水の考察館② 『水』学問 その1  


どう使う、どうすすめる 飲みたい水
(監修 星野正美)
含有成分で自在に変身する。だからこそ、用途はさまざま
 水とはどういうものか。水の研究はまだ途上で未知の部分も多いが、これを理解しているかどうかで水の選び方は変わってくるので、まずはその構造を理解したい。水は分子式H2Oと表すように、水素原子Hが2個と、酸素原子Oが1個でできている。だが、水の分子結合は特殊で、液体状の水はこの状態では存在しない。
 図1は、上の説明のとおり、水分子が互いに引きあって結合している状態。これを水素結合というが、この結合により、水分子は平均5個単位で磁石のようにくっついたり離れたりして存在する。非常に不安定な結合で、加熱などの処理を加えれば、性質もまた変わってくるのだ。図2は、水分子が籠状にミネラル物質を囲っている状態を示している。高山から長い歳月をかけて自然湧水する水には、圧力が加わっている。このことによって、図2の籠状の構造ができ、よくいわれる水の機能性は、この特殊な構造により発揮されると考えられる。つまり、単純に「溶けている」状態とは違い、たとえば水道水にミネラルを溶かしても、本当のミネラルウォーターができるわけではない。水はその含有成分の性質によってももちろんのこと、その分子構造のあり方によっても性質が変化する。
 この変貌性が水のおもしろいところなのだ。したがって、水の使い分けは本来、もっと考えられてもいいはずだ。


水H2Oの水素結合の模式図 カルシウムを取り囲んだ水の模式図
酸素原子Oは電気陰性度が大きいので、結合している水素原子Hの電子を引き寄せる。電子が少なくなってプラスになった水素原子Hは、近くの水分子を引き寄せて結合する。そのため、水は平均5個単位で離合をくり返しながら存在する。

 水素結合により、いくつもの水分子が籠状に結合してカルシウムCaなどの物質を閉じ込めている状態。図では、酸素原子Oをつないでいる黒線上で各水素原子が結合している。この籠の中の物質の性質とその構造が、水そのものの性質にも影響する。

 こうして存在する自然の水のもっともわかりやすい使い分け方は、硬度による分類。ミネラルウォーターは、日本では最近ようやく認知されつつある商品。依然トライアルユースも多く、特定のブランドを決めかねている消費者が多いだろう。だが用途といえば、炊飯から料理、水割り、飲用までと、まさに何でもござれといった幅広い用途をすすめているものが多く、各商品のラベルを見ても、消費者にはあまり参考にならない。しかし先にも述べたように、水は千変万化。その変化をもっとも端的に伝える硬度の記載さえ、されていないものが多いのはどうだろうか。
 あくまで特定水源の水を商品として売るのだから、イメージ先行でなく、商品の品質そのものと、それに適したアピールで、ミネラルウォーターを提供してもらえればと思うことこのうえない。


水の品質とは
 では、消費者を代表して商品を選択するバイヤーは、どうやってミネラルウォーターを選べばいいだろう。日本ではネラルウォーターは殺菌が義務づけられているので、商品として有害なものは当然ない。だが、源水の状態ではどんな水なのか、これがポイントだ。ミネラルウォーターが商品として認可を受けるには、約25項目ある水道水の水質基準を満たさなくてはならない。まずは各社から、このデータを入手して検討してみよう。以下に、分かりやすい項目をあげてみると ・

 硝酸性窒素および亜硝酸性窒素、過マンガン酸カリ消費量は、水中の菌の栄養になるので、不要な菌が生育する可能性がある。商品としては、基準値よりはるかに少ない方がいい。
 銅、鉄、マンガン、亜鉛などは微量ネラルと呼ばれ、体には必要だが、水の味を悪くする。六価クロム、カドミウム、鉛、ヒ素、フッ素など体に有害な成分は、各基準値よりもはるかに低い方がいい。


 色度・濁度も、なるべく低い方がいい。また、近年は工場排水などによる環境汚染も心配されるので、平地に水源がある場合は特に、トリハロメタン、トリクロル・エチレン、パークロル・エチレン、LASなど(精密機械の洗浄、ドライ・クリーニング、合成洗剤などに使われ、人体に有害)の検査も年に数回は必要と思われる。

 以上のことだけでも随分と水を選別することができる。しかしさらには、可能な限り、水源の視察に行くこともすすめる。
 井戸からの採水ならば、深いほど有害成分混入の可能性は低い。もっとも好ましいのは、自然噴出している水を、空気に触れず、じかに採水すること。白然噴出とは高い山脈からの浸透水の圧力が地下水にかかっていて、その圧力で水が湧出すること。岩板内部から強い圧力がかかっているので、外部から他物質が混入しにくいのだ。そういう意味では、一概にはいえないが、万が一にでも周辺の環境汚染が起きることを考えれば、ポンプアップ方式は、徐々に他成分や有害成分が浸み込んでくることも考えられるので、水質検査の頻度は多い方がいいだろう。


 殺菌法に関しては、日本では1986年までは加熱処理以外は認められていなかったせいもあり、今でもほとんどの商品が加熱処理されている。ところが、加熱殺菌は水にとって好ましくない。なぜなら、加熱などの大きいエネルギーが加わると、先述の水の結合が破壊されてしまい、源水の成分が変わってしまうからだ。しかも、適度に含まれていると水がおいしくなる炭酸ガスも抜けてしまう。設備投資がかかるのは痛いだろうが、早急にフィルター除菌などの方法に切り換えるべきだろう。特に、ミネラル分が多いのがウリの高硬度の水を加熱処理するのは問題だ。

 とにかく一度、何種類かの商品を飲み比べてみれば分かると思うが、硬度や含有成分によって、各商品の風味は驚くほどに違うのだ。味は個人の主観によるから、本稿で各商品の味に対してどうこう評価はできない。だが最低限、ひとに提供する商品として、それだけの価値をもったものを販売する責任があるということは忘れてないでほしい。それが、ミネラルウォーター業界に対する率直な希望だ。
〈参考文献〉岩元睦夫:「食品と開発」VOL26 No.7
消費者は迷っている。
 
水は、各商品の性質や使用目的によって、本来は使い分けをした方がいいと思われる。しかし、現在、市場に出ている商品の大半には、「どんな用途にも使えます」といった表示がされているのが実状だ。一体これでいいのだろうか、消費者は水を使いこなせるのだろうか。

 水は、分子同士がくっついたり離れたりをくり返し、またその分子の籠の中にミネラル物質を取り込んで特殊状態をつくるといった、うつろいやすい性質をもつ。そのため、水は一側面からのみ判断できず、扱いがたいへんむずかしいのだ。
 高硬度の水は、身体に有用なミネラルが多く含まれているため、健康を意識して飲用されることが多い。だが、加熱するなどの大きなエネルギーを加えると、ミネラルと水分子の結合が破壊されてしまい、水そのものの性質が変化してしまう。しかも、加熱すると含有カルシウムが溶けにくくなり、ジャリジャリして飲み心地が悪くなる。だから、高硬度の水は加熱処理には適さないのだ。
 一方、低硬度の水は、もともと含有ミネラルが少ないだけに、加熱処理をしてもさほど影響はないようだ。炭酸ガスは多少抜けてしまうが(ある程度含まれていた方がおいしく飲める)、それとて微量である。味の違いも冷やして飲めば実際にはほとんど分からない程度のもの。低硬度の水が多く、しかも加熱処理による殺菌が大勢を占めている日本にとって、これはありがたいことともいえるだろう。


たかが水でも使い分けがベター
 
高硬度の水はそのまま飲用、低めの硬度の水は幅広く応用
 水を使い分ける際、いちばんわかりやすいポイントになるのは、硬度である。もちろん、硬度だけでなく、含有ミネラル成分の微妙なバランスで風味は変わってくるのだが、大きな傾向はわかる。それにもかかわらず、商品ラベルに硬度が明記されているものは思いのほか少ない。こういったあたり、どうも売る側の使い分けに対する商品知識が欠落しているように思われてならないのだ。
 それでは以下、主な用途についてまとめていこう。

 まず飲用は、何のために飲むのかによって違ってくる。飲み慣れた、いわゆる日本人にとっておいしく感じる水を飲みたいのなら、低硬度の水。そして、健康を意識して飲みたいのなら、高硬度の水。薬事法により、ミネラルウォーター商品に「健康のために有効な水」とは記載できないが、硬度が高い水が身体にいいことは事象として明らかだ。
 しかし、水から発せられるエネルギーはあくまで微弱なので、飲んだからといってすぐにその効果が表われるわけではない。また、水だけに頼ってミネラルを摂取しようとするのも好ましくない。なぜなら、ミネラルには、カルシウム、ナトリウム、カリウムなどの身体にとって多量に必要なものと、銅、鉄、マンガン、亜鉛などの微量ミネラルとがあるからだ。微量ミネラルは、その言葉どおり、微量しか摂取すべきでないもので、多量に摂取すると、後々、ミネラル過剰症になって、ホルモンバランスが崩れたり、味覚異常になったりする可能性もある。要は、水には余計な効果を期待しないことだ。


 コーヒーは、ブレンドの具合によってもずいぶん違ってくるが、一般家庭で使うには、中程度の硬度の水が無難だろう。だが、鉄分については、コーヒーのタンニンと結合して味を悪くするので、少ない方が望ましい。

 紅茶は、繊細な風味を味わいたい場合には、ごく低めの硬度の水を使いたい。だが、ミルクティーをいれる時は、高めの硬度の水を使うと、色が濃くでて、牛乳と混ざり合った時にちょうどいいミルクブラウン色になる。イギリスでミルクティーがよく飲まれるのは、イギリスの水が硬水だからともいわれているくらいなのだ。しかし、色が濃くでるわりには、味や香りの方はそれほどよくはないようだ。

   硬度によってこんなに違う紅茶色
 硬度約25(右)と硬度約300(左)の水で、同じ紅茶の葉を使い、同じ条件でいれてみた。色は明らかに違い、高硬度ではどす黒いような濃い色、低硬度では薄いが明るく澄んだ色にでた。
 だが思いのほか、香りや味には差が感じられず、高硬度の方は風味が乏しく、かえって低硬渡の方がおいしいと思わられた。

 煎茶には、硬度30〜45くらいが最適。これ以下では味も香りも薄くなる。ほうじ茶には、硬度20〜40くらい。これ以下では薄すぎ、また以上では濃くなる。抹茶は、硬度40〜95くらいまでと、わりと高めの方がいい。
 なお、紅茶、煎茶などには、概して硬度が低めの水を使った方がいい。なぜなら、カルシウムやマグネシウムは、お茶の重要な成分であるタンニンの溶出を悪くしてしまうからだ。

 ウイスキーの水割りには、一般的には低硬度の水が適しているだろう。特に品質のいいウイスキーには、せっかくのその風味をじゃましないような水がいい。だが逆に、並の品質だったり、熟成の浅いものには、硬度が高めの水で風味をフォローすることもできる。

 料理のダシをとるには、低硬度の水が適している。高硬度の水でダシをとると、風味が濃くでるにはでるのだが、不必要な雑味も引き出してしまうので、日本料理など繊細さを追求する料理には、特に適さないといえる。逆に、とにかくグッと濃くダシをとりたいような時には、高硬度の水を使ってもおもしろいかもしれない。

 製氷には、低硬度の水を使うと、カリン!と透明感のある固い氷ができる。これは、水の結晶化をじゃまするミネラルが少なく、均一に結晶ができるからだ。また、冷やして飲むのには、低硬度の水を使うと、ピーンと張りつめたような清涼感が得られる。

 酒造用水は、ある程度の硬度があり、菌の発酵や植物の生育には効果を発揮することが事象として明らかだが、必ずしも飲んでおいしいとは限らないものが多いようだ。
 以上、ミネラルウォーターの使い分けについてまとめてみたが、これはあくまで一応の目安であることを忘れないでほしい。あとは皆さんが、自分が売る水をどうアピールして売りたいかによって、各自研究されたい。


消費者への情報伝達がカギ
 市販の水商品には、いわゆるミネラルウォーターの他にもいろいろな種類のものがでている。そのひとつに、ブームにまでなったアルカリイオン水がある。その効果には、酸味のきついコーヒーをアルカリイオン水でいれると、酸がアルカリで中和されておいしくなるなどがある。だが、たとえアルカリイオン水といっても、レモン汁(強い酸性を示す)を加えると、中和されてアルカリ性ではなくなってしまうのだ。
 こういった知識は、果たして消費者にきちんと伝えられているだろうか。商品がもっているよさが十分に発揮されるよう、消費者に使ってもらうためには、販売者側からの情報が必要だ。
 ミネラルウォーターは、近年知名度が上がっているわりには、消費者にはその本当のよさや使い方が理解されていないのが実状と思われる。だからこそ、売場の販売員が使い分け方をよく知っていてお客にアドバイスできれば、販売チャンスはおのずと広がるだろう。メーカー側でも、自社商品の知識と、他社と差別化できるアピール点をきちんと認識していれば、卸先を増やすことも十分可能であろう。
 そのほとんどが小規模の会社によって販売されているミネラルウォーターだが、味や成分をとってみると、決して大メーカーに劣っているとはいえない。ならば、独自の研究とアピールによる差別化で販売したものの勝ちと思うのだが、いかがなものだろうか。水市場はまだ大きくなる可能性を秘めている。

【 ミネラルウォーターの硬度別用途】

硬度
飲用、その他
料理

0〜50

軟水

粉ミルク、製氷

和風だし(かつお、昆布)、日本茶

50〜100

通常の飲用、水割り

紅茶、炊飯、コーヒー、煮物

100〜200

中硬水

しゃぶしゃぶ、鍋物

200〜300

肉のアク抜き

300〜500

硬水

ダイエット

500〜1000

ミネラル補給

参考文献・早川光著『 ミネラルウォーターで生まれ変わる』、
星野正美監修『どう使う、どうすすめる 飲みたい水』

【 ミネラルウォーターの簡単な『硬度』の出し方】
 カルシウムとマグネシウムの量から計算します。
 ミネラルウォーターのラベルに硬度表示がないときに便利な計算方法です。
 硬度=100×(Ca÷40.08+Mg÷24.305)
   =Ca×2.495+Mg×4.114
   ≒『Ca×2.5+Mg×4』で出せます。
 例えばカルシウム(Ca)が10ppm、マグネシウム(Mg)が5ppmの水なら
 カルシウム(Ca)10×2.5+マグネシウム(Mg)5×445となります。


【 おいしいご飯の炊き方】
 お米も乾物ですから最初に浸した水をいちばんよく吸収します。最初に浸すお水とお米をといだ後、最後に・はる・お水だけでもミネラルウォーターを使うとふっくらとした、おいしいご飯ができあがります。


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