有機物が多くても、せっけんは微生物が食べやすいから優れているといわれてきた。だが合成洗剤も改良が進んだ。琵琶湖での分解を想定した滋賀県の調査では、実験室のデータで見る限りは、せっけんとほぼ同じ成績だった。
 90年代に入り、地球環境全体の保護という視点が加わったことも、せっけんにとっては不利に働いたようだ。

 せっけんは、1回の洗濯に合成洗剤より多くの量を使わないと十分な洗浄力が発揮されない。それだけ資源の有効利用という点で不利になる。また、例えばヤシ油が原料ならば、熱帯の資源を多く使い、さらにヤシ園を作るために生態系に負担をかけていることになるとの指摘もある。

 横浜国立大の大矢勝・助教授(洗浄学)によると、原料の生産、製造過程、輸送などを総合的に判断するライフサイクルアセスメントの試算では、石油系原料の合成洗剤の方が、せっけんより優れているという結果があるという。

 せっけんは、使われてきた歴史が長い。合成洗剤の成分である界面活性剤は、次々に新顔が登場するが、それに比べると、せっけんには「とんでもない害が後からわかることは無いだろう」という安心感がある。添加物も少ないので、化学物質全般を減らしていこうという世の中の動きにもあう。
 だが、「より安全」を求めることで、別の形で環境に負荷を増やしていいのかどうか。日本中でせっけんを推進することが本当に環境に優しいのか、より詳しい検証が必要だ。
 排水方法で使い分けを

 せっけんが優れているのは、水に住む魚、微生物などへの毒性が一番低い点だ。 界面活性剤は下水道や合併浄化槽があればほとんどが分解されるが、洗濯の排水が直接小さな川に流れ込むような場所では、生態系に影響を与える恐れもある。界面活性剤のうちLASなどいくつかは「特定化学物質の把握と管理促進法(PRTR法)」の対象に指定されている。
 こうしたせっけんと合成洗剤の特徴を生かすため、大矢助教授は使い分けを提案している。

 生活排水が処理されずに小川に流れ込むようなところはせっけん
▽水源の湖など、有機物を減らす必要があるところは分解性の良い合成洗剤
▽下水道などが整っていれば石油系原料の合成洗剤、という考えだ。
せっけんにすべき場所で、合成洗剤が使われているところも多い。逆に「下水道が整っている都市部でせっけんを使うのはぜいたく」(大矢助教授)という面もある。だがアレルギーでどちらかはどうしても使えないといった理由や、洗い上がりの好みなどもあり、強制は難しい。
 合成洗剤やせっけんは、国民1人あたり年間約10キロも使われている。家庭で最も多く使われている化学物質だ。年間の国内消費量は合成洗剤(洗濯、台所、住宅用)が約98万トン、せっけん(洗濯、浴用)が約18万トン。

 新潟大の高橋敬雄教授(環境工学)が、新潟市周辺の32世帯で調べたら、洗濯排水に含まれる有機汚れのうち、衣類の汚れは13.5%で、残りは洗剤そのものだった。わずかな汚れを落とすために、大量の洗剤が流されている計算になる。

 高橋さんは「洗う行為そのものに問題があることを知って、『着たら洗う』から『汚れたら洗う』に変え、洗剤の量や洗濯回数を減らすなどの工夫が重要だ。せっけんか、合成洗剤かという二元論より広い目を持とう」と言う。
 合成洗剤をせっけんに変えるだけで、水環境の問題すべてが解決するわけではない。両方とも使用量をなるべく減らし、総合的に環境負荷が小さい方向を探る必要がある。
せっけんと合成洗剤の成分
(界面活性剤)の比較
(A=好ましい B=中間 C=好ましくない)
水生生物への
急性毒性
有機物の
排出量
分解性
せっけん
AS
LAS
AE
AES
α−SFE
 実際の合成洗剤は、何種類かの界面活性剤を
組み合わせている。
例えば粉末の洗濯用で最も売れている花王「アタ
ック」の場合、LAS、AE、AS、せっけんが含まれ
ている。
(注)
AS    アルキル硫酸エステル塩
LAS   直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩
AE    ポリオキシエチレンアルキルエーテル
AES   ポリオキシエチレンアルキル
         エーテル硫酸エステル塩
α−SFE アルファスルホ脂肪酸エステル塩
 (日本水環境学会編
    「Q&A水環境と洗剤(改訂)」より)
<2001年1月9日朝日新聞>

地球をいやす ポスト石油化学
微生物利用工場

 丹波地方の山あいにある京都府八木町で昨年、新しい微生物が誕生した。「メタノサルシナ」という細菌の一変種だ。同町が1998年につくった家畜ふん尿処理施設「八木バイオエコロジーセンター」のタンク内で、約1年半かけて自らの遺伝子を変え、この土地の風土に合わせ、メタンガスを効率よく放出する体に変わったのだ。
 「ふん尿がこいつらの力でエネルギーに変わるんです」と、同町農林課の課長補佐を務める中川悦光さん(45)は目を細めた。
 ●ふん尿発電、視察絶えず

 センターには毎日、町内の約25戸の畜産農家から約63トンの乳牛や豚のふん尿が運ばれてくる。集められたふん尿は微生物が食べると、たい肥の原料に変わる。その際、微生物が放出するメタンガスは燃やして発電に利用される。現在の発電能力は1日約2500キロワット時。一般の家庭約250戸分程度の電力になる。八木町は今春から、この電力の一部を電力会社に売り始める予定だ。

 畜産が盛んな八木町は長年、野積みされていたふん尿の処理に悩んでいた。転機は約6年前、町幹部らがデンマークやオランダなどを訪れ、ふん尿処理施設を視察した時だ。欧州では環境問題の高まりに伴ってふん尿や生ゴミを微生物で処理し、発電用のメタンガスとたい肥に変える取り組みが始まっていた。
 「二酸化炭素(CO2)の排出を減らすために微生物を使い、環境への負荷を減らそうという流れを感じた」と、欧州を視察して回った中川さんは振り返る。今、八木町には各地の自治体や企業の視察団がひっきりなしに訪れる。
 バクテリア、大腸菌、酵母……。微生物は人間が誕生するはるか昔、35億年以上前に地球上に現れたと言われる。そのおう盛な生命活動に伴って起きる発酵や分解の仕組みを応用する試みが、世界各地で始まっている。

 米国南部のルイジアナ州ジェニングス。来年初めに大規模な「微生物利用工場」が建設される。ベンチャー企業のBCインターナショナル社(BCI)が計画するエタノール生産工場だ。サトウキビのしぼりかすを大腸菌を使って発酵させ、年間約7万6000キロリットルのエタノールを作り出す。エタノールはガソリンに混合して利用し、石油の消費量削減に役立てるという。

 「米国は微生物利用のバイオテクノロジー(生物工学)に本気で乗り出した」。工業用アルコールメーカーでつくるアルコール協会の斉木隆・研究開発部長(61)は一昨年夏にBCIを視察し、米国の積極的な取り組みに驚いた。
 BCIの微生物工場には、米エネルギー省が1100万ドル(約12億円)の研究開発費を提供している。これらの資金で、エタノールをつくる遺伝子を大腸菌に組み込む技術が開発され、効率よくエタノールを放出する大腸菌がつくられた。
 ●バイオマスに、乗り気の米

 1999年夏、クリントン米大統領は石油中心のエネルギーやものづくりから、植物や微生物を使うバイオ技術への転換を国家戦略として打ち出した。
 掲げられた目標は「50年後に国内のエネルギーやプラスチックなどの生産量の半分を石油原料ではなく植物などの生物資源『バイオマス』から作り出す」。米国は過半の石油を中東などからの輸入に依存している。「バイオマスの利用でエネルギーの安全保障とCO2削減をねらっている」と斉木部長はみている。

 米国では大手化学メーカー、デュポンが2010年までに製品の製造過程の4分の1にバイオ技術を取り入れる方針を打ち出した。穀物メジャーのカーギルと化学メーカーのダウ・ケミカルは、乳酸菌を使ってトウモロコシからプラスチックや繊維の原料を開発、日本の繊維メーカー、カネボウ合繊などもこれを応用した衣料品づくりを始めている。米国の2社はさらに大規模な工場を年末に立ち上げる。
 ●手間ひまとコストが壁

 片や日本は、第二次石油危機後の1980年代に微生物などを使った石油代替エネルギーの開発を進めたものの、バブル崩壊を経て、当面の利益重視の考えから国も企業も相次いで研究から手を引いてしまった。
 通産省の外郭団体、地球環境産業技術研究機構の主席研究員で、欧米の研究者らとともに、遺伝子組み換え技術でつくった微生物に、アルコールなどの燃料やプラスチック原料などを効率よくつくらせようという「セル・ファクトリー(細胞工場)」構想に取り組む湯川英明さん(53)は、危機感を募らせる。

 「21世紀は『ポスト石油化学』の時代に入り、微生物などを活用したバイオの時代へ変化する。今のままでは日本は、10年後、20年後に欧米に大きな差をあけられてしまう」
 もちろん自然界に生きる微生物を相手にするには手間ひまもコストもかかる。

 関西電力総合技術研究所は95年、CO2を吸収して光合成するらん藻を元にプラスチック原料を作り出す微生物を開発した。しかし、プラスチック原料の生産コストは従来の方法の100倍になる上、火力発電所が排出するCO2すべてを吸収させるには、淡路島の3分の1の面積に微生物を敷きつめなければならず、実用化には至らなかった。
 とはいえ、地球をいやすのはやはり自然の力なのかもしれない。

 ある化学メーカーの関西の工場跡地で昨年4月、発がん性物質「トリクロロエチレン」に汚染されていた土壌や地下水がすっかり浄化された。環境機器の栗田工業が自然界から発見した微生物が、発がん性物質を有害ではない塩とガスに分解してしまった。
 「地球の環境を維持するためには、微生物が35億年かけて培った力が必要になるんじゃないか」。栗田工業浄化技術部の吉田和矩部長(55)は微生物が持つ可能性に期待する。  <2001年1月6日朝日新聞>


小売業の正月   休みたい、休めない、仕方ない
 ここ数年、元日もふだん通りに出勤し、働く人が増えている。スーパーを中心とする商業・小売業の従業員らだ。規制緩和が進むこの業界は、コンビニなみの「365日、夜まで営業」へと向かっている。消費者の便利さが増す一方で、正月も休めなくなった人たちがいる。2000年の歳末風景。
「三が日」今や死語?

○売り上げ減響く

 5人家族の台所を切り盛りしながら生協で働く契約職員のA子さん(40)は、2001年は元日の午前中からレジに立つ。
 「来年は元日から店を開ける」。上司から聞かされた時はショックだった。これまでの仕事始めは1月3日。1日と2日は気兼ねなく寝坊し、仕事と家事で大忙しだった大みそかまでの疲れをとる。それから家族とおせちを囲み、テレビを見て、初もうでに行き……。特別な2日間だった。

 だが、「今やスーパーはどこも元日から営業している」と言われれば黙るしかない。契約職員の立場でも、店が開く以上は休めない。正職員はみな管理職で、売り場は自分たちに任されているからだ。
 同居している長女(20)も元日営業する大手スーパー内の書店に勤めている。新年は母娘そろっての元日出勤になる。「三が日という言葉は、わが家では死語になってしまいそうです」

 首都圏を中心にチェーン展開しているスーパーでも、元日から営業する店が倍以上に増える。ダイエーやイトーヨーカ堂など、競合する大手が以前から元日営業してきた影響で、年末の買いだめによる売り上げが減る一方。2000年6月には営業日数や営業時間を規制する大規模小売店舗法が廃止され、正月営業の振り替え休業日を設ける必要もなくなった。
 「だれだって正月くらい休みたい。でも、みんな売り上げの落ちこみを肌で感じている。しかたない、という声が大勢です」。労組の幹部はため息をつく。
年間の休業日、減る一方

○過労が心配……

 元日に限らず、スーパーや百貨店では休業日がどんどん減っている。

 大手スーパーに張り合って元日営業しているある地方百貨店では、年間20日近くあった休業日が今年、一気に半減した。店が開いていれば正社員は休みを取りにくい。売り場の従業員は派遣社員やパートが大半で、商談などには対応できないからだ。この数年は、リストラで正社員の数自体も3割以上減っている。休業日でも、商品の棚卸しや売り場の模様替えがあれば休めない。
 内勤の企画部門で残業続きのBさん(31)も「週に1日休めればいいほう」と話す。年次有給休暇も「男の正社員で取れる人はほとんどいないから」と、あきらめ顔だ。元日出勤の見返りとして認められる1月中の連休は、来年も取るのは無理のようだ。
 スーパーでは営業時間も夜9時、10時までが当たり前になりつつある。パートや一般社員は交代で勤務できるが、管理職は、店が開いていれば帰りにくい。
 A子さんが働く生協も、いまや定休日は年4日、営業時間は午前10時から夜9時までだ。管理職の正職員は週休2日も年休もとれず、休みの日に客を装って店に出てきたり、タイムカードを押した後で残業に戻って閉店時間まで働く人もいる。「いつかだれかが倒れるんじゃないかと、すごく心配です」
テナントの店員も余波

○開店休業状態に

 スーパーや百貨店の従業員以上に、テナントとして入っている専門店や商店への影響は大きい。人員はぎりぎりだから交代勤務など組めず、飲食店の調理や専門店の接客はアルバイトには任せられない。結果として“大家”の営業時間の大半が、労働時間としてもろにかぶさってくる。

 しかも、夜間の営業中に客が入るのは食品売り場が中心で、婦人服や貴金属店などのテナントは開店休業状態になる。にもかかわらずテナントだけ閉店時刻を早めることは、認められないケースが多いという。

 スーパーに青果を産地直送している農家も休めなくなっている。生協の労組には「大みそかも元日も返上で出荷している」という農家の嘆きも寄せられている。商品の発送を担う運輸業者も年中無休で、長時間労働が日常化している。

 日本専門店協会の川口浩一専務理事は「消費者にもどこかで便利さを我慢してもらわないといけない一線があるのではないか。その線をどこに引くのか、議論が必要だ」と話している。

◇大手スーパーが引っ張る

 スーパーの元日営業は、ダイエーがリーダー役になる形で、イトーヨーカ堂、ジャスコ、西友の大手4社が1996年に一斉に始めた。翌年からはマイカルも加わって、今年の元日は5社平均で約9割の店舗が営業。これに引っ張られる形で、中小や地方スーパー・百貨店、商店や関連業界にも元日営業が広がっている。

 加盟労組を対象にした連合の調査だと、今年の元日に営業した企業は産業界全体で47%に達し、従業員の11%が元日出勤していた。最も多かった業種が「商業・流通・卸小売」。業界の86%にあたる企業が営業し、交通・運輸(75%)以上だった。

 一方、組合員への生活アンケートによると、商業・流通・卸小売業の従業員が取った年休は「3日」が一般的。取得率は15%(全業種では50%)で、他業種より際立って低かった。サービス残業も月13時間(同8時間)と、金融・保険(24時間)に次ぐ。      <2000年12月12日朝日新聞 一部修正>


食品添加物に不安」64% 
消費者、商品選びで自衛 東京都調査
 東京都が食品の安全性に関する調査をしたところ、不安に感じているものは食品添加物、遺伝子組み換え食品などだった。
 調査は、都消費生活モニターの500人を対象に2000年7月末から8月上旬にかけて実施し、12月にまとめた。回収率は約95%。

 不安に感じていることは、食品添加物(約64%)が最も多く、遺伝子組み換え食品(同53%)、内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)(同47%)、残留農薬(同44%)が続いた(複数回答)。

 消費者の自衛措置としては添加物については、「できるだけ無添加のものを買う」「どちらかというと少ないものを買う」が合わせて同93%を占め、無農薬・減農薬の野菜、穀物も、「できるだけ買う」「どちらかというと買う」という答えが合わせて7割を超えた。

 環境ホルモンへの対応を複数回答してもらったところ、「ダイオキシン汚染が高いといわれる食品は避ける」がトップで、「ポリカーボネート製の食器は使わない」「ポリ塩化ビニル製のラップは買わない」が続いた。
 また、豆腐や納豆を買う際、「遺伝子組み換えでない」などの表示があるものを、「価格に関係なく」買っているとした人が43%いた。
 また「消費期限を過ぎた食品は迷わず捨てる」とした人は約32%だったのに対して、約6割が「過ぎていても、においや味などを確認して食べることがある」とした。
環境ホルモンへの自衛策(複数回答)
ポリスチレン容器に入った
食品は買わない
41.4%
缶飲料は避ける 25.9%
ポリ塩化ビニル製のラップは買わない 44.5%
ポリカーボネート製の食器類は使わない 49.2%
ダイオキシン汚染が高いと
いわれる食品は避ける
60.1%
農産物は無農薬のものを買う 18.6%
特に気にしていない 12.4%
その他 13.3%
<2001年1月5日朝日新聞加筆>

より敏感な魚に安全な暮らしを
「環境基準」設定へ
  環境庁の検討会が中間報告
 魚を化学物質から守ります
 環境庁は26日、有害物質の水生生物への影響を考慮した「環境基準」を新たに設定するとの検討会の中間報告を発表した。人間については健康影響を考えた水質環境基準が定められているが、魚に対する基準を定めるのは初めて。人間より低い濃度で魚の健康に影響を及ぼす化学物質も多く、欧米ではこうした環境基準があることから、同庁が検討していた。
 国内では、化学物質が原因で魚介類が死んだ事例が多く、内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)や界面活性剤の魚への影響も指摘されている。そこで環境庁は今春から、有害物質の水生生物への影響を検討してきた。
 検討会では、人間より魚に先に影響の出やすい81の化学物質を選定。魚とそのエサへの毒性データや、河川と海の中の濃度を調べ、水質環境目標を決めることにした。

 水質環境目標は、(1)流れが比較的速い「イワナ・サケマス域」の河川(2)比較的遅い「コイ・フナ域」の河川(3)海域――の3つに区分して設定する。 <2000年12月27日朝日新聞>


変わるかな? 21世紀の暮らし
2000年を振り返って

 ○広がる消費者の権利・義務

 2001年4月から施行される消費者契約法は、モノからサービスまで、消費者と事業者間で結ばれるあらゆる契約に適用される。勧誘時にうそをつかれたり、居座りなどの脅迫的方法で結ばれたりした契約は解消できるほか、事業者の賠償責任をまったく認めないケースや法外な解約違約金を消費者に求める契約などの7つの事項は無効にできると定めた。

 また、訪問販売法も改正され、内職・モニター商法やマルチ商法の規制強化を盛り込み、名称も特定商取引法に変わり、来年6月から施行される。各地の消費生活センターなどに持ち込まれる苦情の多かった契約、商法に対抗できる制度として期待される。

 食に関しては、JAS法の改正が昨年成立し、6月から、生鮮食料品の原産地表示の義務づけ、有機食品の検査認証制度などがスタート。遺伝子組み換え食品の一部表示も来年4月からはじまる。

 住まいについては、4月に住宅品質確保促進法が施行され、新規住宅の基本構造部分に10年間保証が義務づけられたほか、トラブル相談、解決のための住宅紛争処理支援センターが設置された。

 10月からは耐震性や遮音性を格付けする住宅性能表示制度も始まった。優良な住宅の目安になるほか、中古住宅の転売に有利になり資産価値を高める効果が期待される。評価を受けた住宅にトラブルが生じた場合、低料金で解決できる保険的な意味合いもある。ただし、一戸建ての場合は取得者が申請に10万円以上の料金を払わねばならず、「まだメリットが理解されず、要望するお客様は少ない」(住宅メーカー)のが実情だ。

 また、賃貸住宅では、現行より家主の権利を拡大する定期借家制も3月にスタート。契約期限が来たら、家主が再契約を望まない限り退去しなければならない制度だが、不況で借り手優位の不動産市場では、定期の物件は導入後も爆発的には増えていないという。マンション管理のトラブル防止を目的に「マンション管理適正化推進法」も12月に成立した。

 ゴミ減量、リサイクルへ向けても、循環型社会形成推進基本法が6月に公布。分別、再生をより徹底する容器包装リサイクル法が4月に完全施行されたほか、テレビなどの廃棄に処分料が必要となる家電リサイクル法も来年4月から施行されるなど、消費者も環境へのコスト負担を一層求められる時代がやってくる。
最近できた暮らし関連の法律
【食】
 JAS法改正
【住】
 住宅品質確保促進法
 定期借家制度
 マンション管理適正化推進法
【消費】
 消費者契約法
 訪問販売法・割賦販売法改正
【高齢者】
 成年後見制度導入
 介護保険制度
【環境】
 循環型社会形成推進基本法
 容器包装リサイクル法
 家電リサイクル法
 資源有効利用促進法
【その他】
 改正動物保護管理法
 交通バリアフリー法
 児童虐待防止法
 未成年者喫煙・飲酒禁止法改正
 チャイルドシート着用義務化
(2000年から2001年にかけて成立、施行されるもの)
 ○企業への信頼度揺らぐ

 2000年6月に起きた雪印乳業の食中毒事件とその後相次いだ食べ物への異物混入騒動、さらに約30年間にわたって三菱自動車が組織ぐるみで続けていたクレーム隠しが発覚するなど、2000年は消費者と企業の信頼関係を根底から揺るがす大きな事件が続発した。

 生活の様々な場面でも進む規制緩和の前提になるのは信頼と情報公開。今年の生活10大ニュースにあげた国民生活センターは、「企業においても重大事故を引き起こす危険性のある情報はいち早く国民に提供する必要がある」と指摘し、日本消費者協会は「自社のブランドを守るための消費者への背信行為としか言いようがない」と厳しく批判している。
2000年の生活10大ニュース
(国民生活センター)
 ●消費者契約法が成立
 ●介護保険制度がスタート
 ●生保・損保会社の破たんが相次ぐ
 ●インターネット関連の相談急増
 ●訪問販売法から特定商取引法へ
 ●電話勧誘販売による資格講座の相談増加
 ●「エステ・de・ミロード」破産による苦情など
   エステ関連の苦情増加
 ●食中毒、食品異物混入が続発
 ●大企業の欠陥隠しが発覚
 ●新築住宅の10年保証制度がスタート
(日本消費者協会)
 ●消費者契約法が成立
 ●特定商取引法で内職・モニター商法を規制
 ●食中毒事件とクレーム隠し
 ●遺伝子組み換え食品に表示制度
 ●試行錯誤の中で介護保険スタート
 ●医療事故相次ぐ
 ●生命保険会社4社破たん
 ●わかる人もわからない人も合言葉は「IT(情報技術)」
 ●改正JAS法でやっと実現した生鮮食品の原産地表示
 ●循環型社会の形成で、使い捨て社会に
   サヨナラできるのか
 ◆問われる自己責任、見極める目養って    弁護士・村千鶴子さん

 介護保険制度の導入や消費者契約法の成立に象徴されるように、この1年は暮らしにかかわる法律が多く誕生した。戦後からの暮らし向きを変える節目の年といってもいい。それは規制緩和による経済の自由化という流れのなかで生まれてきたものだ。
 自由競争が促されれば、消費者を食い物にして、もうけに走る企業も出かねない。公正な商取引を確保し、消費者の生活を守る安全ネットとして法律ができている。だが、すべてが十分に議論され、消費者を守るものになっているかといえばそうは言えない。来年4月に施行予定の消費者契約法は特にそうだ。
 法の狙いは企業と消費者の情報格差を埋めることにあった。消費者に自己責任を問うならば、正しく商品選びができるよう企業側に情報提供を義務付けなければいけないのに、消費者に契約の重要な情報を伝えるのは「努力規定」になってしまった。

 では、消費者はどう自衛すればいいのか。有名企業だからなどの理由で判断せず、新しい商品やサービスの契約には複数の業者の内容を見比べて検討する。どこが親切に説明するかその姿勢をみる。そして納得できないことには声をあげること。企業にただし、消費生活センターなどに相談することが重要だ。
 介護保険制度や定期借家制度など、契約についての法律全般にも、同じことがいえる。十分な情報が与えられないまま自己責任を問われるならば、情報を引き出し、見極める目を養うしかない。 <2000年12月31日朝日新聞>
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