水のコンテンツ⑫ 『水』をとりまく諸問題 その12
  21世紀の『緊急課題』-⑤


うちの水道管大丈夫?
    有害物質、溶け出す場合も
取り換えのために掘り出された鉛水道管。やわらかいため、簡単に折れ曲がる。「漏水しやすい欠点もある」と東京都水道局の担当者=東京都大田区南雪谷3丁目で

 蛇口から突然出てくる赤さびに悩まされた人も少なくないはず。目に見えない鉛の毒の不安もある。浄水場から蛇口までどんな水道管が使われているのだろうか。

〇鉛管に不安募る、交換は自己負担 横浜・主婦の場合

 横浜市港南区に住む主婦Aさん(43)は最近、水道管から有害な鉛が溶け出す恐れがあると知り、心配になった。
 古い家ほど鉛の水道管が残っていると教えられたからだ。自宅の母屋は築25年、棟続きの離れも建てて20年近い。そこに夫と中高生の子ども3人、それに義母とその妹の7人で暮らしている。

 市の水道局で自宅の配管図を保管していると聞いて、管轄区域の営業所に出かけた。
 営業所には、建築時のチェックや漏水事故などに役立てるために、給水台帳といわれる水道管の見取り図が家ごとに永久保存されている。それをみれば、管の材質や長さが分かる仕組みだ。
 「ああ、やっぱり」。見取り図には、LPと表示された鉛管が計1メートルあった。水道メーター部分の前後に50センチずつだ。
 「この程度の長さなら朝一番の水をバケツ1杯分流してしまえば、大丈夫だと思いますが」
 営業所の職員の説明に一応安心はしたものの、毎日使う水が鉛管を通っていると考えると気持ちがいいものではない。

 公道の下を走る水道管から枝分かれして、私有地に引き込まれた部分は給水管と呼ばれ、水道局でなく個人の所有だ。横浜市では、引き込み部分から水道メーターまでで水漏れした場合、サービスの一環として無料で修繕しているが、管の老朽化や交換は原則として個人が費用を負担する。
 メーター付近の管は80年ごろまで細工しやすい鉛が主流だった。今はステンレスの表面に合成ゴムを張った蛇腹の管がよく使われるという。
 蛇腹管自体は口径20ミリ、長さ40センチで1万円を切る。交換だけなら手間賃も含め数万円で済む。しかし、地中に埋まった管だと、コンクリートをはがすなどの工事が必要で、費用はぐんとはね上がる。「子どもたちの将来を考えると、交換できるのなら、そうしたいけれど……」

 自宅の中をめぐる水道管は、塩化ビニルでコーティングされた鋼(鉄)管が使われていた。鋼管と聞いて、Aさんが思い出したのは、ふろの給湯用の蛇口から赤さびが出ることだった。
 「ボイラーに問題があるのか、コーティングしてない鋼管のつなぎ目からさびが出ている可能性もある」といわれた。
 Aさんは生活クラブ生協の活動で、塩化ビニルの皮膜から環境ホルモンが溶け出すという説を耳にしたことがある。厚生労働省の調査では「問題ない」と否定されている説だ。

 今は、鋼管以外に、塩化ビニル管やステンレス管、ポリエチレン管などが主流になっている。が、家を買ったり建てたりする際、水道管の材質を気にかける人はほとんどいない。
 Aさんは、本当に安全なのか確かめるため、市が希望者に実施している蛇口の水の無料検査を受けようと考えている。この先、家を改築するようなことがあれば、ステンレス管に換えることも考えたいという。

〇蛇口やメーターからも鉛

 鉛を使った銅合金製の蛇口や水道メーターなどの給水器具からも、鉛は溶け出す。四国のある都市の調査では、新品の蛇口から出る濃度(1リットル中のミリグラム)は1日の滞留水で0.027〜0.091、3日間滞留だと0.033〜0.132となった。
 バルブ製造のキッツ(本社・千葉市)は鉛の代わりにビスマスやセレンで加工しやすくした「鉛レス合金」を開発した。製品価格は従来の3割高。TOTOが鉛の出にくい給水器具を売り出している。

<鉛の毒性> 子どもに短気や知能障害、成人には胃腸障害や生殖機能の不全を引き起こす恐れがある。現行の水質基準の鉛濃度(1リットル中のミリグラム)は0.05以下。乳児の血液中の鉛濃度が健康に影響を与えない程度に抑えられる。鉛は体内に蓄積されるため、摂取量は少ないほどよく、基準は03年から0.01に強化される予定だ。横浜市の調査では、鉛管を使う289世帯のうち、流水で新基準を下回ったが、滞留水では鉛管が2メートル以上ある16世帯で新基準を上回り、最高0.041を記録した。ほかの自治体でも滞留水だと新基準を達成できないところが多い。

〇水道局の配水管にも問題 石綿管の安全性に疑問

 住宅に引き込まれる給水管だけでなく、公道の下を通る水道局の配水管にも問題がある。よく指摘されるのが石綿セメント(アスベスト)製の水道管だ。

 千葉県流山市議の日下部信雄さん(58)は石綿管の問題を議会で問いただしたことがある。
 石綿管は戦後から高度成長期にかけて、安価なこともあって、数多く埋設されてきた。ところが漏水しやすいことや、発がん物質である石綿が水に溶け込む恐れが指摘されたことなどから、全廃に向けて全国的に交換作業が進められている。
 同市の水道管の総延長は約480キロ。10年前から数キロずつ石綿管を別の材質に取り換えてきているが、今も約100キロが残っている。全部なくなるまであと10年ほどはかかる見込みだ。
 「市内のあちこちの蛇口から出る水もどこかで石綿管の中を通っているはず。不安を解消するために行政は努力してほしい」と話している。
 石綿管の交換はほかにも群馬県富岡市や長野県の佐久水道企業団など全国各地で進められている。

◆住民にできる水道管対策
  1. 管轄の水道局の営業所に保管されている配管図で管の材質を調べる
  2. 水道局に水質検査を求める
  3. 水道工事業者に相談する
 <主な給水管の特徴>
 【ステンレス管】 腐食の恐れが少なく軽量。熱膨張しやすい

 【塩化ビニル管】 施工が容易で軽量。衝撃や温度変化に弱い

 【塩化ビニルライニング鋼管】 鋼管よりさびつきにくい。施工がしにくい

 【銅管】 軽量でアルカリ性に強い。傷つきやすい

 【ポリエチレン管】 柔軟性があり軽量。有機溶剤に侵される恐れ

 【ポリブテン管】 ポリエチレン管とほぼ同じ

 【鉛管/いまは新たに使われていない】 屈曲自在で施工容易。重く外傷を受けやすい
(朝日 2001/05/15)


転機迎える浄水器
     性能明示へ法改正・鉛対策も後押し

 家庭用浄水器で水道水のどんな汚れが取り除けるのか。消費者は意外に知らない。水道当局が「水道水は安全」と強調するから、浄水器メーカーも「汚れがたくさん取れます」とは宣伝しづらい面があった。そんな浄水器が消費者の信頼獲得へ大きな転換期を迎えている。

 「浄水器を通したほうがおいしく感じる。何となく水がきれいになる気がするんですよね」
 埼玉県新座市のホームセンターで浄水器を選んでいた主婦(25)は子ども3人の健康を考えているという。性能の話になると首をひねった。
 「浄水器付きマンション」もここ2、3年で一般的になった。東京都品川区の新築11階建てに入居した会社員の女性(52)は「浄水器が最初からついていてよかった。カルキのほかに何が取れるのかは、よくわからないけど」と語った。

 浄水器の普及率は全国で26%、1000万世帯が使っている、と業界団体の浄水器協議会はみる。東京や大阪では普及率40%前後だ。それでも浄水器の性能は知られず、販売方法をめぐるトラブルも絶えない。
 浄水器の性能情報などが消費者に十分届かない背景には、水道水の「安全神話」がある。

 かつて据え付け型など水道管に直結する浄水器は、給水装置の末端機器と位置づけられ、水道事業者でつくる日本水道協会(JWWA)の認定マークがないと実質的に販売できなかった。
 水道協会側は、消毒用の残留塩素と、集合住宅の貯水槽などで混じる濁りを除く目的なら認めるとの立場をとり、ほかの物質の宣伝には不快感を示した。
 米国の要求などを受けた97年の規制緩和で水道協会の認定は不要になり、浄水器メーカーは自由に宣伝できるようになった。それでも「水道局を敵に回したくない」と事実上の自主規制は続いてきた。

○悪質商品、淘汰に期待

 転換期といえるのはまず、来年4月から家庭用品品質表示法の対象になることだ。これまではっきりしなかった浄水能力などが、統一した試験方法で表示される。
 メーカー側の浄水器協議会は、水道協会が基準とする残留塩素と濁り以外に、発がん性が指摘される塩素消毒の副生成物や農薬など16項目の自主基準を設けていた。しかし、各事業者が統一して表示していたわけではなかった。

 今後は自主基準の一部を除いた項目と残留塩素、濁りの計13項目について、日本工業規格(JIS)の品質試験方法に基づき、除去率が80%(濁りは50%)に下がるまでに必要な総ろ過流量やろ過材の取り換え時期の目安などを表示する。
 最近、塩素でも死なず、集団下痢の原因になる病原性原虫のクリプトスポリジウムが水道水に混入するのをどう防ぐかが問題になっている。浄水器でどう対応するかは課題として残った。
 この表示制度の導入で少なくとも「安かろう悪かろう」といった商品は淘汰(とうた)されるとみられている。

○国も取り付けを研究

 さらに大きいのは、03年に予定される鉛の水質基準の強化だ。
 厚生労働省は、鉛の溶け出す鉛製水道管の取り換えが財政難で進まないため、現状だと水質基準を達成できない家庭に対して浄水器を取り付けるかどうかの研究を始めた。水道当局から「鬼っ子」扱いされてきた浄水器が初めて認知されたといえるかもしれない。
 厚労省によると、水道管に滞留した朝一番の水には、鉛が粒子か溶解性のイオンか、どちらの状態で溶けているのかがはっきりしないため、外郭団体の水道技術研究センターで今春から研究を進めている。

 浄水器の仕組みはふつう、活性炭層で有機物やにおいを吸着させ、中空糸膜を中心とするろ過膜層で細菌や濁りを取り除く。鉛の粒子ならろ過膜で取れるが、イオンの場合は2つの層にイオン交換樹脂層を加える必要が出てくる。
 イオン交換樹脂まで加えた浄水器は三菱レイヨンや九州松下電器など大手メーカーから数万円台の製品がいくつか売り出されている。ただ、メーカー側は積極的に宣伝していない。

 鉛対策の研究で何らかの基準ができれば、メーカー側は新商品の投入に動き出しそうだ。
 浄水器協議会の植田尚孝事務局長は「浄水器に公的な表示が導入されたうえ、鉛対策として位置づけられれば、業界はレベルアップし、消費者の信頼も得られるだろう」と話している。

 <家庭用品品質表示法> 消費者保護の観点から「家庭用品」の品質の識別に必要な表示基準を定めている。62年制定。今年3月までに計90品目が対象になった。繊維製品の下着、合成樹脂加工品の洗面器、電気機械器具のテレビ、雑貨工業品の傘や靴などだ。浄水器は雑貨工業品。浄水後の水を電気分解する「アルカリイオン整水器」は対象外。ミネラル添加の「ミネラル整水器」は主たる目的が浄水の場合は対象になる。

 ■浄水器で注意すべきこと
 【買うとき】
 (1)水道水からどんな物質を取り除きたいのか。目的に合った浄水器を選ぶ
 (2)医療や美容などの効果をうたった商品は根拠となるデータの提出を求める
 (3)訪問販売などで高額商品を購入した場合、8日間のクーリングオフ期間内なら無条件で解約できる

 【使うとき】
 (4)ろ過材のカートリッジの使用期限を守り、こまめに取り換える
 (5)長時間使わなかったときは、雑菌が繁殖する恐れがあるので、使い始めの水は飲まない
 (6)浄水器で塩素をとった水は、雑菌が繁殖しやすくなるので、取り置きせずにすぐ使う

 ■表示対象の汚染物質
 (1)残留塩素
 (2)濁り
 【塩素消毒の副生成物】(3)総トリハロメタン(4)クロロホルム(5)プロモジクロロメタン(6)ジブロモクロロメタン(7)プロモホルム
 【ハイテク汚染物質】(8)テトラクロロエチレン(9)トリクロロエチレン(10)1,1,1−トリクロロエタン
 【農薬】(11)CAT
 【かび臭】(12)2−MIB
 【重金属】(13)溶解性鉛
 ※浄水器協議会の自主規格には(1)、(2)を除く11項目に一般細菌、大腸菌群、鉄、マンガン、アルミニウムが加わる
(朝日 2001/05/16)



汚れの原因?貯水槽
  増えるマンション、無関心な住民ら
水を抜いた貯水槽の内部。清掃を怠っていたためか底にさびがこびりついている


 浄水場から送り出された水は蛇口に届く前に、貯水槽や水道管で汚される可能性もある。浄水器は自衛策になり得るのだろうか。家で水道水とどうつきあえばいいのか。

 映画監督の早川光さん(40)は16年間、水道の水を飲んでいない。
 東京都内のワンルームマンションで暮らし始めたころ、蛇口からコップにくんだ水を口にふくんだ瞬間、いやなにおいがした。我慢して数日飲んだら、おなかをこわした。
 大家が調べた結果、貯水槽のふたの周囲の塗料がはがれ落ちていた。コップの水を改めてよく見ると、塗料片らしい白っぽい粉が浮いていた。以来、水道水を生理的に受けつけなくなった。
 代わりにペットボトル入りのミネラルウオーターを飲む。「ミネラルウオーターガイドブック」という本を出すまで詳しくなった。
 一戸建ての実家で暮らしていたころ、水道水をまずいと思ったことはない。家の蛇口と水道局の配水管は直結し、もちろん貯水槽はなかった。水道水の味や安全性をめぐる問題の多くは貯水槽に原因があると思う。

 「3割くらいの貯水槽が清掃されていないんですよ」
 新潟市で貯水槽の清掃会社を営む加藤功さん(54)は2年前、業界の研修会でそう聞いてびっくりした。全国的な傾向だという。「大勢の人の飲み水なのに、これでいいのだろうか」
 市内に約3500軒ある貯水槽付きの建物の実態を知ろうと、情報の公開を市に請求し、今年認められた。
 それによると、保健所に「清掃報告」が出ていないのは約1200軒にのぼり、全体の35%を占めた。小型貯水槽(容量10立方メートル以下)に限れば半分近くになる。

 加藤さんはその約1200軒を訪ねた。小規模のマンションが圧倒的に多いほか、繁華街の雑居ビルやラブホテル、風俗店のビル、学校、官庁、歯科医院もあった。
 貯水槽は1階にあるのに、ふたにかぎがなく、周囲に囲いもない例が目立った。子どもがふたの上で遊んでいるのをよく見かけた。「悪意のある人が毒物を入れようと思えば簡単にできる」という状態だった。
 貯水槽の中はさびだらけだったり、藻が生えていたり、羽虫がたくさん浮いていたり。「5年以上、掃除していない」と平気な飲食店ビルの経営者や、「私が飲む水じゃない」と清掃を断るマンションの大家もいた。
 「中高層の建物で暮らし、働く人が増える一方なのに、貯水槽に関心がなさ過ぎる」。加藤さんはがく然とした。

 清掃業者の団体の全国建築物飲料水管理協会(全水協)によると、日本には約100万カ所もの貯水槽がある。
 このうち約20万カ所の大型貯水槽(容量10立方メートル超)は年1回以上の清掃や検査がビル管理法や水道法で義務づけられ、違反すれば罰金が科せられる。残る約80万カ所の小型貯水槽(10立方メートル以下)には、法的規制は何もない。マンションでいえば、最も多い20世帯規模だ。
 自治体が独自に小型貯水槽の衛生管理を指導する例もある。新潟市の場合は保健所が水道局の給水データをもとに貯水槽の台帳をつくり、清掃していない設置者に指導や勧告をする。全水協によれば、こうした自治体は全体の約7割という。
 今の国会に提出されている水道法改正案は、「零細な施設にまで法の網の目をかぶせるのは厳しすぎる」(厚生労働省)として見逃されてきた小型貯水槽についても、「設置者の責任」を明記し、何らかの管理の義務を負わせる狙いだ。
 責任が盛り込まれただけでも「大きな一歩」という見方がある半面、責任の中身が決まっていないため、具体性に欠けるとの批判もある。
 責任の中身は「年1回以上の清掃、検査で、罰則はなし」になるだろうとみられている。しかし、全水協の田崎一幸専務理事(63)は「これでは不十分。日常的な維持管理を請け負う給水管理者の制度を設けるべきだ」と提案している。

おいしい水、台無しにしたくない 「直結式」都市で増加

 貯水槽をなくして、配水管から各世帯へ直接、給水する「増圧給水直結方式」を導入する集合住宅が都市部を中心に増えている。水道水の味を悪くする原因が貯水槽なら、いっそ取り払ってしまおうという技術だ。
 増圧ポンプで水を押し上げ、配水管から中高層の部屋の蛇口まで水を送る。この方式の建物は東京都が最も多い。95年に第1号以来、約1万700棟が建っている。15階建てもある。
 都は92年から、「水道水がまずい」「かび臭い」という苦情にこたえるため、活性炭とオゾンを使った「高度浄水処理」と呼ばれる高額の設備を、各浄水場に順次、導入している。
 「おいしくするために苦労した水を管理の悪い貯水槽で台無しにされてはたまらない」と直結方式にますます力を入れる方針だ。「水道水の生ぬるさがなくなった」など評判は上々だという。

 大阪市では、00年度に建てられた654棟の8割が直結方式だ。良質の地下水が売り物の熊本市でも昨年4月から始まり、34棟が建った。
 厚生省は91年の「21世紀に向けた水道整備計画の長期目標」で、「直結給水対象の拡大」を掲げ、「主な都市部ではそうとう導入が進んでいるはず」と見る。
 一方、直結方式は地震などで停電すれば、とたんに水が止まる。全水協の田崎専務理事は「阪神大震災のとき、貯水槽の水で数日間をしのいだビルがいくつもあった。貯水槽さえなくせばいいという発想は地震の多い日本では短絡。貯水槽の管理に力を入れるべきではないか」と指摘する。

住民にできる貯水槽対策
  1. 自分の集合住宅の貯水槽の場所を知り、管理状態をチェックする
  2. 管理が悪いと思えば、住宅の所有者(貯水槽の設置者)や管理組合に清掃などを求める
  3. 保健所に相談してみる
 <貯水槽> 中高層の建物では、まず水道水を1階や地下の受水槽にため、次にそれをポンプで屋上の高置水槽に揚げ、重力を利用して各部屋に送る。2つの水槽は貯水槽と総称される。材質は強化プラスチックが多い。清掃が初めて義務づけられた70年のビル管理法では床面積8千平方メートル以上の事務所や百貨店にある貯水槽に限られた(現在は3千平方メートル以上)。77年の水道法改正で20立方メートル以上の貯水槽の清掃・検査義務が盛り込まれ、86年改正で対象が10立方メートル以上に広がった。
(朝日新聞 2001/05/14)



ハイオクガソリン添加剤の
    地下水汚染を本格調査へ

 ハイオクガソリンの添加剤に使われる化学物質のMTBEが貴重な飲用水源である地下水を汚染するとして、米欧で使用禁止を含めて規制の動きが強まっている。飲用にたえない刺激臭があるうえ、発がん性が疑われているからだ。そのMTBEが国内でも地下水の一部に入っていることが分かり、環境省は規制も視野に初めて本格的な調査に乗り出した。

 MTBEは水によく溶けるため、地下タンクなどから漏れ、飲用の地下水を汚染する事故が米国で相次いだ。96年にはカリフォルニア州サンタモニカで約10万人分の水道水に影響が及んだ。今も約80%の飲み水を他市から買っているという。
 問題は全米に広がり、カリフォルニア州が02年末にMTBE添加の全面禁止に踏み切る方針のほか、ニューヨーク州など多くの州でも規制や禁止の方向で動き出した。飲み水の影響を受けた住民が石油会社を相手取って訴訟も起こしている。

 欧州では飲み水を地下水に100%依存するデンマーク政府が、MTBE添加のガソリンを使わないよう呼びかけ始めた。石油業界も協力し、5月からは販売する給油所の数を制限し、05年には全面禁止の方針だ。
 デンマーク環境省の担当者は「地下水に入ると取り返しがつかず、タンクの管理だけでは不十分」と強調する。

 一方、環境省が99年に日本で任意に選んだ井戸水を調べたところ、23カ所中5カ所から、米国の各州の規制値の300分の1ほどのごく微量のMTBEを検出した。
 日本は水道水源の2割以上を地下水に頼るだけに、同省は昨年から全国の給油所周辺の200カ所の井戸で本格的な調査に入った。結果次第では、水質基準の要監視項目に加えるなどの対策も検討する考えだ。
 石油元売り各社でつくる石油連盟は、日本の地下タンクは消防法に基づく厳重な構造だとし、「調査結果をみて対応を考えたい」としている。

 地下水汚染にくわしい信州大の藤縄克之教授(環境工学)は「わずかでも検出された事実は重く、どこかで高濃度に汚染されている可能性も否定できない。水資源を守る立場から野放しにせず、規制措置を検討すべきだ」と話している。

 <MTBE> メチル・ターシャリー・ブチル・エーテルの略。米環境保護局(EPA)が動物実験の結果から「発がん性が考えられる物質」と位置づけている。エンジンのノッキングを防ぎ、回転効率をよくするため、米国ではハイオクガソリンに11〜15%の濃度で加えられている。鉛に代わる添加剤として80年ごろ導入された。日本では91年に添加が認められ、ハイオクの約6割に5%程度の濃度で入っている。

(2001/05/15 朝日新聞)



広がる水道水の高度浄水処理 水源の汚染対策で
■水道水の「高度浄水処理」を導入する自治体広がる
    オゾンや活性炭使用、進む水源汚染

 水道水のかび臭や有害物質を取り除き、「安全でおいしい水」をつくるために、オゾンと活性炭を使った「高度浄水処理」を導入しようとする自治体が相次いでいる。東京、大阪など約30の浄水場が稼働・建設中のほか、福岡市が初めて導入を決め、千葉県内の2つの広域水道企業団などが検討している。水源の河川や湖沼の汚染が進み、一般的な浄水処理では限界があるからだ。

 「急速ろ過」と呼ばれる一般的な浄水処理は薬剤で汚れを凝集、沈殿させ、砂でろ過し、塩素消毒する。汚染がひどいとかび臭やカルキ臭が出て、塩素消毒で発生する発がん性物質トリハロメタンも増え、農薬などが十分取りきれずに残る。
 北九州市環境科学研究所アクア研究センターの分析では、水道水から内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)のフタル酸エステル類や農薬など64種類の有機化合物が検出された。東京理科大の小野寺祐夫助教授が昨夏都内の水道水を分析したところ85種類が確認された。

 においや有機化合物は急速ろ過にオゾン・活性炭処理を加えればほとんど取り除けるという。オゾンで分解され、活性炭に吸着されるからだ。
 国の補助を受けて稼働・建設中の約30の浄水場は大阪、東京、兵庫、香川、茨城、福島、千葉、長野、京都、滋賀、和歌山、鹿児島、沖縄など全国の都道府県に広がる。
 福岡市は多々良浄水場を補助申請中。04年度までに70億円で完成させる方針だ。千葉県と松戸市など9市町でつくる北千葉広域水道企業団は導入を視野にオゾン・活性炭処理の実験を始めた。

 巨額の費用にためらいもある。千葉県銚子市など2市4町の東総広域水道企業団は、水源とする利根川や黒部川の汚染の改善のめどがたたず、検討に入った。数十億円の施設建設費のうえ電気代や活性炭代もあり、市町に水を卸す価格も1立方メートルで15〜20円上がりそうなため、市町の説得が課題だ。
 北九州市も数十億円の費用がネックとなり、割安な微生物と活性炭による処理に切り替えた。
 実際、オゾン・活性炭処理を導入した大阪府営水道は、府下の衛星都市への卸売価格を上げた。導入前に値上げした大阪市や兵庫県尼崎市などのような例もある。

(朝日新聞 2001/05/13)



おいしい水」を求めて

安全性の代償としてのカルキ臭や発がん物質トリハロメタンの発生
 冬山で遭難した人がチョコレートを少しずつ食いつないで何日も生き延び、無事に救出されたという話を聞いたことがあります。何千年にもわたって飢えにさらされてきた人間の体は、食べ物がなくともそう簡単にはギブアップしないようにできているようです。ところが、水分を補給しないと、1週間も生きていられないといいます。人間にとって水はそれほど大切なものなのです。

 毎日なんの気なしに飲んでいる水ですが、実は体の中でとても重要な役割を果たしています。例えば、血液やリンパ液の液体部分のほとんどが水分で、栄養や酸素、ホルモン、白血球などを体の隅々まで供給しています。また、老廃物や有毒物質を便や尿として体外に排泄(せつ)するにも水分は必要です。さらに、体温を一定に保つために出す汗も水分です。体重の55〜60%を占める水分は、人間が生命を維持していくためにさまざまな働きをしているのです。
人間が生きていくうえでなくてはならない水ですが、「水道水はカルキ臭くてまずい」とか「マンションやビルの受水槽の水は本当に安全なのか」と飲み水の質に関心を示す人が多くなってきました。

 1992年には水道水として利用する水の水質基準が26項目から120項目に増やされ、より厳しくチェックされるようになりました。安全な水道水を供給するために河川などから取水された水は、まずはじめに活性炭や強力な酸化作用のあるオゾンでろ過・殺菌されて臭気物質を除去します。そのほかにも微量有機物やアンモニア性窒素、汚濁などを除去するための処理が行われます。最後に、わずかに残っている雑菌や大腸菌などの有害物質の殺菌消毒、アンモニアの酸化、鉄やマンガンなどの除去に塩素を使います。

 ところが、水道水のまずさの原因になっているカルキ臭は、塩素がアンモニアを酸化するときに発生するものなのです。また、発がん性のあるトリハロメタンが生じることも問題となっています。

沸騰させたり、活性炭を使って安全な水をつくる

 安全な水を飲むためのいくつかの方法を紹介しましょう。
 水道水を飲み水として使うときには、そのまま飲まないで一度沸騰させます。ステンレス製やホーローのやかん、鉄びんを使ってゆっくりと沸騰させることで、トリハロメタンはほとんど除去できます。また、カルキ臭を取り除くには、沸騰しはじめてからやかんのふたを取って5分間くらい煮沸するといいでしょう

 最近、何かと注目されている炭を使うことでトリハロメタンを除去する方法もあります。少し原始的かもしれませんが、まずペットボトルの底を切り取って、活性炭や炭を清潔なガーゼなどで包んで中に入れ、ペットボトルの底は水を通すガーゼなどでふたをします。こうして注ぎ口から水を入れると、活性炭や炭がトリハロメタンやカビ臭いにおいを吸着してくれます。

 そんな手間のかかることはやっていられないという人には浄水器があります。できれば活性炭と中空糸膜でろ過するタイプがいいでしょう。カルキ臭やカビ臭、塩素、トリハロメタンなどは活性炭に吸着して取り除かれます。また、水に溶け込まない鉄さびやマンガン、亜鉛、銅などや、活性炭のカートリッジの中に増殖した雑菌などは中空糸膜で除去されます。浄水器を使うときには、カートリッジの交換をきちんとするようにしてください。

 それでは、こうして処理した水道水をさらにおいしく飲むにはどうしたらいいのでしょうか。
 ぬるい水より冷たい水のほうがおいしいと感じることは、多くの人が経験的に知っています。水の味は温度に左右されますが、特に10度前後の温度の水が一番おいしく感じられるといわれています。ですから、活性炭や浄水器でろ過した水を冷蔵庫で冷やしてから飲むといいでしょう。

体にいい水としてミネラル・ウオーターや還元水が注目を集める
 農林水産省によるミネラル・ウオーターのガイドライン

ナチュラル・ウォーター
ミネラル・
ウオーター
ボトルド・
ウオーター


ナチュラル・
ミネラル・
ウオーター
ナチュラル・
ウオーター
ミネラル・
ウオーター
ボトルド・ウオーターまたは飲用水


特定水源より採水された地下水のうち、地下で滞留または移動中に無機質塩類が溶質したもの
・鉱水・鉱泉水など
特定水源より採水された地下水
ナチュラル・ミネラル・ウオーターの源水と同じ
飲用に適した水
・純水
・蒸留水
・河川の表流水
・水道水など






ろ過、沈降および加熱殺菌に限る
ろ過、沈降および加熱殺菌のほかに次に掲げる処理を行ったもの
・複数の源水の混同
・ミネラル分の調整
・オゾン殺菌
・紫外線殺菌など
処理方法の限定はない

 安全でおいしく、さらに体にいい水というと、ミネラル・ウオーターがあります。ミネラル・ウオーターにはカルシウムやマグネシウムなどのミネラルと、体に侵入してきた有害細菌を排除する働きのある生菌が豊富に含まれています。日本では農林水産省がガイドラインを定めています。日本のミネラル・ウオーターは加熱殺菌するために、生菌は死滅してしまいます。また、4つの品名のうち、「ナチュラル・ウオーター」と「ボトルド・ウオーター」は本来の意味でのミネラル・ウオーターとは違います。

 体にいいとされる水で最近注目を集めているのが「還元水」です。私たちの体の細胞は、活性酸素の影響で老化が進んだり、遺伝子が傷つけられてがん化することもあると考えられています。しかし、還元水にはその活性酸素による悪影響を抑える働きのあることが研究で明らかになり、一躍クローズアップされるようになりました。

 この還元水は、特殊な電気化学反応を応用した浄水システムなどによって生成されます。活性炭などを主成分としたフィルターを持つ簡易型浄水器とは異なり、生成された還元水は活性酸素を除去する弱アルカリ性を保ち、一般的に水に含まれるさまざまな有害物質を長期間にわたってろ過・吸着し、カルキ臭をも取り除いてくれるといいます。

 ただ、還元水自体は市販されていませんが、水道水から手軽に還元水をつくることのできる機器が登場し、家庭やオフィス、おいしい水にこだわる店などで普及しつつあります。
(日経新聞 2001/5月)


節水は自然にやさしい  先進地・福岡市の取り組み

 家で水をたくさん使えば、それだけ川や海を汚し、新たなダムも必要になる。逆に、一人ひとりが節水をすれば、自然環境を傷つける度合いを減らせる。その中での日本を代表する節水都市・福岡の取り組みを紹介する。

 ○古着使って皿洗い、78年の大渇水を教訓に

 「ごちそうさま」。はしを置くと、古くなったTシャツを小さく切った布で、家族みんなが皿の汚れをふき始める。あとはわずかな水で流すだけ。福岡市城南区の主婦上村幸子さん(44)宅の毎晩の光景だ。
 夫と高校生から小学生までの子ども3人と4階建て団地の3階に暮らす。ふろ水をポンプでくみ上げ洗濯に使うのはもちろん、トイレの貯水タンクに2リットルのペットボトルを入れ、水が余分に流れないようにする。
 米のとぎ汁はベランダの植木へ。再利用する牛乳パックなどは、すすぎに使った水で洗う。

 節水の原点は「福岡砂漠」と呼ばれた78年の大渇水だ。ふろの水をトイレを流すのに使ったのが忘れられない。
 「福岡ならだれでもやっている範囲。特別なことはしていませんよ。節水のコツは家族に嫌がられない程度に実践することです」
 市民グループ「和白(わじろ)干潟を守る会」の山本廣子代表の場合は、歩いて数分の距離にある野鳥の宝庫の干潟を汚したくないというのが節水の動機だ。家の排水は下水処理場に入り、黄色く濁って見える処理水となって干潟に流れ込む。「干潟と向き合って暮らしている以上、水のむだ遣いはできない」
 福岡市が毎年実施している市政アンケートによると、「節水を心がけていますか」の質問に「はい」と答える市民は7割を超える。過去20年間の最低でも66・2%だ。

 ○下水処理水は再利用

 節水の旗を振る行政もさまざまな手を使う。

 蛇口の内部に取り付けるだけで水の使用量を減らせる「節水コマ」を各家庭に無料で配った。普及率は95%以上。「4人家族で1カ月に10リットル入りバケツ約100杯分、節約できる」という。
 貯水タンクが小さい「節水型トイレ」も奨励した。ふつう1回で12リットル以上流れる洗浄水が10リットル以下に抑えられる。54万個余りが普及した。
 「節水教育」もある。市水道局は約20年前から小学4年生の社会科副読本を配る。約250万円で2万部。ほとんどの学校が浄水場や下水処理場へ見学に行く。
 水道局としても、配水管からの漏水事故を件数で30%程度減らした。流量計や水圧計を配水管に取り付け、データを集中管理することで、大きな漏水になる前に手を打つようにしたからだ。

 下水処理水をトイレの洗浄水や散水用に再利用するのも節水事業の柱だ。
 全国に先駆けて79年に始めた福岡市中央区の再生処理施設では1日6300トンの水を生産。官公庁、福岡ドーム、床面積3000平方メートル以上の大型商業施設など200余りの施設に送る。03年度には新たな再生処理施設から東部の副都心地区にも供給する。
 福岡市は市内に中小河川しか流れておらず、水源に恵まれない。流域が異なる筑後川から導水し、給水量の3分の1を頼っているほか、05年度には1日5万トンの水をつくる全国最大の海水淡水化施設が供給を始める。総事業費は約440億円にのぼる。

 ○水源難の松山・高松、見習う自治体続々と

 福岡市の節水の取り組みは、乏しい水源に苦しむ自治体のモデルケースになっている。「福岡市節水型水利用等に関する措置要綱」を策定し、水道局の「水管理センター」に主導させる節水構造の街づくりだ。
 松山市は94年の渇水後、市民向けの節水啓発ビデオを作って、その中で福岡市の節水対策を紹介。松山と福岡の家庭で水の使い方にどれだけ差があるかを示した。節水要綱の制定も検討中だという。
 高松市は福岡市を何度も視察し、福岡が先駆けた下水処理水の再利用に踏み切った。節水コマの無料配布も福岡にならった。「増える一方だった一人当たりの水使用量がここ数年、一定してきた」という。

 国土交通省によると、日本の年間降雨量は年々少なくなる傾向にある。67年の「長崎渇水」のころから、降雨量が多い年と少ない年の差が激しくなり、「不安定な気象で、渇水のおそれはつねにある」としている。78年の福岡渇水の後も、87年に首都圏で、94年には「列島渇水」と呼ばれる深刻な渇水があった。雨量が偏在する傾向は地球の温暖化が進めば、さらに強まるという。
 同省は福岡市の取り組みを「貴重なデータの積み重ね。日本中の自治体が見習うべき先進的なケース」と位置づける。

 ■福岡市が勧める節水方法

 (1)ふろをわかすときは適温適量で、間を空けずに効率よく入る。残り湯を洗濯やふき掃除、散水、洗車などに使うと約100リットル節約できる
 (2)油汚れのひどい食器はまず紙や布でふき取り、ため洗いをする。蛇口をこまめに開閉すれば1日約80リットルの節約に
 (3)歯磨きで口をすすぐときは水を出しっぱなしにしない。コップを使えば1人1回約5リットルの節約に

(朝日 2001/05/17)
水回り
おじさん


雄叫び

毒舌・戯言
 「節水」は、ひとりひとりの心がけが原点です。
 私達は、「物を大切に」ということを大量消費の奨励ブームのムードに押し流され、忘れ去ってしまったのだろうか。
 巷では、給水関係に対してはワイワイ言うが、排水関係については「ほおかむり」的なことが多い。

 「給水と排水」は、表裏一体の関係であり、これを無視した行政や施策は最後ほとんど破綻する。
 歴史的に見て、太古の昔から長く栄えた文明や国家は皆、「排水」関係を大切にしていた。果たして、
今の日本がそのような国家だと胸を張っていえるだろうか。
 「排水」を大事にせぬ国は早く滅びるという教訓を生かしたい。


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