水の科学・化学館⑤ 水の環境問題 その① 


(総括)の環境問題 かんきょうもんだい Environment

 地球上の生物がすんでいるごくうすい層を生物圏という。生物圏は地球大気、土壌、水、生きている有機体などからなる。
今のところ知られているすべての生命は、この生物圏以外で生存することはできない。宇宙空間に進出した人類にしても、生存するために必要な物資はすべて地球からはこびださなければならない。
 もともと環境という言葉は、生物圏全体をさすものではない。
環境という漢語はもちろん、environmentという英語も、近代にはいってからは、ある生物が生きていくのに関係する要素と条件をそなえた外界、というほどの意味につかわれてきた。したがって、地域環境とか国土環境といった表現もできるし、モグラにとっての環境という使い方もできる。
 今日、人類の活動はほとんど極大に達し、生物圏全体にとっても無視できないほどの影響力が生じている。そうなってはじめて、われわれは地球環境の精妙なバランスやもろさに気づくことになった。火をつけることに魅せられた幼児はあやまってやけ死ぬ前に、火の力を利用する賢さを身につける必要がある。人類にあたえられた力は、ほしいままにつかいつくすためにあるのではなく、長い将来にわたってより多くの生物が生きのびるためにある。

環境の構成要因
 大気は地球を過剰な量の紫外線からまもり、そのおかげで生物は生存できる。大気は窒素、酸素、水素、二酸化炭素、水蒸気そのほかの元素や化合物、粉塵などで構成される混合気体である。
 太陽と地球からの放射エネルギーによって熱せられた大気は
地球の周りを循環し、温度差を緩和する。地球の水のうち、97%は海洋、2%は氷、1%は河川、湖沼、地下水、そして大気や土壌に水分としてふくまれる淡水である。
 土壌は地球の表面をおおううすい層で、陸上生物に生息場所を提供する。
土壌は気候、氷河による漂れき土や堆積岩などの母材、および植物からつくられる物質である。人間をふくむ、地球上に生息するあらゆる有機体はこれらすべてに依存して生きている。
 植物は、水、二酸化炭素、日光を
つかって、これらの原料を光合成によって炭化水素にかえる。次に動物はこのような植物に依存して生きる(→ 食物連鎖)。
 地球は、その長い歴史をとおしてゆっくりと変化してきた。大陸移動(→ プレートテクトニクス)は大陸を分断し、海洋は陸への侵入と後退をくりかえし、山は隆起しそして風化して、堆積物を海の沿岸に沈積させた(→ 地質学)。気候は温暖になったり寒冷になったりをくりかえした。こうした環境の変化とともにさまざまな生命があらわれそして消滅した。
 地球の歴史上、環境にかかわる最近の大きなできごとは、第四紀の氷河時代として知られる更新世(洪積世ともいう:170万年前から1万年前まで)におこった。亜熱帯性気候は破壊され、北半球の様相はつくりかえられた。氷床は北アメリカで4回、ヨーロッパで3回、前進と後退をくりかえし、気候は寒冷と温暖の間をゆれうごき、動植物に影響をあたえ、最後に現在のような環境をつくりだした。更新世につづく時代は現世、後氷期、完新世とよばれる。この時代には、地球環境は多少とも安定をたもってきた。

   環境問題
 ホモ・サピエンス、つまり人類という種が地球の歴史に登場したのはおそかったが、人類はその活動によって地球の環境をかえることができた。
 人類が最初に出現したのは、アフリカであると考えられるが、たちまち世界じゅうにひろがった。
人類はそのユニークな精神的および肉体的な能力により、ほかの種がこえることのできなかった環境上の束縛からのがれ環境を自分たちの必要にあわせてかえることができた。初期の人類は明らかに、他の動物と同じく環境とほぼ調和した生活をしていたが、先史時代の最初の農業革命とともに人類は野生から脱却しはじめた。
 人類は火を制御し使用する能力によって自然の植生を改変したり、とりのぞいたりできるようになった。人類による草食動物の家畜化と牧畜は過剰放牧や土壌の浸食をまねいた。また、植物の栽培も自然の植生破壊につながった。作物のための空間へと自然の植生を改変したからである。燃料のために山の木が切られ、森林は木材として伐採された。野生動物は食物源として殺され、作物の害獣として、そして家畜をおそう捕食者として迫害された。人口が少なく、人間の技術がまだつつましかった時代には、環境への影響もまだ局地的であった。だが、人口が増加し、技術改良がすすみ、拡大するにしたがって、より重大で、より広範な問題があらわれはじめた。
 中世以後の急激な技術の進歩は、産業革命で臨界点に達した。産業革命は、化石燃料の発見、使用、最大限の利用や地球の鉱物資源の広範囲な利用をともなった。産業革命とともに人間は本格的に地球の様相、大気の性質、水質をかえはじめた。今日では急速な人口増加と技術の進歩によって、環境への需要はかつてないほど大きくなり、そのために環境の質および生物を維持する能力はますます急速に低下しつづけている。

二酸化炭素
 化石燃料の燃焼が地球環境におよぼした影響のひとつは、大気中の二酸化炭素(CO2)の増加である。大気中の二酸化炭素量は過去においては何世紀にもわたってほぼ260ppmのレベルで安定していたが、最近の100年間に350ppmまで増加した。
 この変化が問題なのは、二酸化炭素が「温室効果」によって地球の温度をあげる可能性があるからである。大気中の二酸化炭素は、波長の長い放射エネルギーが地球から宇宙空間にむかって放出されるのをさまたげる。より多くの熱が生産され、宇宙空間に放出される熱が少なくなれば、地球の温度は上昇し、海水面の上昇など、重大な環境変化をまねく。地球温暖化は、さらに大きな影響をあたえる可能性がある。やがて地球規模の気候変動をおこし、自然の植生をかえ作物生産に影響をおよぼすと考えられる。これらの変化がおこれば、人類の文明にはかりしれない打撃をあたえるであろう。
 二酸化炭素濃度が現在のように上昇し、「温室効果」がつづけば、温度は上昇しつづけ、21世紀中ごろには2〜6ーC上昇すると予想する学者もいる。しかし、気候変化の影響変化を調査する学者たちの中には、地球温暖化説に異議をとなえ、最近の温度上昇を正常な気温の変動幅にあるとする学者もいる。

酸性降下物 
 酸性降下物も化石燃料の燃焼と関係している。
 これは火力発電所や自動車からでる二酸化硫黄や酸化窒素の大気中への放出が
原因でおこる。これらの化学物質は日光、水分、オキシダントと反応して硫酸や硝酸を生じる。これらの酸は大気の循環とともにはこばれて、雨や雪とともに地球に降下する。ふつう酸性雨とよばれる現象である。酸性雨は地球にとって大きな問題である。
 北アメリカ北部やヨーロッパの降水の酸性度は、食酢に相当するほど高いことがある。
酸性雨は金属を腐食し、石造の建築物や記念碑を風化させ、植物に害をあたえたり枯死させたり、湖沼や河川や土壌を酸性化する。とくに北アメリカ北東部やヨーロッパ北部のように、酸性を中和する作用にとぼしい地域では被害がいちじるしい。これらの地域では、湖沼の酸性化によって、いくつかの魚種が全滅した。現在、アメリカ合衆国南東部と北アフリカ中央部でも問題になっている。酸性雨は、森林の成長をおくらせることもある。北アメリカとヨーロッパの高地では、この現象は森林の衰退とともにみられる。

オゾン層破壊
 1970年代と80年代に、人間の活動が地球のオゾン層に有害な影響をおよぼしてきたことが明らかになりはじめた。
オゾン層とは、太陽光がふくむ有害な紫外線から地球上の生物をまもる大気の層である。厚さが約40kmほどで、オゾン層なしでは、どのような生命も地球上に生存できない。
 調査によって、オゾン層がフロンとよばれる化学物質の使用増加によって破壊されてきたことがわかった。この物質は、冷却、空調、クリーニング溶剤、半導体の洗浄、包装材料、エアゾルスプレーなどにつかわれる。フロンの副産物である塩素は、酸素原子3つで構成されるオゾン分子から酸素原子1つをとりさり、一酸化塩素となる。この作用によってオゾンは破壊される。次にこの一酸化塩素は酸素原子と反応して酸素分子を生じ、塩素分子を遊離する。遊離された塩素はふたたびオゾン分子を破壊する。
 最初のころは、オゾン層は地球全体で徐々に消失していたのではないかと考えられていた。しかし、1985年におこなわれた調査から、オゾンホールの拡大は、南極上空に集中していることが明らかになった。この地域上空のオゾンの50%以上が季節的に(毎年10月にはじまる)消滅していたのである。
 オゾン層がうすくなると、地球上の生物は過剰な紫外線放射にさらされる。その結果、皮膚癌(がん)や白内障が増加し免疫力が低下し、植物の光合成が阻害され、海洋の植物プランクトンの増殖に影響がでるという。
 環境へのこうした危険な影響の脅威は高まる一方で、多くの国が少なくとも2000年までにフロンの生産と使用を禁止する方向にある。しかし、一度放出されたフロンは、大気中に100年以上とどまるので、オゾン層破壊はさらに何十年も地球環境をおびやかしつづけるであろう。

有機塩素系殺虫剤

 害虫駆除のために、塩素化炭化水素を原料とする合成殺虫剤が広範囲につかわれている。これが環境におそろしい副作用をもたらしている。
 こうした有機塩素系殺虫剤は持続性が高く、生物学的分解に対する
抵抗力が強い。水に比較的とけにくいため、植物組織に付着し、土壌、河川や湖沼の水底の泥、そして大気中に蓄積する。いったん蒸発すると世界じゅうにひろがり、農地からはるかはなれた野生地帯を汚染し、それどころか南極や北極地方すら汚染する。
 これらの合成化学物質は自然界にはみられないにもかかわらず、食物連鎖の中にはいりこんでくる。殺虫剤は草食動物に食べられるか、あるいはじかに皮膚をとおして魚やさまざまな無脊椎動物の体に吸収される。殺虫剤は草食動物を介して肉食動物に達する間に、ますます濃縮される。こうして、食物連鎖の最後に位置するハヤブサ、ハクトウワシ、ミサゴのような動物の組織の中で高濃縮される。有機塩素系殺虫剤は鳥のカルシウム代謝を阻害するので、卵の殻がうすくなり、鳥は繁殖できなくなる。この結果、何種かの猛禽(もうきん)類や魚を食べる鳥は絶滅寸前においやられている。
 殺虫剤が野生動物と人間の両方にとって危険であることがわかったため、また昆虫がますます殺虫剤への抵抗力をもつようになったため、DDTなどの使用は先進国では急速にへっている。それでいて、開発途上国にはいまでも大量に輸出されている。
 1980年代には、ハロゲン化殺虫剤EDB(二臭化エチレン)
も潜在的な発癌物質として大きな問題となり、ついに禁止された。ポリ塩化ビフェニール(PCB)類はDDTに近い一群の化合物である。PCBは長年にわたって工業生産につかわれて最終的には環境にはいりこんできた。これらの物質が人間や野生動物にあたえる影響は殺虫剤のそれと似ている。毒性がきわめて高いために、PCBの使用はいまでは変圧器やコンデンサーの絶縁体にのみ使用が制限されている。
 日本では、カネミ油症事件などによりはやくから問題視されたために、1972年から生産・使用ともに禁じられている。DDTと関連のあるもうひとつの化合物群に、毒性の高いダイオキシン類、がある。なかでももっとも有毒なのが、PCDD(ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ダイオキシン)である。PCDDは、木材や紙の防腐剤や除草剤に不純物としてみられることがある。ベトナム戦争で広範囲にもちいられたエージェント・オレンジという枯葉剤も、ダイオキシンをふくんでいる。

その他の有毒物質

 有毒物質とは化学物質や化学物質の混合物で、その生産、加工、配達、使用、廃棄が人間の健康や環境に不当な危害をおよぼす物質である。こうした有毒物質のほとんどは合成化学物質で、環境にはいりこむとひじょうに長い期間、存在しつづける。
 有毒物質の濃縮はたいてい化学物質の投棄場所でおこる。土壌や水にはいりこめば、水道水、空気、作物
家畜を汚染して、人間の出産異常、流産、器質性疾患にも関係してくる。危険性が知られているにもかかわらず、問題はへっていない。
 最近の15年間に400万種類以上の新しい合成化学物質が生産されており、現在も毎年500〜1000種類の新しい物質がつくられつづけている。危険な化学物質の生産や使用を、防止または規制するために、アメリカ合衆国議会は1976年に有毒物質規制法を通過させたが、この法律の施行はすすんでいない。80年に議会は、総合的な環境負荷に対する補償・賠償責任法(CERCLA)を可決した。この法律は、有毒物質を放出する工場などの跡地の清浄化のために、いわゆる特別基金を設立した。

  放射能  
 大気中で核実験をする国はなくなってきたが、放射性降下物の大きな発生源である核の放射能の除去はいまだに大きな問題である。
 原子力発電所からはつねにある程度の量の放射性廃棄物が、大気や水に放出されているが、もっとも危険
なのは原子力発電所事故の可能性である。
 1986年にウクライナのチェルノブイリの原発事故でおこったように、大量の放射能が環境に放出される。実際にソ連(USSR)崩壊以来、核事故や核廃棄物によるこの地域の汚染がそれまで考えられていたよりもはるかに広域であることが、世界じゅうに明らかになった。原子力産業が直面しているもっと大きな問題は、核廃棄物の貯蔵である。核廃棄物はそれぞれのタイプに応じて700〜100万年間も放射能をもつ。このような地質学的規模にわたる長期間、安全に貯蔵できるかどうかはうたがわしい。こうしている間にも核廃棄物は蓄積し、環境の安全をおびやかしているのである。

野生地帯の縮退
 増加をつづける人類は、わずかにのこっている野生地帯にも侵入しつつある。人間による搾取からは安全だと、かつてはみなされていた地域にさえ人間の手がのびている。
 エネルギーへのあくことのない需要は、石油と天然ガス獲得のために
北極地方の開発をおしすすめ、ツンドラの生態系とそこの野生動物の微妙な生態的バランスがおびやかしている。熱帯の原生林は、とくに東南アジアとアマゾン川流域で、森林伐採のためや、農地や牧草地、パイナップルのプランテーション、入植者への土地転換のためにおそろしい速度で破壊されつつある。
 1980年代のある時点でおこなわれた推定によると、熱帯林は1分間に20haの割合で破壊されており、別の推定ではこの速度は1年間に20万km2以上であるという。93年の人工衛星の調査では、アマゾン川流域だけでも1年に15000km2の森林がうしなわれているというデータがでている。
 このような熱帯原生林の開拓によって、75万種もの生物が絶滅したという。
これは、さまざまな食料、繊維、医薬品、染料、ゴム、樹脂などをえる機会がうしなわれたということでもある。さらに、アフリカにおける農地や放牧地の拡大、野生動物や野生動物製品の不法取引によって、アフリカの大型哺乳類が絶滅する可能性もある。北アメリカでは、太平洋岸北西部の原生林での木材伐採、露天掘りでの採鉱、都市化やリゾート地開発の手がのびて野生地域の未来がおびやかされている。

土壌浸食

 土壌浸食はあらゆる大陸で速度をましており、その結果世界の農地の5分の1から3分の1がうしなわれつつあり、食料供給は重大な脅威にさらされている。第三世界では食物と薪(まき)への需要増加にともなって、森林伐採や急斜面の耕作がおこなわれるようになり、それがひどい土壌浸食をまねいてきた。
 この問題に追い討ちをかけるように、本来の農地が工業用地、ダム、都市の膨張、高速道路のためにうしなわれている。さらに土壌浸食と農地や森林の消失によって、土壌の保水能力が低下するとともに、河川、湖沼、貯水池には浸食された土砂が堆積する。

水と空気の需要
 土壌浸食のために、世界じゅうで水問題が深刻化している。水問題のほとんどは、世界の半乾燥および沿岸地方でおこっている。
 急激な人口増加は灌漑や工業用水を必要とし、そのために地下の帯水層の水がいちじるしくうしなわれる。
その結果、たとえばアメリカ合衆国の沿岸地方、イスラエル、シリア、アラビア湾沿岸諸国では海水がそこに侵入している。内陸地域では、多孔質の岩や堆積物から地下水が揚水されたためにこれらが収縮し、その結果地盤沈下がおこっている。水質と水供給の低下も世界じゅうでおこっている。
 世界全体で、地方住民の約75%と都市住民の20%は汚染されていない水を即座にえることができない。多くの地域では、供給される水は有毒な化学物質や硝酸塩に汚染されている。1980年代および90年代の初期にアメリカ合衆国は鉛などの粒子状物質と有毒化学物質を減少させることで、大気の質を改善したが、二酸化硫黄や酸化窒素といった酸性降下物の先駆物質の排出はそのままである。東ヨーロッパや旧ソ連の多くの地域では、大規模な大気汚染がおこっている。
環境保護運動  
 アメリカ合衆国を例にとると、環境運動は19世紀後半にはじまった。
 バイソンの大量虐殺に対する運動を機に、国内の野生
生物遺産をまもる運動がはじまり、1864年にG.P.マーシュが「人間と自然(Man and Nature)」を出版すると、世界規模ですすみつつある環境破壊が注目されるようになった。マーシュはこの本で、人類が地球規模での、しかも多くは持続的で破壊的な変化を、環境にもたらしていることを力説した。破壊された環境を自然に回復させるか、あるいは人間が手をいれるか管理するかして復元させるべきであると、マーシュは主張した。
 マーシュの考えをとりいれたのはセオドア・ルーズベルト大統領、そしてとくにアメリカ合衆国森林保護局の初代長官ギフォード・ピンショーである。2人はアメリカ合衆国西部の広大な森林と牧草地を樹木保護のために特別に指定して将来の使用と発展のためにそなえようとした。2人の立場は、シエラ・クラブの創設者で自然保護運動家のジョン・ミュアーの立場とは対立した。ミュアーは、森林地帯は現在と未来において、それ自体のもつ審美的な価値のゆえに、手つかずでのこされるべきだと主張した。この2つの考え方は、老成森の維持や自然保護区域の指定をめぐる論争でみられるように、今日でも対立している。
 1930年代の干ばつと環境災害をきっかけに、連邦政府はフランクリン・ルーズベルト大統領のもとで、大規模な環境の保全と保護にのりだした。この政策のひとつは土壌保全局の設立で、土壌浸食の減少と、過去において濫用された土壌の改良を使命とした。また失業者に植林、林道や公共地域でのレクリエーション地帯建設などの職をあたえる、民間資源保存局が組織された。さらに、農地の保護措置を財政的に管理した農業安定保全管理局の設置もこの政策のひとつである。1960年代と70年初めには、アメリカ合衆国市民のひろい層が、空き地や野生地帯が急速に少なくなりつつあることに気づきはじめた。
 生物学者で作家のレイチェル・カーソンは著書「沈黙の春(Silent Spring)」(1962)で、自然保護区と 野生動物のすみかを指定するだけでは、環境汚染の影響からまもることにはならないことをしめした。カーソンはまた、生物資源、環境汚染、人間の健康の間に緊密な関係があると主張した。

地球サミット
 1992年6月に「環境と開発に関する国連会議」、通称地球サミットが、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロ郊外で12日間にわたって開催された。地球サミットは環境、経済、政治における変化をめぐって、幅ひろい行動計画を提唱し、採択した。
 この会議の目的は、長期的な環境改革を確認し、国際的な行動と監視にむけて作業を開始することにあった。本会議では、環境についての議題の討議と採択がおこなわれた。本会議で討議されたおもな項目は、気候変動、生物学的多様性、森林保護、アジェンダ21(環境発展ための900ページからなる青写真)、リオ宣言(経済開発に環境を統合することを提唱した6ページからなる声明)などである。
 地球サミットは大きな意義をもつ、歴史的なできごとであった。
この会議によって環境が世界の行動計画において優先権をえただけでなく、178カ国の代表が参加して、国連会議史上もっとも大規模な会議となったからである。

日本の環境行政
 日本でこうした環境問題が一般に知られるようななったきっかけは、1950年代から60年代にかけて次々に発見された四日市ゼンソク(四日市)、イタイイタイ病(富山)、水俣病(熊本、新潟)などの深刻な公害病であった。
 それらは、戦後の日本がおいもとめた経済の高度成長のマイナスの結果であり、地域住民の健康や生活環境また自然環境を無視した巨大な地域開発、工業開発がもたらした重大な社会的コストであった。
 公害病は国の産業政策と厚生行政にも重大な反省をせまるものであり、日本の公害行政と環境行政の出発点となったのである。
1967年の公害対策基本法の制定は不十分ではあったが、ともかく、国民の健康を保護することが政府の第1の責任であることが確認されたのである。71年には政府レベルの責任主体として環境庁が設置されている。
 しかし、日本の環境行政は、その後かならずしも理想的にすすんだわけではない。1996年に解決をみるまでの水俣病の認定をめぐる、患者団体と政府との交渉と対立、自動車排気ガスによる大気汚染を解決するための窒素酸化物の規制をめぐる、政府と産業界との対立や政府部内の見解の不一致、さらに環境影響評価(環境アセスメント)法案をめぐる議論は、環境行政のその後の歩みをよくしめすものである。

環境アセスメント
 環境アセスメントとは、特定の事業が環境にどのような影響をおよぼすのかについて事前に調査と分析をおこなうことである。
同時に、複数の計画案(代替案)を比較検討し、環境にもっともふさわしい計画を選択することを意味する。
アメリカ合衆国では、1969年に「国家環境政策法」が制定された。これによって、連邦政府の主たる事業が事前調査を義務づけられている。各州や都市自治体も類似の規制をもつ。
 日本でも、アメリカに刺激されて80年に法案がつくられたが、3年後には国会で成立せずに廃案となった。その結果、国レベルの事業については、法律の代わりに「環境影響評価実施要綱」という強制力のない方法で事前評価を実施することとなったのである。この点については、むしろ、自治体のほうが先行しており、76年にいちはやく条例をつくった川崎市をはじめ、多くの自治体が自ら条例や要綱をつくって地域環境の保全にとりくんでいった。
 環境アセスメントについて注意すべきことは、何を評価するのかということである。日本の評価の仕方は、一般に計画されている事業が自然環境や文化財など、物理的な環境にどのような影響をあたえるかを重視しているといわれる。
これに対して、アメリカ合衆国では地域社会や、その中の住民の生活など、社会的・経済的な側面でどのような影響が
でるかに、より大きな関心をよせているといわれる。このことは、今後日本で、環境という言葉をよりひろい意味でとらえる必要があることを示唆している。

環境基本法

 こうした環境問題をめぐる行政の取り組みは、近年、さらに新しい段階にはいっている。1993年の環境基本法の制定はその節目である。この基本法は公害対策基本法にかわるもので、21世紀の地球環境の保全を目的として、国、自治体、事業者、国民それぞれがなにをなすべきかについて、基本的なことがらをさだめたものである。
 その中には6月5日を「環境の日」とすることや、政府がどのように責任をはたしているかについて、毎年、年次報告(環境白書)を国会に提出しなければならないことを義務づけたりするなど、新しい発想による規定がふくまれている。また、環境の保全に関する教育と学習の重要性を指摘している点も新しい。環境アセスメントについても、これを推進することの必要性を確認している。政府のこのような取り組みに並行して自治体のレベルでも新しく環境基本条例を制定するところがふえはじめている

将来の見通し
 未来における環境の見通しは複雑である。経済的および政治的情勢は変化しているが、環境についての関心や懸念は依然として高い。
 大気の質は改善されたが、酸性雨、フロンとオゾンホール、東ヨーロッパのひどい大気汚染の問題
はいまだに解決策と協力活動を必要としている。酸性降下物が減少するまで、北方の湖沼や河川では水生生物がうしなわれつづけるであろうし、森林の成長も影響をうけるであろう。
 水質汚染は、人口増加が環境にさらに付加的にストレスあたえるにつれて、ますます大きな問題となるであろう。
有害廃棄物の地下帯水層への浸透と、海水の沿岸淡水帯水層への浸入もいまだ阻止されていない。
アメリカ合衆国や世界のそのほかの地域でおこっている帯水層の損失とますます大きくなる水需要によって農業、工業、都市の水の使用は利害が衝突しあうことになるであろう。水不足のために水の利用制限は不可避となり水消費のコストも高くなるであろう。
 水は21世紀にはいって、「水ショック」をもまねきかねない。
沿岸水域と淡水域の汚染は、乱獲とあいまって漁業資源を大量に枯渇させたため、資源を回復させるには、5〜10年の間漁業を停止することさえ必要になりかねない。生息場所をすくい、密猟や野生動物の不法取引をへらすための協力活動なしには、多くの野生動物の種は絶滅してしまうであろう。
いかに土壌浸食をふせげるかの知識はあるにもかかわらず、いまだにこれは世界全体の問題である。
それは主として、あまりに多くの農場経営者や開発側が浸食防止に無関心だからである。熱帯であれどこであれ、野生地帯の破壊がこのままつづけば、大量の動植物の絶滅を最終的にまねくであろう。環境破壊をくいとめ、人間の生息場所をすくうために、社会は環境が無尽ではないことをさとらなければならない。
 環境保護論者によれば、人口がふえ、人々の要求も増加するにつれ、たえず経済成長をつづけるというこれまでのような考え方をすて、環境をより理にかなった形で利用しつづける道しかのこされていない。それも、人類の行動すべてを、劇的にかえることによってのみ可能であるという。人間による環境破壊は、地質時代における地殻の大規模な隆起に匹敵するといわれる。たえまない成長に対する社会の態度がどうであろうと、この環境破壊が人間そのものの生存をおびやかすのだということを人類は認識すべきなのである。

について かわ River
 雨や雪などの降水が高地からながれでて、最終的に湖や海へ達する水の総称。水源となる湧水や支流があつまって ひとつの川をつくる。大きい川の場合、支流に別の名がつけられることもある。

流路
 川の流路とは、水源から河口までをいい、本流・支流あわせてひとつの水系という。
 川が雨や雪などの降水をあつめる範囲を流域または集水域とよぶ。 降水がそれぞれ反対側にわかれてながれ、2つの流域をつくっている境界を分水界または分水嶺という。
 北アメリカ大陸の西部では、ロッキー山脈が分水嶺となる。ロッキー山脈の東側斜面をながれくだる水は、メキシコ湾を とおって大西洋にでるか、または北極海へ達する。西側斜面をくだる水は太平洋へそそぐ。


働き
 川は山や陸塊をゆっくりと浸食し、土砂などを、運搬、堆積(たいせき)作用によって地形をかえていく。
 また、流域の経済に重要な役割をはたしている。農作物のための水源であり、交易のための水路であり、水力エネルギー源 でもある。しかし、雪どけや豪雨で増水すると、流域に深刻な洪水の被害をもたらす。
 河川の氾濫を管理して、灌漑や 水力エネルギーに利用し、十分な深さの水路を維持するために、古くからさまざまな治水工事がおこなわれてきた。

日本の川
 国土が狭く、けわしい山地が多い日本の川は、長さが短く急流が多く、また、流量の変化がいちじるしい。
 量の変化は水運や用水の利用に不便なため、ダムで流量の平均化をはかっている。 また硬度がやわらかく、生水のままで飲むことができる。
 日本の川は1964年(昭和39)に制定された河川法によって重要度の高い順に1級河川、2級河川、準用河川に分類されている。 石狩川、利根川など全国で109水系ある1級河川は建設大臣によって指定され、管理されている。 また、2級河川は都道府県知事によって指定され、管理されている。準用河川は市町村長が指定し河川法の一部が準用され それ以外の河川は普通河川として地方自治体が管理の条例をさだめることができる。 川の長さは上から順に信濃川、利根川、石狩川、流域面積では利根川、石狩川、信濃川の順となる。


水を守れ 宮城県白石市が水源地に建設規制の条例を施行

 「きれいな水を住民が享受する権利を守る」ことを明記し、水源地に産業廃棄物処分場などの建設を規制した「水道水源保護条例」を9日、宮城県白石市議会が可決した。違反した場合「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」とする罰則規定も設けている。市は同日、施行した。

 市が指定した水源保護地域に処分場やゴルフ場を計画する事業者は、事前協議書を出し、規制の対象になる場合は設置を認めない。既存施設は水質検査と報告を義務づけ、排出水などに環境汚染の懸念があれば改善命令や一時停止を命ずることができる。

 同市には産廃処分場の計画があり、設置許可申請が県に出されている。廃棄物処理法は水源地への立地規制がないため、川井貞一市長が水道法に基づいて提案した。県が許可しても、設置を阻止できると期待している。(朝日新聞 2001/03/10)



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