水の給水館②  


水資源の危機

 地球の水の量はおよそ14億立方キロメートルと言われています。その97%が海水で残りの3%が淡水です。
 しかし、淡水の大部分は、南極・北極地域の氷で地下水や河川などの淡水は0.8%にすぎません。
 また、日本の年間降水量は、約1,714mm(昭和41年から平成7年の全国約1,300地点の資料を基に国土庁で算定)で日本全体では、約4,300億立方メートルの水量となります。そのうち、取水量ベースで農業用水約590億立方メートル,工業用水約138億立方メートル,生活用水約164億立方メートルで約891億立方メートルの水が利用されています。
 生活用水の使用量(平成8年)は約142億立方メートル(有効水量ベース)で対前年比0.8%増、1人一日平均使用量は、323リットルで対前年比0.4%増となっています。交互油用水の淡水使用量は、約544億立方メートル(有効水量ベース)で対前年比0.5%増、回収率は約77.4%で対前年比0.2%の上昇です。

 地球上のあらゆる生命を育んできた「水」。今、その「水」が生命をむしばむ悪者にされつつあります。安全でおいしくしかも健康に良いことが飲料水に求められる条件といわれてきました。しかし、すべての条件を満たす「水」は、清浄とされる日本アルプスの山間部でさえ確保できなくなってきつつあります。
 これは、火山活動などの自然現象による影響もあるでしょうが、やはり自浄作用限界を大幅に上回る汚染物質を排出し続けている人間活動が大きな原因と考えられます。(高木善之)

  アラル海の悲劇

 中央アジアにあるアラル海は、つい最近まで世界で4番目に大きな湖でした。湖面の面積では琵琶湖の100倍もありました。ところが1960年以来、水面が15メートルも低下し、面積が40パーセント小さくなりました。水量でいえば60パーセント以上も減少したことになります。
 その結果、毎年5万トンもとれていた魚が最近ではまったくとれなくなりました。また、塩害によって植物が育たず、農業生産が激減しています。アラル海では、湖の水が蒸発すると底に真っ白な塩分が残りますが、この塩分を含む砂が風によって巻き上げられ、広範囲の農業地帯に降り注いでいます。その量は年間7500万トンとも9000万トン以上ともいわれています。これは1平方メートルあたり1.5キロの塩をまいたのと同じです。さらに、この塩分には農薬や除草剤が含まれており、広範囲の生態系が破壊されています。
 人体にも影響が出ており、湖の周辺では、喉頭ガンが風土病のようになっています。また飲料水の汚染によると思われる貧血、チフス、肝炎、胆石、腎臓病、結核が高い割合で発生しています。

人間がアラル海を消滅させる 

 「あんなに大きな湖がこんなに短期間に姿を変えてしまうなんて、自然の力は本当にすごい」と思われた方も多いことでしょう。
 ところがわずか30数年でアラル海を変えてしまったのは、実は人間なのです。当時のモスクワ政府は、不毛地帯だったアラル海周辺を綿花地帯に転換しようとしました。この計画は、アラル海に注いでいたアムダリア川とシルダリア川という二つの大きな川の水を耕地の潅漑用水として使おうというものでした。
 初めのうちは計画通り、素晴らしい成果を上げることができました。これに味をしめた政府は、ますます綿を増産しようと潅漑施設を作り続けたのです。しかし綿を作るには大量の水が必要なため、とうとう川の水はアラル海に流れ込む前に使い尽くされてしまったのです。このままではあと20年でアラル海は消滅してしまいます。

 このような例はアラル海だけではなく、地球上のあらゆる所で見られます。また人為的な汚染によっても「水資源」が危機に陥っています。何十億年にも渡って生命を育んできてくれた「水」が、すでに安心して飲めなくなってきているのです。

地球上には水はどのくらいあるのですか?
大部分(97.4%)は海水であり、淡水の大部分(99%)は遠方の氷雪
利用可能な淡水は全体の0.01%(約9000立方キロメートル)
仮に1人1日1トンの水を使うならば250億人が生きられる。
しかし実際には日本人は(工業用水を含めて)3トン、アメリカ人は6トン
もし世界中の人が毎日3トンを使うと80億人、6トンならば40億人しか生きられない。
現状の世界の人口は60億人。先進国の現状の水消費はすでに破綻 
アフリカ人は10〜100リットル(先進国の1/100)
さらに、この水で人間だけではなくすべての生物が生きなければならない
水不足の現状はどうなっていますか?
1900年から人口は3倍、水の消費は6倍増加
過去20年で人口は18億人増加し、一人当たりの水は3分の1に減少
サヘル地方では雨量が減り、特に1980年以降100万人が餓死
現在人口の約1割(5億人)が極度の水不足に苦しんでいる。
また、慢性的な水不足に悩んでいる人は人口の1/4もいる。
干ばつ、地下水の水位の低下、湖沼の縮小、湿地の消滅が進行
生活排水、工場排水による汚染により利用可能な水が減少
今後の水不足の予測はどの様に報告されていますか?
人口増加とそれに伴う食糧増産、さらに工業化と経済発展に伴ってさらに激しいペースで水需要が増加
中近東、中国、中央アジア、アフリカ諸国では向こう25年間で人口が倍増、水供給が破綻する
アフリカ諸国、エジプトなど複数の国が一つの水源に依存している地域では武力衝突が起きる
地球温暖化は水不足に拍車をかける
雨量の減る地域は水不足、雨量の増える地域も洪水により水不足が生じる
2025年には世界人口の2/3が水不足(97年、国連SD委員会)
水不足の原因は何ですか?
工業化により工業用水の急増
生活レベルの向上により生活廃水の急増
開発による水源(森林、湖沼、河川)の破壊
都市化(水田の消失、アスファルト化、護岸工事)による水源の破壊
ダムは水源を破壊する
ダムは水源に大きなダメージを与え長期的、総合的にはマイナスとなることから、アメリカなど先進国ではダム建設は禁止または非常に難しい
インドでは過去40年間に1600万人がダム建設のために難民になり、中国でも300万人が住みかを失った。三門峡ダム建設のために30万人が強制移住させられたがダムは2年で土砂で埋まってしまった
水質の汚染の現状はどうなっていますか?
水不足に加え、水の汚染も重大な問題
河川や湖沼、地下水などの水源の汚染、海洋汚染
原因は工業排水、生活排水、農薬、原油流出、有機化合物
工場排煙、自動車排気ガスなどの大気汚染や酸性雨が水源
を汚染する
今後重大な問題である核廃棄物(原発や核ミサイルの廃棄物)
私たちはどのようにすればいいのでしょうか。
水の危機(水を汚染しムダ使いしているのが自分であること)を知ること
徹底した節水、4R(やめる、減らす、再利用、リサイクル)が基本
風呂、洗たく、水洗トイレ、洗面、炊事、洗車、庭の水まきの見直し
○ お風呂は毎日必要ですか?お風呂に入るのは世界の2割の人だけ
○ 洗たくは毎日必要ですか?世界の8割の人は身体も服も川で洗う
○ 石けんやシャンプーは必要ですか?世界の8割の人は石けんは使わない
○ 洗車は必要ですか?ヨーロッパではほとんど洗車はしない
○ トイレは毎回流さなければなりませんか?工夫すれば1/3にできます
※「水道代10倍値上げ」と考えればアイデアがたくさん湧いてくるのでは?
水を汚さない
次のものを流すと何倍に薄めないと魚は生きられないでしょう?

マヨネーズ⇒24万倍、てんぷら油⇒20万倍、醤油⇒3万倍、
ビール⇒1万6千倍、牛乳⇒1万5千倍、味噌汁⇒7000倍、ラーメン汁⇒5000倍、コーヒー⇒1000倍、米のとぎ汁⇒600倍

日本の水資源はどのくらいあるのですか?

 水資源のもとは降水です。わが国は、アジアモンスーンに位置し、年平均の降水量は1714mmで世界でも有数の多雨国となっています。しかし、人口1人あたりの年降水総量では、世界平均の約27000m3/年・人に対し、わが国は約5200m3/年・人で世界平均のおよそ1/5にすぎず、必ずしも水資源が豊富であるとはいえません。
 一方、国内でも地域によって水資源の量は大きく異なります。降水量から蒸発散によって失われる量を差し引いた量に地域の面積をかけた値を、その地域の「水資源賦存量(m3/年)」といいます。
 水資源賦存量、とくに人口1人あたりのそれは、地域によって大きな差があり、最も多い北海道の10199m3/年・人は最も少ない関東臨海の430m3/年・人の24倍にもなっています。なお、注意しなければならないのは、水資源賦存量がすべて水資源として利用できるものではないということです。 水資源賦存量は降水のうち地上に残った部分ですが、全部が貯えられているわけではなく、川の水や地下水となって時々刻々、海に流れ込んでいます。したがって需要量を上回る部分は使われることなく海に戻っていきます。水資源賦存量が、実際に利用できる水資源になるには、降水が水の需要に応じた降り方をするとか、大地に降水を長く貯えておく力を確保する必要があります。
 
しかし、不幸なことにわが国では雪国を除くと、降水の約半分が梅雨と台風により集中的に降り、かつ、山が多く地形が険しいので、降った水は流れ出すのが速いのです。そのため、水資源賦存量のうち大部分は利用されることなく洪水として流れ去ってしまい、実際に利用される水資源の量は、賦存量の数分の一程度となる場合が少なくありません。この傾向は流出時間の短い中小河川流域でとくに著しく、降水量が平均を上回る北九州や沖縄で、渇水がたびたび起こるのはそのためです。
 日本の川の流域では数百mmの降雨があっても、数日でその大部分が海に戻ります。これに対して、ヨーロッパの川では地形がなだらかなことと、雨がおだやかに降ることもあって、降った雨は大部分がいったん地中にしみ込んで地下水となってゆっくり川に流れ出しますので、川の水は年間を通して平均的に流れ、日本の川のように極端な変化はしません。
年降水量では世界的にも多雨国に属するわが国が、人口1人あたりの降水総量では世界平均の1/5、さらに有効に利用できる水資源となると、またその数分の一となっていることに、とくに留意する必要があります。
 ダムをつくって洪水をためたり、植林をして降水の流出を遅くしたりすることは、無駄になっている水資源を有効に活用するための対策のひとつなのです。
水はどのように使われているのですか?

人間の活動は水なくしては成り立ちません。私たちが使う水は用途別に次のように分けられます。
 水の使われかたを地域別にみてみましょう。前話で示した「水資源賦存量」と水使用実績の比で考えれば地域の違いがわかります。関東地方では「渇水年」の水資源賦存量の約70%が使用されているのに対し、北海道では13%程度しか利用されていません。水資源賦存量のうちどの程度を水資源として利用できるかは地形、地質、雨の降り方などの影響を受けますので一概にはいえませんが、東北や北海道に比べ関東や近畿の水需給(水の需要と供給のこと)がきわめて差しせまった状態にあることは確かです。次に各用途別の水の使われかたについてみてみましょう。
  「
生活用水」の使用量は気候、生活様式、経済社会活動の違いによって変動します。生活用水の使用量は気温の高い夏に多く、気温の低い冬には減少する傾向があります。また、1人あたりの平均の使用水量は人口の多い大都市ほど多くなっています。これは大都市ほど事業所、官公庁、デパート、ホテル、病院、駅などの都市活動を行うための施設が多くなり、これらの施設で使用する水量の割合が大きくなるためです。また、生活用水の使用量は生活水準のバロメータといわれるように、1人1日平均の使用量は時代とともに増加してきており、昭和40年(1965年)に169リットル/人・日であったものが、平成元年(1989年)には、325リットル/人・日とほぼ倍増しています。
 「工業用水」として使用される淡水の総量は、新たに川などから取水される淡水補給量と繰り返し使用される「回収水量」の合計であり、また水を多く使う業種は化学工業、鉄鋼業およぴパルプ・紙・紙加工品製造業の3つで、この3業種で全業種の使用量の70%程度を占めています。
 「農業用水」は用水需要のほぼ2/3を占めますが、水田灌漑用水は大半が川に還元されるため大きな川の流域では反復利用ができ、灌漑によって実質消費される水の量は取水量に比べてかなり少なくなります。また水田灌漑用水は「土壌保全」や「地下水涵養」などの機能をもつほか、気候調節や景観の保全など「環境用水」としての役割も果たしています。

   より詳しく説明すると
工業利用
 先進国の経済は、大量生産、大量輸送、大量消費、大量廃棄で成り立っています。製造業などあらゆる産業は、大量生産するために大量の水を消費しています。
 例えば、1キロの紙をつくるのに700キロ、1トンの鉄鋼をつくるのに280トンの水を使います。このため生産量が増えるほど、より大量の水が河川や地下からくみ上げられ、また排出されるようになりました。その結果、地下水の使いすぎによる地盤沈下や廃水のたれ流しによる河川の汚染が問題となったのです。
 最近では、中国や東南アジア、中南米などの発展途上国で、かつての先進国が体験した以上の大変な汚染に苦しんでいます。この傾向は、現地の経済発展にともなってますます強まっています。

農業利用
 これまで何回も出てきましたが、潅漑用水の使いすぎによって世界中の水資源が枯渇しつつあります。河川がダメになれば表層の地下水を、表層の地下水が無くなれば化石帯水層の地下水を・・・と、いったい人間の欲望はいつまで続くのでしょうか。
農場の多くは、生産性を上げるために農薬や化学肥料を使っています。この農薬や化学肥料が河川や地下に流れ込み、貴重な淡水資源を汚染しています。もちろん海も汚し、有害物質が魚介類に蓄積しています。そしてそれを食べた人間に被害が出ていることはいうまでもありません。

水田が減ると淡水資源が失われる
 今、日本では水田の面積がどんどん減ってきています。1960年頃は300万ヘクタール以上あった水田が、今では200万ヘクタール前後にまで減少しました。これは、1969年から実施されている減反政策によるものです。実は、100万ヘクタールの水田が消えたことで40億トンもの淡水が失われたのです。これは貯水量6億トンクラスの日本最大級のダムが7つ失われたことに相当します。
 水田は、梅雨時に降った雨を蓄える立派なダムなのです。7つのダムを建設すれば、膨大なお金がかかりますし、そのためにどれほどの自然が破壊されるかわかりません。
 そのかけがえのない天然のダムである水田を生産調整という名目だけで減らしているのが現実です。さらに1991年の生産緑地法の改正で、都会の多くの水田が失われつつあります。試算によると、都市内農地の70パーセント以上が宅地などに変わってしまうということです。
 この30年間に日本では、農地の造成のために毎年約3万ヘクタールの自然環境を破壊し、その一方で、毎年約6万ヘクタールにおよぶ農地を宅地などに転用してきました。これはいったい、誰が何のために押し進めているのでしょうか。
 これからは、水田を米の生産地としてだけではなく、平地にある巨大なダムとして見直す必要があります。我が国の河川に建設された洪水調節ダムは、専用が80基、多目的用が414基あり、洪水調整総容積は24億トンといわれています。これに対して、水田の洪水調節能力は68億トンにも達し、ダムの3倍近くもあるのです。
ちなみに、日本の森林地帯の洪水調節能力は、ダムの20倍近くに相当する444億トンもあるといわれています。
このような意味で、水田や森林地帯は「緑のダム」と呼ばれているのです。



毎日の水
 水はかけがえのない資源です。
そして、私たちはほんのなにげないところでも、実にさまざまな形で水とふれあって暮らしています。
 では、一体どのくらいの水が使われているのでしょうか。
 ここで改めて見直してみると、水に大きく依存している、私たちの生活が浮かびあがってきます。

表の数値は、日頃の使用水量がどの程度のものかを分かりやすくするために掲載したもので、一般的な量の目安としてご覧ください。
【水の量】 水の容量は、一般的に1立方メートルまたは1m3であらわす。
 ただ、水の場合の1立方メートルは約1トン(1000kg)の重さなので略して1トンと呼ぶことが多い。
● 1m3(立方メートル)=1,000L(リットル)=1,000,000cm3(立方センチメートル、またはml、c.c.)
● 1L(リットル)=1,000cm3(立方センチメートル、またはml、c.c.)


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