水の科学・化学館⑤ 水の環境問題 その② 


について
 上空からおちてくる水滴、またはその現象。一般に雨滴の直径は、0.1mm以上で、大きいものは、3mmほどになる。
 落下速度は、直径0.2mmでは秒速約0.7mだが、雨滴が大きくなるにしたがって増加し、直径3mmでは秒速8mに達する。
 直径5mmをこえると落下速度がひじょうにはやくなって分裂しやすくなり、つぶされて細かい粒にわかれる。
 雨とよばれるのは直径0.5mm以上の雨滴が多い場合で、直径が0.5mm未満のものが多い場合は霧雨とよばれる。 このときは、無数の細かな水滴のため、視界がいちじるしく不良になるが、降水量としては少ない。
 雨量は水平な面上にたまった水の深さであらわす。1時間に3mm未満のものを弱い雨、15mmをこえるものを強い雨、その間を並み雨とよぶ。

降水過程

 空気は、あたたかい水面やしめった地表の上を通過するとき水分をえる。 その水分、あるいは水蒸気は乱気流や対流によって上方へはこばれる。 空気塊は上昇するとひやされ、その中の水蒸気は凝結する。
 空気塊の上昇には、以下のようないくつかの過程が考えられ、これらの過程の研究が世界各地の雨の分布の理解の鍵となる。 貿易風の収束にともなう空気の上昇は、赤道付近の降雨帯をもたらす。 この降雨帯は熱帯収束帯(ITCZ)とよばれ、季節によって南北に移動する。 中・高緯度では、上昇流の多くは温帯低気圧にともなっておこる。 このとき、しばしば、あたたかくしめった気団とつめたい気団が隣接し、その境界面にそって、あたたかくしめった空気が つめたい空気の上にのりあげるかたちになる。
 もっと小規模のものでは、あたたかい地面に熱せられた空気の対流にともなう上昇流がある。 これが、にわか雨や雷雨の原因となる。短時間に集中してはげしくふる雨は通常このような雨である。 空気は山などの地形によっても上昇する。このとき風上側の斜面では雨が多く、陰になる風下側ではあまりふらない。

平均降雨
 一般に降水量は温暖な所ほど多く、寒冷地ほど少ない。
 日本国内でも基本的にこの傾向があって、だいたい北日本で1000mm 東日本で1500mm、西日本で2000mm程度の年降水量が観測されている。
 世界の平均は年間1000mm程度であるから、日本は比較的降水量が多い国であるといえる。
これらの降雨は、季節風や前線および低気圧にともなっておこるものが多い。 とくに梅雨期にふるものが多く、また台風によるものも多い。
 とくに雨量の多いのは、紀伊半島から九州にかけての太平洋沿岸で、地形による影響も大きい。 三重県尾鷲市では、日本での年降水量の最大値、4001.9mmを記録している。 また、北陸地方も大きな降水量を記録する所であるが、これは冬の季節風にともなう降雪の影響が大きい。 この地方は、世界的にも積雪量がひじょうに多い地域として知られている。
 世界での平均降水量の最大値は年間約1万922mmで、インド北部のチェラプンジで記録されている。 夏季モンスーンによるしめった空気がヒマラヤ山地の上におしあげられるからで、ここでは年間2万6466mm、あるいは26m の雨がふった年もある。  その他の降雨記録としては、フィリピンのバギオをおそった台風によって1日で1168mm、ミズーリ州のホルトでは雷雨で 1時間に約305mm、またカリブ海グアドループ島バロットでの1分間に38mmなどがある。

人工降雨の研究
 水分も空気塊の上昇もあるのに降水のおきないことがある。 このことは人々の強い関心をあつめ、とくに、雲の中の無数の微細な水の粒から、どのようにして一粒の雨滴が生成される かについて、熱心に研究されてきた。
 雨滴への成長には、2つの過程が重要であることがわかっている。
(1)氷と水に対する飽和蒸気圧の違いのために、過冷却の水滴が氷晶にこおりつくことによって成長が促進されること
(2)水滴の落下速度はその大きさによってことなるため、いろいろな大きさの水滴が共存するとき、大きな水滴がよりおそく 落下する小さな水滴をくっつけて成長することである。
 20年ほど前から、この2つの過程を人工的に刺激し、雨をふらそうとする研究がおこなわれてきた。 しかし、雨の不足している地域は、空気中の水分がたりないか、水分の上昇が十分でない。 そのためかんばしい成果はあがっていないが、より効果的な人工降雨の方法をもとめて研究がつづいている。

 ひょう
 ほぼ球形の氷の粒がふる現象。
 多くの場合、雹は透明な層と不透明な層が交互にかさなっている。 積乱雲の中の雨滴や氷の小塊は、雷雲に特有な乱気流によって上昇と下降をくりかえす。 このとき、雲の中の過冷却水滴、つまり凝固点以下でも液体のままの水滴や氷晶となんども 衝突し、それらとくっついているうちに雹に成長する。
 この塊が大きくなり、重くなって気流にのって大気中にうかんでいられなくなると、地上に おちてくる。日本では直径2〜5mmのものを霰(あられ)、5mm以上のものを雹とよんでいる。 大きいものは直径十数cmにもなり、農作物などに大きな被害をあたえることがある。

 つゆ Dew
 あたたかい大気中の水蒸気がつめたい地面や物質の上で凝結してできる水。とくに、あたたかい季節のはれた風のない夜に気温がさがるとできやすい。
 大気中にふくまれうる水蒸気の量には、温度によってきまった最大値がある。この量は飽和水蒸気量とよばれ、温度があがるとふえ、温度がさがるとへる。
 あたたかかった日の夕方、多くの水蒸気をふくんだ空気がひえていくと、その空気がふくんでいる水蒸気量が飽和水蒸気圧に相当する温度になる。さらにひえると、水蒸気のままでいられなくなった余分な水分は凝結し、草の葉や窓ガラスなどにつく。これを露といい、露がつきはじめる温度を露点という。露点が零度C以下だと霜ができる。

 きり Fog
 大気中の水蒸気が地表面の近くで凝結して視界をわるくする現象。
 雲と似ているが、雲は上空で水蒸気が凝結するのに対して、霧は地面に接した空気の中に発生する。
 便宜上、視程が1km以下のものを霧、それ以上のものを靄(もや)という。 都市域では、水蒸気の凝結だけではなく、煙突から発生する塵埃(じんあい)などの大気汚染物質も視界をわるくする原因となる。
 煙(スモーク)と霧(フォッグ)を合成してスモッグということがある。 とくに、光化学反応で生じた、ほとんどがオゾンのオキシダントからなるスモッグを光化学スモッグという。
霧の種類   霧は、発生原因をもとに分類する場合と、発生する場所をもとに分類する場合がある。
移流霧、放射霧、滑昇霧、前線霧などは発生原因をもとにしている。
山霧、川霧、海霧、盆地霧などは発生場所による分類である。
朝霧、夕霧など時刻で霧を区別することもある。

移流霧
移流霧とは、比較的暖かくてしめった空気がつめたい海面や地面にふれて発生する霧である。
冬季、雪でおおわれた地面の上に海上から暖かい風がふきつけるような場合に発生する。
反対に、夏季は、暖かい風がつめたい海上にふきつけるような場合に発生する。
北大西洋では、北アメリカ東岸をながれる海流のような暖かい湾流の上をふく風がその北側のラプラドル海流の上にくると移流霧が発生する。
日本では、釧路の近くの海上で移流霧がよく発生する。

放射霧
放射霧は、地面が夜間に放射冷却で気温がさがるとき、それに接した空気中に発生する霧である。
放射冷却による気温の低下は海面より地面のほうが大きいから、放射霧はもっぱら陸地の上で夜間に発生し、朝になって地面付近が日差しで暖められると消滅する。

滑昇霧
滑昇霧は、風が山麓(さんろく)にそってふきのぼるとき、断熱冷却によって空気塊の温度がさがって発生する霧である。雲の成因と似ている。

前線霧
前線霧は、前線の近くで天気がわるくなるとき発生する霧である。
温暖前線にしても寒冷前線にしても、寒気と暖気の境界であるから、たとえば、暖かい気団で発生した雨がつめたい気団に侵入することがある。
そのような場合、雨粒の温度のほうが地面付近の寒気の気温より高いような場合が生じ寒気内部に前線霧が発生する。雨が降っているときに発生する場合は雨霧ともいう。
霧にしろ、靄にしろ、雲と同じで、水蒸気が凝結する際には、大気中にうかんでいる小さな粒を核として水滴が発生する。この粒を凝結核という。



地下 ちかすい Groundwater
 陸地の表面より下にある水。堆積(たいせき)物の粒子の間のすきまや岩石の割れ目などに存在している。北極地方では地下水がこおっていることもある。一般的には、地下水はその地方の年平均気温に近い温度をたもっている。
 ひじょうに深い所にある地下水は、何千年、何百万年もの間そのまま存在しうる。しかし、ほとんどの地下水は雨水がしみこんで形成され、地中の浅い所にあり、水の循環における一部分をうけもっている(→ 水)。
 世界的にみれば、地下水は地球に存在する水の0.3%を占めている。これは大陸と島の地表に存在する水の総量の20倍にあたる。

飲料水の供給源
 地下水は、人間がのむ水の最大の供給源であり、文明にとってひじょうに重要である。
 地下水は泉として地表にあらわれたり、井戸からくみあげられたりする。乾燥した期間にも地下水は地表の水の流れを維持する。地下水はごみや生物による汚染が少ないので地表を流れる水をたやすく利用できる所でさえ、好んで飲まれいる。
 地下水の移動速度はそこに存在する岩石の種類に依存している。水でみたされた透水性の地層を帯水層といい、水の供給源となる。典型的なものは砂岩礫岩(れきがん)、石灰岩、玄武岩などである。粘土や頁岩、漂礫土、シルトなどは地下水の流れをおそくする。
 透水性の岩石中での地下水の上面を地下水面という。人がたくさんすんでいたり、乾燥地域で活発に灌漑(かんがい)をおこなったりしている所で地下水急激にくみあげていると、かなり深く井戸をほってもとどかないくらい地下水面がさがってしまうことがある。
 地下水は地表の水にくらべて異物の混入が少ないが、工業化のすすんだ国では地下水の汚染がすすんできている。20世紀の後半、アメリカでは、何千という井戸がさまざまな有毒物質の混入により閉鎖されてきた。日本では、とくに都市部において地下水の過度のくみ上げによる地盤の沈下が問題となっている。

地下水の汚染

 シリコンバレーのハイテク汚染

 アメリカに半導体などのハイテク産業で有名な「シリコンバレー」があります。
 ハイテク産業というとクリーンなイメージがありますが、実はシリコンバレーでは深刻な地下水汚染に見舞われています。具体例をいくつかあげてみましょう。

  1. 約100種類の化学物質が地下水から発見された。
  2. 州の公共井戸の25パーセントから有毒な化学物質汚染が発見された。
  3. 半導体産業の職業病(全身中毒※)の発生率は、製造業全体の3倍である。

 ※全身中毒:悪環境にさらされることによって毒物が血液に入り、体内の諸器官・システムが影響を受けること。
(シリコンバレーから毎年約27トンの重金属(クロム、カドミウム、銀、銅、ニッケルなど)が、下水道を通じてサンフランシスコ湾に流れ込み、周辺湿帯と湾が「死の海」となりつつある。

 シリコンバレーでは飲料水の約半分を地下水に依存しています。
 ここの汚染はすでに地下150メートル以上の深井戸にまで達し、きわめて深刻な状態にあります。

世界全体の地下水が危ない
 インドのカルカッタ周辺の農村地帯では、地下水がヒ素で汚染されています。井戸水を飲んでいる17万人もの住民が中毒症状に苦しみ、死亡する患者も続出しています。この地域では、約20年前から潅漑用水を大量にくみ上げるようになりました。このため地下水位が下がり、黄鉄鉱や硫ヒ鉄鉱の地層と空気中の酸素が反応し、ヒ素が発生したものと考えられています。
 また40年以上も前に始まったロシアの南ウラル地方の放射能汚染が今も進行しています。放射能の総量はチェルノブイリの22倍もあります。
 このように、世界全体の地下水が汚染されています。UNEP(国連環境計画:本部ナイロビ)が最近公表した「地球環境白書」によると、現在世界人口の3分の1に当たる17億人が 危険な水を飲んでおり、このために毎日約2万5000人が死亡しているということです。


海洋について かいよう Ocean 
 海あるいは海洋とは、塩水でみたされた広大な凹地であり、地球の表面の約4分の3を占めている。
 太陽系の惑星で海が存在するのは地球だけである。 海洋についての研究は、海洋学とよばれ、現在の海の物理的、化学的、生物的な性質について考究する。
 海洋や海盆が地球の歴史の中で、地質学的にどのように変化してきたのかを理解することも、海洋学の主要な課題である。 さらに、そのような研究を通じて、気候変動にかかわる大気と海洋との間の相互作用を評価したり、海洋生物の生産性を 左右する要因についても考察がおこなわれる。

海洋底の構造
 海洋は約3億6100万km2の表面積があり、地球表面の約71%をおおっている。平均水深は約4000mであり、約13億7000万km3の体積がある。
 海洋はひとつづきの水たまりではあるが、大陸や海流を境界にして便宜的に区分されている。 大西洋、太平洋、インド洋の3つの海洋は大陸によってへだてられている。
 南緯45度付近の南極周極海流より南の海域は南極海とよばれ、大西洋の北側につづく北極付近の海は北極海とよばれる。
海岸付近の大陸地殻が海水におおわれている浅い海は大陸棚といわれる。 大陸棚は約200mより浅い水深で、平均で約75kmの幅があるが、まったくないところや1400kmの沖合いまでのびているところもある。 大陸棚の外側は勾配(こうばい)がやや急な斜面になっている。これを大陸斜面といい、その先は深海底あるいは海溝につながる。 深海底につながる大陸斜面のふもとには、コンチネンタルライズとよばれる傾斜のゆるい斜面が形成されることがある。 コンチネンタルライズは、堆積物がたまってできたものであり、その長さはおよそ600kmにおよぶ。
 海洋の中央部には海嶺(かいれい)、ところにより海膨(かいぼう)とよばれる大山脈がつらなっている。 海嶺の頂部には軸方向の溝(中軸谷)ができているが、その溝は断列帯(フラクチャーゾーン)という亀裂によって段階的に左右に ずれていっている。大西洋の中央部には大西洋中央海嶺が南北にはしり、南の先はインド洋につづいている。 インド洋では2つに分岐して、ひとつは北上してアデン湾から紅海に達する。 もうひとつは南極とオーストラリアの間をぬけて太平洋東部の東太平洋海膨へとつづき、最後はカリフォルニア湾にいたる。 その総延長は6万kmにもなる。
 プレートテクトニクスによれば、海嶺の中軸部はマントルからマグマがわきあがってくるところである。 マグマがかたまると新しい海洋地殻となって、プレートは両側に拡大していく。 その拡大速度は、現在は1年に1〜10cmである。
 大西洋の両側の大陸はかつてはひとつづきの大陸であったが、大西洋中央海嶺の ところで分裂がおこって、それぞれのプレートにのって移動したため、しだいに分離していったのである。 太平洋でも東太平洋海膨から両側にプレートの拡大と移動がおきている。 しかし、そのプレートの先端は、太平洋の周辺部で別のプレートの下にしずみこんでいて、そこには海溝が形成されている。
 海溝は海洋でもっとも水深の深いところであり、太平洋の海溝では7000m以上の水深もまれではない。 最大水深はマリアナ海溝の約1万920mである。また、プレートの沈みこみ帯には活発な火山活動や地震活動がみとめられている。

海底の観測
 海底の地形や構造の調査には、音波や地震波を利用する。 水深は、海面から音波を発射して、海底面から反射波としてもどってくるまでの時間をはかることでもとめる。 海底面下の構造を調査するには、圧搾空気などにより小規模な水中爆発をおこして、強力な衝撃波を発生させ、反射波を高感度 の受信機で記録するという方法がもちいられる。

海底堆積物

 海底の多くは堆積物によっておおわれている。その厚さは平均で約500mであるが、ヒマラヤ山脈からの堆積物がたまっているインド洋では10kmに達するところもある。 中央海嶺のように海洋地殻がわかいところでは、ほとんど堆積物におおわれていない。
 堆積物の調査には、ピストンコアラーやドレッジャーなどでの泥の採取もあるが、深海掘削計画のような大がかりな深海探査 計画もあり、世界じゅうの海底から堆積物試料が回収されている。
 堆積物は鉱物粒子や生物の遺骸でできている。その種類は、水深や陸地からの距離により変化し、また海底火山の存在や、生物 生産性の高い海域か低い海域かといった地域性も影響する。 粘土鉱物は、大陸の岩石が風化してできるものであり、河川や風によって海にはこばれるため、深海底の堆積物にも多く ふくまれる。
 風化や浸食で陸からはこばれてきた砕屑(さいせつ)物は、河口付近や大陸棚に厚く堆積することが多く、粘土のような細粒 のものは、広範囲の海洋にゆっくりと堆積する。 これらの堆積物は、ときどき発生する強い流れによってまきあげられて、別の場所へ移動してしまうこともある。 深海の堆積物には、このほか有孔虫や珪藻などの微小生物の石灰質や珪質の殻もふくまれている。

堆積物の年代測定
 海洋表層には、顕微鏡でないとみえないような微小なプランクトンが、たくさん生息している。
 その中でも浮遊性の有孔虫や珪藻などは、殻をもっているため、死ぬと水中を落下して海底へとふりつもっていく。 こういった微小プランクトンは、生物自身の進化的な変化や生息環境の変化により、地質時代を通じて新しい種類が出現したり 元の種類が絶滅してしまったりすることが知られている。
 したがって、堆積物中に保存されたそれらの生物の殻の中から、時代に特有の種類をみつけだすことで、堆積物の年代をきめる 手掛かりがえられる。 また、これら微小プランクトンの中には、寒暖などの環境の違いによって、殻の化学成分に変化がおこるものがある。 石灰質(CaCO3)の殻をもつ有孔虫がそのひとつで、殻の中に固定される酸素の2つの同位体(酸素16と酸素18)の比率は、有孔虫が 生息していたときの海水中の同位体の比率と同じになる。 海水中の酸素の同位体の比率は水温や大陸氷河の発達量などに応じて、世界じゅうで同時に変化することが知られている。
 したがって、堆積物中に保存された、有孔虫の殻の酸素の同位体比を、時代をおって分析して、変動パターンをえがくことにより 世界じゅうの堆積物をたがいに対比することができる。
 もうひとつの方法として、堆積物の磁性を測定する方法がある。 堆積物中には微小な磁性鉱物がふくまれていて、その磁性鉱物は堆積した当時の地球磁場の向きにならんでいる。 地球の磁場は、地質時代に、何度も逆転をくりかえしていたことが知られている。 地球磁場の変化は地球上のどこでも同時に記録されるので、磁性の測定によっても堆積物をひろい地域にわたって対比することが できる。しかし、プランクトンの分析や堆積物の磁性の測定だけでは、堆積物の年代値(絶対年代)をもとめることはできない。
 絶対年代の測定には放射性元素が利用される。 放射性元素によりもとめられた年代は放射年代とよばれる。たとえば、トリウム230は30万年より新しい堆積物、炭素14法は 4万年より新しい堆積物に、それぞれ適用できる。 また、プランクトンの種類や殻の成分の変化や地球磁場の逆転について放射年代をあらかじめ測定しておけば、プランクトンの 殻の分析や堆積物の磁性の測定によっても、絶対年代を推定することが可能になる。 これらの方法を総合して調査がすすめられた結果、海洋底の年代は2億年よりもわかいことが明らかにされた。

海水の組成
 海水は、大陸の岩石の風化と浸食によりもたらされたいくつもの塩類がとけこんだうすい溶液である。
 海水の塩分は溶存塩類の千分率(海水1000g中のグラム数:堰Aパーミル)で表現される。 海水の塩分は、河川のながれこむ沿岸では低く、蒸発の盛んなところ、たとえば紅海では41奄ニ高い。一般の海洋では、塩分は平均で35奄ナあり、34〜36奄フ間で変化する。
 海水中の主要な陽イオンの含有量は、ナトリウムが約10.5堰Aマグネシウムが約1.3堰Aカルシウムが約0.4堰Aカリウムが 約0.4奄ニなっている。主要な陰イオンは、塩化物が約19堰A硫化物が約2.6奄ナある。 溶存塩類にはそのほか、臭化物イオン、重炭酸、シリカ、さまざまな微量元素、および無機栄養塩と有機栄養塩がある。
 主要なイオンを合計した濃度は、場所により変化しても、主要イオン間の比率は全海洋を通じてほとんどかわりがない。 主要栄養塩は主要イオンにくらべて量は少ないものの、海洋の生物生産にとってひじょうに重要である。 微量元素もある種の生物にとっては、重要なはたらきをもつ。炭素、窒素、リンおよび酸素はほとんどの海洋生物にとって 不可欠な元素であり、海水中では、炭素はおもに重炭酸、窒素は硝酸、リンはリン酸として存在している。

水温
 海洋の表層水の水温は、熱帯における30ーCから極地域における-2ーCまでの幅がある。
-1.4ーCは海水の氷結温度である。 表層水温は、高緯度になるにつれて低下する。また、季節による変化は、陸上の気温にくらべてずっと小さい。
 水温は、深さによっても違いがある。 すなわち、一般に、水深100mまではほぼ一定であるが、100mより深くなると急激に低下し、およそ1000mでは5ーCになる。 1000mより深いところでは、水温は徐々に低下して、最深部では、氷結温度よりわずかに高い程度の1ーC前後になる。 水温が急激に変化するところは、水温躍層とよばれる。

海流  
 海の表層には流れがあり、海流という。海流は大きな渦をえがくように海をぐるぐるとめぐっている。 これを海流や海水の循環ともいう。
 海流の動きは風によりひきおこされるが、流れの向きは地球の回転によって変化する(→ コリオリの力)。 北大西洋のメキシコ湾流と北太平洋の黒潮はその代表であり、どちらも海洋の東側の沿岸の気候をやわらげている。
 陸地から沖へむかう風が卓越するところでは、表層水も沖へむかってながれていく。 すると、ながれさった分をうめあわせるために、300mほどの深さから、冷たい水が表層へとわきあがってくる。 これを湧昇流(ゆうしょうりゅう)という。
 湧昇してきた海水は栄養塩を豊富にふくんでいるため、その海域は生物生産性が高くなって、よい漁場となる。 深いところの海水が、栄養塩に富んでいるのは、有機物の分解がすすむからである。 植物プランクトンなどの光合成をする生物は、光のとどく深さでしか生育できないため、生物生産は、おもに海洋の表層で おこなわれる。それらの生物が死ぬと水中でしずみはじめ、深いところで分解されてふたたび栄養塩となって海水へとける。
 生産性の高い海域の多くは、海水の鉛直方向の混合が盛んな海域である。 たとえば、大陸の西岸と南極の周辺海域は、ひじょうに生産性が高い。 南極周辺海域では表層水が冷やされて沈降し、そこへ深層の水が湧昇してくる。 表層水の循環は、風と地球の回転の働きでおこるが、海洋の深層水の循環は、海水の密度の違いによっておこり、これを サーモハライン対流(熱塩循環)という。
 海水の密度は、塩分と水温によってきまる。 海洋の表面で蒸発がおこると、塩分が増大して密度が高くなり、海水は重くなる。 そして、まわりの海水より重くなると、沈降するようになる。 冷却も海水の密度を高める働きがある。 氷ができるときには、塩類がはきだされてしまうため、海水が氷結しはじめると周辺の海水の塩分がふえ、そのため ひじょうに重い海水が多量に形成される。 南極大陸に近いウエッデル海ではこのようなことがおこっていて、そこから重い海水が沈降して、海洋の深層水がつくられている。 これは南極底層水とよばれ、大西洋にながれだしたあと東へむかい、インド洋や太平洋に流入する。北大西洋でも高塩分で低温の海 水の沈降がおこっていて、中くらいの深さまでしずみこんで、北大西洋深層水が形成されている。北大西洋深層水はゆっくりと南下 するが、南極底層水ほど重くないため、やや浅いところをながれていく。表層の海流の動きははやく、メキシコ湾流では最大毎秒 250cmに達する。いっぽう、深層水の流れは毎秒約2〜10cm程度である。
 海水はいったん沈降してしまうと、大気との接触がなくなるため、大気との間で気体の交換ができなくなる。 海水にとけている酸素は、有機物の酸化につかわれるため、沈降した海水にふくまれる酸素は徐々に減少していく。
 そのため酸素の含有量を測定すれば、海水の沈降がはじまってから何年たったかをもとめることができる。 放射性の炭素14は大気中でつくられて、二酸化炭素CO2として海水中にはいりこむ。 二酸化炭素は、海水中の重炭酸イオンと平衡をたもった状態になる。 炭素14は約5700年の半減期で時間とともに崩壊していくので、その放射能を測定することによっても、沈降してからの海水が 何年たったかをもとめることができる。 このような測定の結果、北大西洋と南極付近で深層水が形成され、それらがいっしょになってインド洋と太平洋に向けて ながれていること、もっとも古い海水は、北太平洋の深層にあって、その年齢は1500年であることが明らかになっている。

海洋資源
 
 海洋は、将来の食物の供給源として、有望視されている。
 生産性は海域によってことなり、高いところも低いところもある。 光合成生物は、無機的な炭素や栄養塩と太陽光をもとに、有機物をつくりだすが、海に生息する光合成生物によりつくられる 単位時間当たりの有機物の量を、その海域の生物生産という。
 海洋ではこのような生産は、植物プランクトンがになっている。 植物プランクトンは動物プランクトンや魚類により捕食され、動物プランクトンや魚類のうちのあるものは別の捕食者により たべられてしまう(→ 食物連鎖)。 こういった生物たちの体をつくっている有機物は分解されて炭素や栄養塩になり、はじめの光合成の材料へともどっていく。
 海からえられる食物は、とくにタンパク質の供給源として重要で、藻類をふくめた1989年の世界の漁獲量は、約1億tであった。 海洋における鉱物資源が注目されはじめたのは、つい最近になってからである。
 海水中にはさまざまの有用金属が多量にふくまれているが、海水の量は膨大であり、その中から金属を抽出することは容易では ない。たとえば、海水中には全部で100億tもの金がふくまれていると推定されているが、濃度が低すぎて回収は無理である。 今日海水から採取されている鉱物の代表は、マグネシウム、臭素、塩(塩化ナトリウム)である。 海底の砂利や貝殻は建設材としてもちいられることがあり、海底の砂利には少量ではあるがダイヤモンドがみつかることがある。 リン灰石も海底でみつかり、リンをふくんだ鉱物であることから農業用の肥料として利用できる可能性がある。 最近注目をあつめている海底鉱物資源にマンガン団塊がある。 これは球形のかたまりであって、その中にマンガンを約20%、鉄を10%、銅、ニッケル、コバルトをそれぞれ約0.3%ずつ ふくんでいる。これらはすべて有用鉱物であるが、商業的になりたつほどの採掘はまだおこなわれていない。
 海底下にある油田やガス田は世界の産油量の約27%を産出している。 そのほとんどは浅い大陸棚にあるが、深海掘削技術をもちいて、もっと沖合いの油田を開発することも期待されている。 海底下の石油の貯留層は、商業的に利用できるほどの硫黄をふくむこともある。 硫黄は、深海の熱水噴出孔からでる熱水中にも豊富にふくまれている。
 海洋は、重要な代替エネルギー源のひとつであり、海水が太陽光を吸収してえた熱エネルギーや、海流からえた熱エネルギーを 電気に変換する方法がある。この方法は海洋熱エネルギー変換法(OTEC)として知られている。

海洋汚染
 海は将来的にもさまざまの資源の供給源として期待され、また海水そのものを淡水化して利用することもあるため 海洋の保全に対する関心も大きくなってきている。
 工業や産業が発展するにつれて、産業廃棄物などが海洋へ投棄されることもふえ、沿岸の生態系が破壊されるほどになった。 原油や化学物質の漏出による海洋汚染や下水処理への関心も高まり、資源の有効利用や廃棄物の計画的な処分の必要性に 注意がむけられるようになってきている。殺虫剤の流入や発電所からの温排水による、海洋生物への悪影響も心配されている。

海洋汚染
 海は地球の表面積の7割を占めており、すべてがつながっています。そのため、どこかが汚染されると、海流に乗って地球全体に広がります。石油が大量に流出すると薄い油膜となって海を覆い、広範囲の生態系を破壊します。
 また大気中に放出された有害物質もやがて海に入ってきます。PCBや農薬が北極海から検出されていますが、この大部分は大気によって運ばれたと考えられています。

北海でアザラシが壊滅
 1988年の4月頃から北海のノルウェー沿岸で大量の藻が発生し、それが腐って悪臭を発したり、大量の魚が死ぬという事件が続きました。そして被害が次第に北海全体に広がり、その後の半年間で、18000頭近くのアザラシが死んでしまったのです。
 死亡したアザラシの子供の内蔵を調べると、高濃度の水銀、カドミウム、鉛、PCBなど少なくとも150種もの有害物質が検出されたのです。これらの有害物質でアザラシの免疫力が低下し、ウイルスに感染したのではないかと考えられています。

タンカーから大量の原油が流出
 1989年3月24日の未明、アラスカのプリンスウィリアム湾で起きた「エクソン・バルディーズ号」の座礁事故はあまりにも有名です。
 この事故により、4万トンを超える原油が流出し、周辺の海岸や島々が汚染されてしまったのです。ラッコや海鳥が原油でべとべとに汚れて、次々に死んでいきました。バルディーズ号以外にも、年間300万トン以上の石油が海に流出しています。そのうち約1割がタンカー航行中または事故によって、また8割近くが生活や産業活動から漏れ出しています。
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