水の考察館⑧ 『水』学問 その7 


 ミネラルウォーターで生まれ変わる①
(早川 光)
 ほんの10年くらい前まで「タダの水をお金を出して買うなんて!」といわれていたのがウソのように、今やミネラルウォーターは私たちの生活にとって不可欠な存在になっています。
 1998年のミネラルウォーターの消費量は約87万4000キロリットル(日本ミネラルウォーター協会調べ)で、過去最高。1986年にはわずか8万2000キロリットルだったのですから、わずか12年で、なんと10倍以上に増えています。ここ数年の間に、コンビニエンス・ストアやスーパーの棚に並ぶミネラルウォーターの種類もずいぶん増えました。そして私たちが日常生活の中でミネラルウォーターを使う頻度も非常に多くなっています。
 現在、日本国内に流通しているミネラルウォーターの数は300から400種類もあるといわれています。テレビコマーシャルで知られる有名メーカーの水、地方の会社が村おこしの名産品として販売している水、そしてフランスやアメリカなどから輸入された外国産の水など、まさに多種多様なミネラルウォーターが巷に溢れています。
 しかし、これだけポピュラーな存在になっているにもかかわらず、ほとんどの人が、ミネラルウォーターの持つすばらしい潜在能力を十分に使いこなしていません。
 ミネラルウォーターは、飲んでおいしいというだけの水ではありません。使い方次第では、料理を鉄人の味に変え、ごはんをつやつやに炊き上げ、コーヒー本来の香りとコクを引き出します。そればかりではありません。荒れた肌をみずみずしく再生し、便秘解消に役立ち、疲労回復を助け、さまざまな成人病を予防し、おまけにダイエットの手伝いすらしてくれるのです。


 私がミネラルウォーターの持つ、はかりしれない能力について知ったのは、ミネラウォーター発祥の地であり、最先進国であるフランスのテルマリズム(水治療)・センターを取材したことがきっかけでした。
 テルマリズムとは、もちろんミネラルウォーターを用いた病気治療のことです。フランスには日本でも有名な〈エビアン〉や〈コントレックス〉をはじめ、100カ所以上のテルマリズム・センターがあり、そこでは腎臓病、高血圧症、アトピー性皮膚炎など、さまざまな病気の治療が行なわれています。
 何より驚いたのは、これらの治療に国の健康保険が適用されるということです。つまりフランスでは、ミネラルウォーターの治療効果が、医学的にきちんと認められているのです。実際に毎年何万人という人たちが、ミネラルウォーターによって健康な体を取り戻しています。
 そう、ミネラルウォーターには病気を治す力だってあります。ただ私たちは今までそれを知らなかっただけなのです。
 本書は、そうしたミネラルウォーターの持つ潜在能力を正しく理解し、ムダなく使いこなしてもらうための本です。


 一見、どれも同じに見えるミネラルウォーターですが、じつはそれぞれに、異なった個性や特徴を持っています。飲んでもミネラルをほとんど補給できない水もあれば、牛乳のようににミネラルが豊富な水もあります。また料理に使うことで素材の持ち味を引き出してくれる水もあれば、反対にまったく料理に不向きな水もあるのです。そうした個性に合わせてミネラルウォーターを使い分けることができれば、ミネラルウォーターの持つ価値がぜんぜん変わってきます。
 そしてもうひとつ、ミネラルウォーターには正しい飲み方というものがあります。ミネラルを効率よく吸収するためには、飲むタイミングや量も人切な要素。ただやみくもに飲むだけでは意味がないのです。正しい飲み方を知ることで、体に表れる効果もまったく違ってきます。
 数年前に比べれば大分価格が安定してきたとはいえ、日本のミネラルウォーターの価段はまだまだ安いとはいえません。しかし、決して安くはないミネラルウォーターだからこそ、ムダなく有効に使いこなしたいもの。


ミネラルウォーターって何?
ミネラルウォーターが売れている理由
 1998年の統計によれば、ミネラルウォーターの平均消費量(ひとりあたり1年間にどのくらい飲んでいるか)は、6.9リットルにも達しました。
 国民ひとりあたり7リットル弱というと、ずいぶん少ない感じがしますが、これは日本全国の赤ちゃんからお年寄りまでを含めた平均値。ミネラルウォーターは良質な飲み水に恵まれている地方ではほとんど売れていませんから、水道水に問題を抱えている東京や大阪の、20〜30代の人々だけで統計を取れば、おそらく年間何十リットルという数字になると考えられます。
 ミネラルウォーターがここまで消費量を増やしている背景には、まず、・用途の多様化・ということが挙げられます。
 ほんの15年ほど前まで、日本でミネラルウォーターといえば、ウイスキーの水割り用のことでした。それが家庭用の飲料水として認知されるようになったのは、1983年に発売された〈六甲のおいしい水〉がきっかけです。


 この〈六甲のおいしい水〉が華々しいテレビコマーシャルと共に登場するまで、日本でミネラルウォーターを一般市民に定着させるのは不可能と考えられていました。それまでの日本では「水と安全はタダで買える」という考えが常識でしたから、ヨーロッパ諸国のように「お金を出して水を買う」という習慣が日本人に普及するとは、誰も想像していなかったのです。
 ところが、そうした予想に反して〈六甲のおいしい水〉は大成功をおさめました。それは、この商品の発売と前後して、それまで日本人が「世界一の水」と誇りを抱いていた日本の水道水に、トリハロメタンやのトリクロロエチレンといった発ガン性物質が含まれていることが、さまざまなメディアで報道されるようになったことと関連しています。
 つまり、日本でミネラルウォーターがその市場を拡大した最大の理由は「水道水への不信感」にあったのです。健康に不安を感じる人たちが、・水道水の代用品・として買い求める、それがミネラルウォーター普及の第一歩でした。


 しかし、1990年代に入ってからは、大分事情が変わってきました。バブル時代に起こったグルメブームによって、それまで水道水の代用品だったミネラルウォーターが、一躍、食生活のフィールドでも注目されるようになったのです。料理に向く水、コーヒーがおいしくなる水などと、用途に応じたミネラルウォーターの使い分けがされるようになってきたのもこの頃からです。
 そして、1993年には、コンビニエンス・ストアーで輸入ミネラルウォーターのミニボトルが販売されるようになり、ミネラルウォーターを片手に町を歩く若者の姿がごく自然に見受けられるようになりました。また同時期にミニボトルを入れて首から提げる・エビアンボトルホルダー・が登場し、流行になったのは、まだ記憶に新しいところです。
 ここ数年では、スーパーモデルや有名芸能人のインタビューなどがきっかけとなって、ミネラルウォーターのダイエット、美容への効果が若い女性の注目を集めています。
 とりわけ、・スリムウォーター・として話題となった〈コントレックス〉の存在は、水とダイエットの関係を大きくアピールしました。最近では、なんと洗顔や歯磨きにまでミネラルウォーターを使うという人が増えているといいます。
 こうした・用途の多様化・こそが、ミネラルウォーター市場の急成長の理由です。すでにミネラルウォーターは・水道水の代用品・から、・生活必需品・へと大きな進歩を遂げているのです。


②ミネラルウォーターって何?
 しかし、ここまでシェアを拡げ、一般家庭に完全に浸透しているミネラルウォーターなのに、実際にミネラルウォーターがどういう水を指しているのか、何がミネラルウォーターの基準なのかについては、ほとんど知られていません。
 もしあなたが「ミネラルウォーターってなんですか?」と質問されたら、なんと答えますか。
 おそらく「ミネラルのたくさんはいった水」とか「おいしい水」「体にいい水」などと答えるのではないでしょうか。
 もちろん、そうした見解が全く間違っているわけではありません。ただ、残念なことに日本では、天然自然の水ではないもの、成分にミネラルをほとんど含まないものでも、ミネラルウォーターの一種として販売されているのが現状です。


 1990年に農林水産省がだした「ミネラルウォーター類の品質表示ガイドライン」によると、日本のミネラルウォーター類は、4つの種類に分けられています(表参照)。
 まず、特定の水源から取水した地下水に加熱や濾過といった殺菌(除菌)がほどこされたものを〈ナチュラルウォーター〉といい、この中でが地下で自然に溶け込んだものを〈ナチュラルミネラルウォーター〉といいます。そして〈ナチュラルウォーター〉と同じ地下水が水源であっても複数のを混ぜ合わせたり、人口的にを添加したりしたものを〈ミネラルウォーター〉と呼びます。それ以外の水、つまり地下水以外の地表水や水道水などを水源としたものはすべて〈ボトルドウォーター〉と呼んで区別しています。
 このガイドラインは業者向けに作成したものなので、一般の人にはまぎらわしく、ちょっと目を通したくらいではわかりにくい内容となっています。ただ、私たちがイメージしているミネラルウォーターという言葉のピュアなイメージとは、ちょっと違うものだということがおわかりでしょう。このガイドラインの大きな特徴は、水に含まれるミネラルの量について全く触れられていないということです。だからほとんどミネラルが含まれていない水でも、堂々と〈ミネラルウォーター〉と名乗ることができるのわけです。
 もっと疑問に思うのは、ミネラルを後から人口的に添加したり、複数の水源の水を混ぜたりすることが認めれれている点です。これだけでミネラルウォーターを自然の水と呼ぶことはできなくなります。そして〈ボトルドウォーター〉に分類される水に至っては、なんと水道水をそのまま詰めてもOKなのですから、驚くほかはありません。
 加えてこのガイドラインには、健康への影響については一行も触れられていません。水道水と同程度に安全であればいい、ということは記されていても、健康にいいかは全く問題とされていないのです。


表1・ミネラルウォーター類の分類
分  類
品  名
原  水
処理方法

ナチュラル
ウォーター

ナチュラル
ウォーター

特定水源より採水された地下水

濾過、沈殿および加熱殺菌に限る

ナチュラル
ミネラル
ウォーター

特定水源より採水された地下水のうち、地下で滞留または移動中に無機塩類が溶解したもの。鉱水、鉱泉水等

濾過、沈殿および加熱殺菌に限る

ミネラル
ウォーター

ミネラル
ウォーター

ナチュラルミネラルウォーターの原水と同じ

濾過、沈殿および加熱殺菌以外に次に掲げる処理を行ったもの(複数の原水の混合、ミネラル分の調整、オゾン殺菌、紫外線殺菌、曝気等)

ボトルド
ウォーター

ボトルド
ウォーター
又は飲料水

飲用適の水(純粋、蒸留水、河川の表流水、水道水)

処理方法の限定なし

(農水省「品質表示ガイドライン」より)

 どうしてこのような曖昧で不明瞭なガイドラインが施行されているのか、その最大の理由は、これまで日本では、ミネラルウォーターがジュースやサイダーと同じ清涼飲料水の一種と考えられてきたからです。清涼飲料水を製造する上で最も配慮しなくてはならないのはその安全性であり、健康への適性ではありません。。このガイドラインが安全性だけに偏ったものになっているのはそのためです。日本のミネラルウォーターに加熱または濾過よる殺菌(除菌)を義務づけているのも同じ理由からです。
 殺菌をすることは、一見、安全性に配慮しているかのように思えます。しかし極端な言い方をすれば、日本では水源に雑菌がウヨウヨしていても、水源の近くに産業廃棄物の処理場があっても、殺菌さえしていれば〈ミネラルウォーター〉と名乗ることができるのです。果たしてこうして製造されたものを・大自然に育まれた健康的な水・と呼ぶことができるのでしょうか。
 もしあなたが「ミネラルウォーターはすべてがミネラルがたくさん入っていて、健康にいい水」と思い込んでいたとしたら、その考えはすぐに改めた方がいいでしょう。


③ミネラルウォーターって何?
こんなに厳しいヨーロッパの基準
 もちろん日本で売られているミネラルウォーターのすべてが、ミネラル分のあまり入っていない水や、天然の水とは呼べないものばかりではありません。
 日本産のミネラルウォーターでも〈ナチュラルミネラルウォーター〉に分類されるものの中には、水道水よりも豊富なミネラルを含んでいる水や、水源周囲の環境保全に努力している水、ミネラルバランスを壊さないために非加熱のフィルター処理しかしていない水がたくさんあります。
 それでも、まったくの天然のまま、人為的な処理が一切加えられていない水は、ヨーロッパの〈ナチュラルミネラルウォーター〉にしかありません。
 それはなぜかといえば、ヨーロッパ(EU加盟国)のミネラルウォーター製造基準が、日本とは比較にならないくらい厳しいものだからです(表2参照)。
 ヨーロッパにおける〈ナチュラルミネラルウォーター〉の条件を簡単に整理すると、以下の4つになります。
 ・水源があらゆる汚染から完全に隔離されている地下水であり、また水源の周囲の自然環境かきちんと保護されていること。
 ・飲み続けることで健康に好適な特性があることが、科学的、医学的、または臨床学的に証明されていること。
 ・人体にとって安全な生菌が正常な範囲内で生きており、殺菌やミネラル分の添加など、あらゆる人為的な加工をしていないこと。
 ・水が地下の水源から一切空気に触れることなくボトリングされていること。


 これだけでも、日本のガイドラインとの大きな違いがおわかりでしょう。
 じつは他にも「人体の健康に有益なミネラルを一定量保持していること」や「その含有成分や温度、および他の性質が常に安定していること」といった、複雑な条件が山ほどあるのですが、とにかくヨーロッパでは「水源には一切手を加えない」ことを〈ナチュラルミネラルウォーター〉を生産する上での大前提としているのです。
 日本人の感覚では「殺菌しない生水を飲んで大丈夫なの?」と考えるところですが、ヨーロッパ人にしてみれは、日本の殺菌したミネラルウォーターは「殺菌しなければいけないほど汚れた水なの?」いうことになります。天然の地下水には体にとっていい作用をもたらす生菌も含まれてますから、無殺菌の“生きた水”でなくては本当の〈ナチュラルミlラルウォーター〉とはいえない、というのがヨーロッパの考え方です。
 そのかわり、ヨーロッパでは水源と採水地の管理は徹底しています。たとえば〈ヴィッテル〉の水源では、その周囲6500ヘクタールを保護区に指定し、地上に建造物を建てるのはおろか、すべての地下活動を禁止して地下水を守っていますし、保護区内の農薬や化学肥料の使用すら認めていません。ここまでの水源保護と管理をすることによって、初めて無殺菌の水を商品として販売することができるのです。


表2・ヨーロッパ(EU)のミネラルウォーター基準
分  類
品  名
基  準

ボトルドウォーター

ナチュラル
ミネラルウォーター

○いかなる殺菌処理もしてはいけない
○厚生省の審査と承認を必要とする
○人体の健康に有益なミネラル分を一定量保持する
〇ミネラルバランスが良い
〇水質の汚染を防ぐため、採水地周辺の環境保全が常に行なわれている
〇地下の泉から直接採水され、添加物を加えることなくボトリングする

スプリングウォーター

〇l カ所の地下の泉から直接採水され、添加物を加えることなくポトリングする

プロセスドウォーター

〇加工水。熱処理や濾過など、人の手を加えたものはすべてこれにあたる

浄水器の水はミネラルウーターではない
 最近の浄水器の広告には「水道水をミネラルウォーターに変える」といった表現が、しばしば見受けられます。中には「水道水を天然水に変える」といった誇大広告まがいのものまであります。そのためでしょうか、消費者の中には「浄水器の水もミネラルウォーターだ」と信じている人がかなりいます。
 はっきりいって、浄水器を通した水はミネラルウォーターではありません。浄水器には水道水をまずくする要因である塩素や、発ガン性物質のトリハロメタンなどを除去する機能はありますが、水道水をミネラルウォーターに変える“魔法の壺”などでは決してないのです。
 先ほど説明した通り「日本のガイドラインでは〈ミネラルウォーター〉は「特定水源より採水された地下水を原水とする」と定めています。ですから、河川水やダムの水を原水とする水道水を浄水器でどう濾過したところで、ミネラルウォーターと呼ぶわけにはいきません。
 ましてヨーロッパの厳格なミネラルウォーターの製造基準で考えれば、浄水器を通した水はあくまで“水道水の加工水”にすぎないわけで、それを〈ミネラルウォーター〉と表記するのは詐欺にも等しい話ということになります。
 それなのにこうした広告が許されているのは、日本の“ミネラルウォーター”や“自然水”といった言葉が示す意味があやふやだからです。
 ミネラルウォーターが単純に“ミネラルを含んだ水”の意味であるとすれば、ミネラル成分をまったく含まない水道水はありえないのですから、水道水もミネラルウォーターになってしまいます。また河川水やダムの水ももとは雨水だから自然の水なのだ、と言い切ってしまえば、水道水から塩素を抜いただけの水も“自然の水”ということになってしまうのです。
 だから私たち消費者は、こうした広告の言葉の使い方、表現の仕方には、常に注意深くなくてはいけません。実際に浄水器については、詐欺まがい商法の被害に遭う人が数多くいるからです。


ミネラルウォーターを分類する
ミネラルウォーターのラベルを読む
 これまでの説明で、ミネラルウォーターにはさまざまな種類があることがおわかり頂けたと思います。
 しかし、それを私たち消費者はどのように見分けたらいいのでしょうか。一見しただけでは、スーパーやコンビニエンス・ストアで売られているミネラルウォーターはどれも何じように思えます。商品名だって「◯◯の自然水」「◯◯の名水」など、外国産の水を除けばどれも似たようなものです。
 そういう場合、最も簡単なのが、ミネラルウォーターのボトルに貼られている・ラベル・を読むことです。
 ラベルに書かれている内容は、その製品によってまちまちなのですが、抜本的には以下の情報がわかるはずです。
 ・品名
 ・原材料名
 ・殺菌方法
 ・賞味期限
 ・原産国
 ・含有ミネラル成分
 ・pH(ペーハー)値


 このうち「品名」の部分には、ミネラルウォーター、ナチュラルミネラルウォーターといった、先ほど説明した農林水産省の品質ガイドラインによる分類が表示されています。
 そして「原材料名」とは、そのミネラルウォーターの原水にどのような種類の水を使っているかが表記されています。〈湧水〉〈鉱泉水〉〈浅井戸水〉といったものですが、それについては後で説明しましょう。
 「含有ミネラル成分」は、そのミネラルウォーター1リットル中に、カルシウムやマグネシウムといったミネラルが、どれだけ含まれているかを書いたものです。
 最後の「pH(ペーハー)値」とは、わかりやすくいえば酸性かアルカリ性かを示す数値です。ペーハーは数値が7.0のものが中性、それ以上がアルカリ性、以下が酸性となります。
 うっかり見過ごしてしまいそうな小さなラベルに、じつはこれだけの情報が詰まっているのです。この情報をきちんと読み取ることができれば、その水の持つ性質、適性といったこともだいたいわかります。
 それでは、ラベルの表記の中でも重要なポイントである〈品名〉〈殺菌力法〉〈含有ミネラル成分〉について、細かく説明していきましょう。


一番おいしい水は ・地下水・
 最初の〈品名〉の項にある、ミネラルウォーター、ナチュラルウォーターなどの表記のうち、どの水を選べばいいかと問われたら、私は〈ナチュラルミネラルウォーター〉と書かれているものをすすめます。
 それは〈ナチュラルミネラルウォーター〉が自然な形でミネラルが溶け込んだ地下水、つまり、私たちが考える・自然水・のイメージに最も近いものだからです。
 基本的に、地下水は地球上に存在する水の中で最も飲み水にふさわしいものです。なぜなら地下水とは、雨水が大地によって濾過されてできた水だからです。雨水は、地層という天然のフィルターによって不純物を取り除かれ、かわりに地層の中のさまざまなミネラル分を受け取って、生命を育むのに適した水に生まれ変わります。これが〈ナチュラルミネラルウォーター〉の原水である・地下水・なのです。
 地下水には、浅井戸水、深井戸水、湧水、鉱泉水、伏流水といった種類があります。これらについて細かく説明すると専門的で難しくなってしまいますから、わかりやすくいうと、地下水には地層の浅い所にあるもの〈自由面地下水〉と、深い所にあって圧力を帯びている水〈被圧地下水〉があり、浅い地下水を掘った井戸を・浅井戸・、深い地下水を掘った井戸を ・深井戸・といいます。例外はありますが、基本的に深井戸の水の方が、溶け込んでいるミネラルの量が多く、また外世界から隔離されているため安全性が高いと考えられています。
 地層の中にある地下水に対して、外気に触れる形で存在している水を・地表水・と呼びます。川や湖、池、沼などの水はすべて地表水です。これらの水ももとは雨水や地下水ですが、そこにさまざまな有機物や不純物が流れ込んでしまっています。
 ラベルにある〈原材料名〉の頂は、その製品がどの原水を使用しているかを示したものです。もちろん〈ナチュラルミネラルウォーター〉の原水はすべて地下水ですが、〈ボトルドウォーター〉に分類される水の中には地表水や水道水を原水としているものもあるので注意して見て下さい。


②ミネラルウォーターを分類する
無殺菌、フィルター除菌の水を選ぶ
 先ほど、日本のミネラルウォーターは殺菌(または除菌)をしているのに対し、ヨーロッパ(EU加盟国)のナチュラルミネラルウォーターは無殺菌のままである、と説明しましたが、厳密にいうと、ミネラルウォーター類は、その殺菌方法によって、以下の4つに分類されます。
無殺菌ミネラルウォーター
 加熱殺菌をはじめとするいかなる殺菌処理も、フィルターによる除菌処理もせず、地下の水源から汲み上げたそのままを、空気に触れることなくボトリングしているもの。一切の処理がされていないので、真の意味で・V然水・と呼ぶことができる。ヨーロッパで製造されているすべての〈ナチュラルミネラルウォーター〉がこれにあたるが、日本にはこれに該当するものは現在のところない。
フィルター除菌ミネラルウォーター
 加熱などによる殺菌処理はしていないが、セラミックや中空糸膜などの濾過フィルターを用いて、除菌処理をしたもの。有害な雑菌を取り除いてあるのはもちろん、非加熱であるため、水に含まれるミネラルが減少したり水のおいしさの要素である酸素や炭酸ガスが失われることがなく、自然に近いおいしさが味わえる。ただし雑菌と何時に人体に有益な生菌も除去されてしまう。
非加熱殺菌ミネラルウォーター
 加熱殺菌でもフィルター除菌でもなく、オゾン殺菌や紫外線殺菌といった非加熱の殺菌処理をしているもの。日本のメーカーで使用しているところは少ないが、アメリカではこれらの殺菌方法が最もポピュラーである。非加熱だけに水のおいしさは保てるが、その安全性に疑問を抱く向きもある。日本ではこの殺菌をした水はナチュラルミネラルウォーターとは認められない。
加熱殺菌ミネラルウォーター
 日本の食品衛生法にある「85度で30分以上加熱するか、それと同等以上の熱量を加える」という定めに従って殺菌したもの。日本で市販されている商品の多くがこの方法を採用している。ただし実際の処理の仕方は各メーカーによってまちまちである。安全面では最も確実な方法だが、微量ではあるが水の中の酸素や炭酸ガスが失われ、ミネラル分が減少、変質する可能性がある。


 あくまで衛生という観点からいえば、ミネラルウォーターの殺菌処理を否定することはできません。しかし、飲んでおいしく、また健康維持に役立つという点を考慮すれば、製造工程でのミネラルウォーターの処理は、なるべく少ない方が望ましいといえます。
 ですから、飲むという目的であれば、加熱殺菌の水よりも、無殺菌、またはフィルター除菌のミネラルウォーターを選ぶ方がいいでしょう。
 しかし、炊飯や料理、またはコーヒーや紅茶をいれるといった目的に使用する場合は、結局、加熱をするわけですから、加熱殺菌をした水でも全く問題はありません。


硬水と軟水
 もうひとつ、ミネラルウォーターを選ぶ上で重要なファクターに〈含有ミネラル成分〉があります。
 私たちがミネラルウォーターを買う時、気にしているようで、いちばん見落としがちなのが、この部分だと思います。それは多くの人が「ミネラルウォーターなんだから、ミネラルが入っているのはあたりまえ」と考えているからです。
 しかし実際はそうとは限りません。ラベルをじっくり読めば一目瞭然ですが、含有ミネラルの量やバランスは商品によってまったくといっていいほど違います。


 たとえば、フランス産の〈コントレックス〉のカルシウム含有量は1リットル中に486ミリグラムもありますが、反対にカナダ産の〈バラッサカナディアン〉にはわずか0.56ミリグラムしか含まれていません。その差はじつに860倍です。またベルギー産の〈バルヴェール〉はカルシウムが67.6ミリグラムも含まれているのにナトリウムは1.9ミリグラムしかありませんが、ノルウェー産の〈ファリス〉はカルシウム25ミリグラムに対しナトリウムはなんと500ミリグラムも含まれています。
 ですから、その水の個性や特徴をつかむ上で、ラベルの〈含有ミネラル量〉を読むのは非常に大切なことです。水でカルシウム補給をしたいならカルシウム含有量の多いもの、単純に味にクセのないものが飲みたいならマグネシウムやナトリウムの少ないもの、といったようにニーズに合った水を探す目安となるからです。


 しかし、ミネラルについての知識があまりない人にしてみれば、カルシウムがいくら、マグネシウムがいくつと、数字を見比べてもよくわからないのが実際のところ。そういう人にとってわかりやすい基準となるのが・硬度・です。
 この・硬度・という青葉は、誰でも耳にしたことがあると思います。硬度とは水に含まれるカルシウムとマグネシウムの量を数値化したもので、その数値の低いものを・軟水・、高いものを・硬水・と呼んでいます。
 日本では一般的に硬度がl00未満のものを軟水、それ以上を硬水と呼ぶのが普通ですが、最近は輸入の水の種類が増え、さまざまな硬度の水が販売されるようになってきたので、同じ硬水でも、硬度l00〜300程度のものを・中硬水・と呼び、便宜的に区別するようになりました(※ただし理化学辞典では、硬度178未満を軟水、178以上357未満を中間の水、357以上を硬水としている)。
 この分類では、日本産のミネラルウォーターのほとんどか軟水に属します。有名ブランドでは〈南アルプスの天然水〉が硬度30、〈六甲のおいしい水〉は硬度84。硬水が多いとされるヨーロッパの水でも、硬度14の〈スパ〉や硬度50の〈ボルヴィック〉は軟水に分類されます。中硬水の代表は硬度177の〈バルヴェール〉や硬度297.5の〈エビアン〉。そして硬度733.6の〈サンペレグリノ〉や硬度1555の〈コントレックス〉が硬水というわけです。


③ミネラルウォーターを分類する
硬度による水の使い分け
 硬度は、そのミネラルウォーターの用途にも大きく影響してきます。
 硬度l00未満の軟水は、炊飯や和風だしなど日本料理全般、そして緑茶をいれたりするのに適しています。反対に硬度300以上の硬水で炊飯をするとごはんがパサパサになったり、緑茶をいれると味や香りが出なかったりします。
 硬度l00以上300未満の中硬水は、洋風だしを取ったり、煮物や鍋料理をするのに向いています。また、ウイスキーの水割り用にするのにも合っています。そして硬水は、スポーツ後のミネラル補給や、妊産婦のカルシウム補給、そして便秘解消やダイエットにも役立ちます。
 また、硬度による分け方とは別に、炭酸ガスを含む水(発泡水)と含まない水(無発泡水)という分類もあります。
 そして同じ炭酸ガスの入った水でも、地層の中のガスを含む天然の発泡水と、人工的にガスを添加した水の2種類があります。ちなみにイタリア産の「フェラレーレ」は天然発水、イギリス産の「ティナント」はガスを添加した発泡水です。味はほとんど変わりませんが、一般に天然の発泡水は人工のものに比べて炭酸ガスの泡がきめ細かく、発泡がより長く持続するといわれています。
 これらの発泡水はヨーロッパでは食前酒がわりに飲まれることが多いのですが、各種のカクテルに用いたり、果汁を割ってスカッシュ類を作るのにも最適です。


pH(ペーハー)値による分類
 硬度による分類ほどは使い分けの目安にはなりませんが、ペーハー値によっても、その水の適性がわかります。
 ペーハー値とは、正確にいえば溶液中の水素イオン濃度を表す数値のこと。わかりやすくいえばその溶液が酸性かアルカリ性かを示す目安です。pH7.0を中性とし、それより数値が大きくなるとアルカリ性、小さくなると酸性を示します。小学生の時にやったリトマス試験紙を使った実験を思い出す人もいるでしょう。
 人間が飲む水としては、当然ながらアルカリ性や酸性が強すぎるものは向きません。飲めないということはありませんが、健康への適性を考えれば弱アルカリから弱酸性くらいの水がふさわしいと考えられています。ミネラルウォーターのペーハー値はだいたい5.0から9.0の範囲に収まるものが多く、このうち、pH7.1〜8.0のものを弱アルカリ性ミネラルウォーター、pH6.0〜6.9までを弱酸性ミネラルウォーターと呼びます。
 弱アルカリ性ミネラルウォーターは、健康促進に効果があるといわれています。そもそも人間の健康時の血液は、常にpH7.35〜7.45の弱アルカリ性に保たれているため、弱アルカリ性の水は体内に無難なく吸収されるからです。とりわけpHを調節する機能が未熟な乳幼児にとっては、より負担が少ないと考えられます。
 弱酸性のミネラルウォーターは、化粧水がわりに使うのに向いています。それは人間の皮膚や髪の毛の表面が、弱酸性のペーハー・バランスだからです。それよりも数値が低い酸性の水になると、弱い殺菌効果がありますから、うがいや洗顔に用いるのもいいでしょう。また腐りにくい特性があるので、災害時に備えて長期保存するのにも向いています。
 弱アルカリ性のミネラルウォーターには、pH7.2の〈エビアン〉や、pH7.4の〈六甲のおいしい水〉、pH7.3の〈コントレックス〉など。弱酸性のミネラルウォーターには、pH6.4の〈屋久島縄文水〉やpH5.8の〈スパ〉などがあります。


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