水回りの材料館③         ゴム  


ゴム材料の特徴と選定
 ゴムは大きく天然ゴムと合成ゴムに大別されます。
 天然ゴムの歴史は古代までさかのぼり、樹木から出る液体を凝固、加工した物です。
 合成ゴムは比較的歴史が浅く原油を原料にして作られます。自動車の発達と共にゴムの消費量が急増し、天然ゴムの生産地が限られているため合成ゴムの開発、生産が盛んになりました。現在では合成ゴムの生産料が天然ゴムを上回っています。
供給
 天然ゴムの供給は主に東南アジアなど赤道を挟んだ高温多湿な地帯です。特にタイ、インドネシア、マレーシアで、この3カ国で世界の総生産量の7割を占めます。
 ゴム樹液は一年中採液されますが、乾期や2〜4月にかけての落葉期には産出量が減少し、11月〜1月の雨期が最大の製産期になります。また、天然ゴムの生産はゴム樹の植付けから採液まで数年を要するため、価格が高騰しても生産量を増加することができず、また価格が下落しても小規模農園は減産することできないので、価格の上下に対して生産量が変化しない特徴を持っています。

需要
 天然ゴムの需要は1975年以降増加し続けていましたが、近年は世界景気が後退、停滞していることで伸び悩んでいます。
 最大の需要先は自動車タイヤとチューブで、天然ゴム全体の8割を占めます。このため世界1位、2位の自動車生産台数を誇る米国、日本は天然ゴム需要に大きな影響を与えています。
(1)ゴムの歴史
ゴムの木 私たちの暮らしのあらゆる分野で活用されながら、とくに注目されるというわけでも なく、ごく当然のように存在するゴム。
 しかし、その特性(ゴム弾性)の解明には約130 年もの年月を要したほど、神秘的で不思議な性質を備えた物質です。

 ゴムの木
ゴムの原料となる液を樹皮から分泌する樹木で、パラゴムやインドゴムなど多く の種類がある。パラゴムはブラジル原産で、高さ30mにもなる大木である。現在 では東南アジアに主産地が移り、世界の天然ゴム生産のほとんどを占めるに至っ ている。インドゴムは観賞用として栽培されている。

コロンブス、ゴムと出会う

 人類のゴム利用の歴史は古く、6世紀のアステカ文明や、11世紀の南米マヤ文明に その痕跡があると推測されています。
 しかし、ゴムを初めて文明社会に紹介した人 物という点では、かの有名なコロンブスである、というのが定説となっています。 彼は、1493年出発の第2回目の航海途中でプエルトリコとジャマイカに上陸します が、ここで原住民が遊びに使用していたゴムボールと初めて出会い、それがボ〜ン ボ〜ンと弾む様子を見て驚愕したと伝えられています。天然ゴムはスペインに持ち 帰られますが、その後の200年余りは、希少品として珍重される他にはあまり利用 価値がありませんでした。

6世紀 アステカ文明。ゴム製の道具を神に捧げる壁画。
11世紀 南米マヤ文明。ゴムの使用が推測される遺物。
1493年 コロンブス、第2回目の航海へ出発し、その航海途中でゴムボールと出会う。
【豆知識】 ゴムを意味する英単語Rubberは、 rub out(擦り消す)から派生したもの。また、弾性ゴムのことを仏語でca outchouc(カオチュー)、独語でKautchuk(カオチューク)と発音しますが、 これはインディオの言葉で「涙を流す木」という意味で、ゴムの木が白い 樹液を出すことに由来しているとされています。


偶然が生んだ、大発明。

 1770年代に入って、ゴムはレインコートや消しゴムとして用途が若干拡大したものの未だ加硫法の発明がなく、ゴムの最大の特長である弾性体としての利用は不可能 でした。
 画期的ともいえる加硫法の発明は1839年で、米国人チャールズ・グッドイ ヤーが偶然によって生みだしました。研究室で眠ってしまった彼は、翌朝、自分の ゴム靴の弾性が大幅に増加していることを発見し、その原因が、睡眠中に何かの拍 子でゴム靴に薬品がこぼれ、ストーブで加熱されたためであったことを知りました。 こうして、弾性、不浸透性、電気絶縁性、強じん性、耐久性をもった加硫ゴムが発 明されたわけです。
1770年 この頃、ジョセフ・プリーストーリという化学者が、鉛筆の字を消すゴムの効用を 発見。
1773年 この年にゴムを手に入れた仏国人ラ・コンダミーヌがゴム引布を作り、
その後、英国 人マッキントッシュがレインコートに活用。
1839年 米国人チャールズ・グッドイヤーが、加硫法を発明。
1843年 英国人ハンコックが種々の加硫法を開発。
【豆知識】 当時、ゴムの樹はアマゾン流域のジャン グルにしか点在しなかったため、「黒い黄金」と呼ばれるほど非常に高価なもの でした。しかし、1876年に英国人ウィッカムがゴムの種子をアマゾン流域からイ ギリスに持帰り、ロンドンの植物園で発芽に成功させたことから、生産と需要が 一気に拡大しました。

自動車が走る。タイヤで走る。

 ゴム工業の発展の歴史は自動車産業とともにある、といっても過言ではありません。
 1880年代に入って、ダイムラーとベンツによってガソリン自動車が発明され、1887年 にジョン・ボイド・ダンロップが空気入りのタイヤを考案、3輪車用に初めて使用し て以来、ゴムは自動車タイヤとして急速にその需要を拡大しました。
 また、今世紀初 頭において人工ゴムの研究開発が盛んになり、汎用合成ゴム、特殊合成ゴム、革新的 合成ゴムへと進化し、大量生産が可能になるにおよんで、各種ゴム製品は私たちの暮 らしのあらゆる分野で利用が広がり、今や最も身近な物質の一つとなっています。

1887年 自動車用空気入りタイヤ登場。
1905年 米国人オーエンスレガーにより加硫促進剤が発見され、現在のゴム工業の基礎が確立。
1910年 この頃までに、各種研究開発を通して汎用合成ゴムを作る方法が研究的に確立。
1924年 これより以降、汎用合成ゴムの欠点を改良した特殊合成ゴム、さらにこれらを進化させた
革新的合成ゴムの研究開発が本格化し、現在に至るまで多種多様なゴム製品が誕生。
【豆知識】 生ゴムは大別して、天然ゴムと合成ゴムが ありますが、その形態によっても区別されており、固形ゴム、ゴムラテックスなどがあり ます。さらに、固形ゴムにはタイヤ等に利用される汎用ゴム、耐油・耐熱・耐寒・耐候性 を備えた特殊ゴム、導電性や感光性等の機能を付加した高機能性ゴムなどがあります。

(2)ゴムの性質

① ポリマー(高分子)としてのゴム
ゴムとなるためには、高分子化合物であることが必要です。

② ゴムは液体と似ている
ゴムは固体ですが、液体と同じような性質を持っています。

③ ゴムとプラスチックスの違い
高分子でもゴム弾性を示さないものもある。

④ ゴム弾性の温度依存性
ゴムであるとかゴムでないという議論は、私たちが生活している室温付近での話となります。

⑤ ゴム(弾性)の特徴
単位断面積Acm2の加硫ゴム試料に、Fkgfの力を作用させたとき、長さl0cmの試料がlcmに伸ばされたものとすると、

F/A=S=E0(l−l0)/l0=E0×?

が成立し、Sは応力、E0はヤング率という係数で、?はひずみです。

⑥ ゴムの基本的な特徴のまとめ
・ ゴム弾性を示す。
・ ヤング率が低い。
・ 粘弾性を示す。
・ 温度依存性が大きい。
・ 化学的架橋が可能。
・ 電気絶縁性である。
・ 老化現象がある。


(3)主なゴム製品

①タイヤ
 空気入りタイヤ、ソリッドタイヤに分かれる。前者は自動車、自転車用タイヤで、ソリッ ド タイヤは、台車などの搬送用やモノレール、ジェットコースター車輪に使われる。
 乗用車用には、天然+SBR、トラックや建設用タイヤには天然ゴムオンリー、自転車に は天然+EPTが使用され、ソリッドタイヤには、ウレタンゴムも使用される。

②ベルト
 カーカスとカバーゴムからなり、カーカス部は繊維やスティールにて補強する。カバーゴ ムは機械的損傷や湿気からカーカスを保護する。
<カバーゴム>
 主にNR,SBR(耐熱用)が用いられるが、耐油性、耐炎性、食品用等の要求により、NBR,EPT,CRの他ポバール、テフロン等の樹脂も用いられている。

③ホース
 ライニング(チューブ)、カーカス、カバーゴムからなる。ライニングは耐流体、カーカスは耐圧強度、カバーゴムは外的環境からの保護と、可撓性を持たせる。
<燃料ホース(ガソリン)>
近年燃料漏れ及びガス透過の総量規制があり(米国)フッ素ゴムやテフロン薄膜を用いるようになってきている。
<潤滑油>
 NBRにて対応できるが、油中の各種添加剤により、高温時に劣化する場合がある。
<作動油>
 鉱物油系と水系(エステルタイプ)がある。前者はNBR、後者はEPT、11Rが用いられる。
<カバーゴム>
CRが主流。異種ゴムの場合、接着が問題で各メーカーのノウハウがある。

④ケーブル
シース(鞘)とカバーゴムからなる。シースの材質はNR、CR、CSM、NBR−P VC IIR、EPT、Si、EPTが用途に応じて使用される。
<低電圧汎用(〜1KV)>
NR、CRが主流。
<中〜高圧用(〜35KV)>
耐コロナ性の良いEPT、11Rが使用される。
<鉱山、飛行機、船、鉄道、電化製品>
耐炎性の要求があり、CR、CSM、難燃性シリコン、アフラスが用いられ、EPT、IIRとCSMの二重シースもある。


(4)ゴム材料の特性

① NR
高強度、高摩耗性、耐寒性などバランスが取れたゴムで、合成ゴムの目標とするところである。耐候性、耐油性、耐薬品性、耐熱性に劣る。
<使用例>
防舷材、ドライブゴム、球、エクスパンション、コンドーム等

② SBR
タイヤ用が消費量の大半を占め、その他は殆どNRとブレンドにて使用される。
<使用例> タイヤ、履き物、ホース等

③ クロロプレン(ネオプレン)
耐候性、耐オゾン性が特に優れる。難燃性、耐油性、接着性も優れている。ただし、 原料ゴムの貯蔵安定性が悪い。
<使用例> ベルト、ホース、電線、シールパッキン、ダイヤフラム、接着剤、スポンジ等

④CSM(ハイパロン)
高強度、耐摩耗性、耐薬、電気特性、明色性に優れるが、耐寒性、C−SETは余りよく ない。
<使用例> 床材、ロール、耐酸ライニング等

⑤NBR
耐油、耐摩耗性、耐熱、C−SETがよくオイルシール等のパッキン類に多用される。ニ トリル含量により多種グレードがあり、耐寒性、耐油性が異なる。
<使用例> ロール、O−リング、ガスケット、ホース等

⑥EPT
耐水、耐熱性、耐薬品、耐候性、耐オゾン性が優れるが、耐油性、接着性は劣る。
<使用例> スポンジ、ダイヤフラム 、水道用、エンジンクーラント用、蒸気缶パッキン等

⑦ブチル
自己補強性ゴムで耐寒、耐熱等EPTと同等程度に良い。耐植物油性が優れ、ガス透過性が ヒドリンに次いでよい。加工性、接着性に劣り、他のゴムとの相溶性もよくない。
<使用例> インナーチューブ、タイヤ成型用ダイヤフラム、緩衝材、防振材、防水剤等

⑧ウレタンゴム
代表的なものはエーテル系、エステル系である。形態は液状、ミラブルがあり後者はイオ ウ加硫、パーオキサイド加硫ができる。耐摩、耐油、耐オゾンに優れるが、耐水性、耐熱性 が悪い。機械的物性は経時変化する。製造後すぐ使わない方がよい。
<使用例> ロール、パッキング、ベルト等

⑨シリコンゴム
応い範囲の温度で使用可能(−60℃〜200℃)300℃にても数ヶ月は使用できる。 弾性、C−SET、電気特性、耐オゾン性が良好で、その他生理的、化学的不活性、非粘着 性、撥水性、透明、明色性など、他のゴムにない特徴を有する。引裂き強度、耐薬品性は劣 る。
<使用例> パッキン、ロール、食品用、医療用、ラバーモールド

⑩フッ素ゴム
耐油、耐熱、耐薬が良く万能のようであるが高温蒸気、アルコール、アルカリ、アミン、 エステル、ケトン等いわゆる油と対極をなす溶液には耐性が劣る。耐寒性は良くなくC−S ETも高温に比し、室温の方が悪い。
<使用例> O−リング、ガスケット、ダイヤフラム等


そして、ゴムは進化を遂げる。

私たちがもつイメージや既成概念を超えて、ますます進化を遂げるゴム製品。その最先端の 世界は、まさに驚きと興奮の連続です。

得意技は、肩透かし。地震を軽くいなす<免震ゴム>
 相撲の技でいえば、肩透かし。つまり、地震とまともに勝負せずツボをはずす。 これが、免震ゴムの得意技。
 免震構造とは、建物と地盤の間に水平方向に柔らかいバネの 働きをするクッションを挿入することによって、建物の水平方向の揺れを地震波と共振し ないようにしたもので、このクッションの代表例が免震ゴムというわけです。
 一般に、免震ゴムは水平地震力(加速度)を1/3〜1/5に低減する効果をもっているとされています。構造は、ゴム板と鉄板を交互に重ねて加硫接着させたサンドイッチ積層体で、鉛直方向には 建物を支える硬さを、水平方向には地震動を緩やかな往復運動に変える柔らかさをもって います。応用例としては、病院、ハイテクビル、原子力発電所、精密機器工場などがあり、 その活用範囲も急速に拡大しています。

ぷく〜っと膨れて水をせき止める。<風船ダム>
 チューブ状のゴム袋を河川に取り付け、空気や水で膨らませて水を貯える可動 堰、それが風船ダムです。
 構造は非常に簡単で、強靭な特殊合成ゴム引布製の風船部分と、 それを膨張(収縮)させるための機械、パイプで構成されており、容易に移動させることも 可能です。
 用途は、かんがい、防潮、水力発電、水道用水取水などと幅広く活用されいます。 すでに米国では30年、日本でも20年余りの歴史の中で約1300ヶ所の施工実績があります。構造がシンプルで故障も少なく、維持管理費が安いことなどから、さらに採用実績が増えてい ます。


そこ退けそこ退け、電気が通る。<導電ゴム・感圧導電ゴム>
 『絶縁体素材の代表の1つであるゴムが電気を通す』というと、一瞬ビックリ されるでしょうが、その実用化は比較的早く、静電気対策用として半導体工場の作業デス クマットや医療関係の機器の床面などに使用されています。
 そして、その後のエレクトロ ニクスの進歩にともない、積極的に電気を流す本格的な導電体としてのニーズが高まり、 現在では電子回路用の開閉スイッチの接点部分やインターコネクターなどに、幅広く活用 されています。
 導電性の秘密は、ゴム素材の中に導電性材料の粉末や短繊維等を混合する というもので、多くの場合シリコンゴムにカーボンブラックを混合したものとなっています。 また、感圧導電ゴムには導電粉として金属を用いたものとカーボンを用いたものがあり、 それぞれデジタル動作型、アナログ動作型として、ニーズに応じた役割を担っています。



ゴム原料の略号
略号 用語 略号 用語
ABR アクリル・ブタジェンゴム NCR ニトリル・クロロプレンゴム
ACM
 (ANM)
アクリルゴム NIR アクリロニトリル・イソプレンゴム
BR ブタジェンゴム NR 天然ゴム(ナチュラルラバー)
CHR エピクロルヒドリンゴム SBR スチレン・ブタジェンゴム
CR クロロプレンゴム SCR スチレン・クロロプレンゴム
EPDM
 (EPM)
エチレン・プロピレンゴム SI シリコーンゴム
FPM 弗素ゴム SIR スチレン・イソプレンゴム
I I R プチルゴム(イソプチレン・イソプレンラバー) T 多硫化ゴム(ポリサルファイドラバー)
IR イソプレンゴム U ウレタンゴム
NBR ニトリルゴム(ニトリル・ブタジェンラバー) VP ビニルピリジンゴム



合成ゴムの性質   ◎すぐれている  ○よい  △ふつう
略号 名称 耐熱温度(℃) 耐水性 耐食性 耐熱性 耐老化性 耐磨耗性
NR 天然ゴム 80
NBR ニトリルゴム 100
CR クロロプレンゴム 100
SBR スチレンゴム 90
EPDM エチレンプロピレンゴム 130
BR プタジエンゴム 90
IR プチルゴム 120
Si シリコーンゴム 220



ゴム材料の性質表         注意 A:優 B:良 C:可 D:不可
ゴムの種類 天然ゴム ニトリルブタジエンゴム スチレンブタジエンゴム クロロプレンゴム シリコーンゴム エチレンプロピレンゴム
略号(ASTMによる) NR NBR SBR CR SI EPM・EPDM
生ゴムの性質 比重 0.91〜0.93 1.00〜1.20 0.92〜0.97 1.15〜1.25 0.95〜0.98 0.86〜0.87
ムーニー粘度 45〜150 30〜100 30〜70 45〜120 液状 40〜100
加硫ゴムの物理的性質 引張り強さ kgf/cm³ 30〜350 50〜250 25〜300 50〜250 30〜150 50〜200
伸び % 100〜1,000 100〜800 100〜800 100〜1,000 50〜500 100〜800
硬さ JIS. Hs 10〜100 20〜100 30〜100 10〜90 30〜90 30〜90
反発弾性 A C B B B B
引裂強さ A C C B C C
厚縮永久ひずみ A B C B A B
耐屈曲き裂性 A B B B C B
耐磨耗性 A B A A C B
耐老化性 B B B A A A
耐オゾン性 D D D A A A
耐候性 B C B A A A
高温使用限界 ℃ 120 130 120 130 280 150
低温使用限界 ℃ -50〜-70 -40〜-50 -40〜-65 -30〜-40 -70〜-120 -40〜-60
耐溶剤性加硫ゴム耐油 ガソリン、軽油 D A D B C D
ベンゼン、トルエン D C D D C C
トリクレン D D D D C D
アルコール A A A A A A
ケトン(MEK) B D B B B A
酢酸エチル C D C D C A
耐アルカリ性加硫ゴム耐酸 有機酸 D C D D B D
高濃度無機酸 C B C B C B
低濃度無機酸 B B B A B A
高濃度アルカリ B B B A A A
低濃度アルカリ B B B A A A


テーマ館目次 BACK TOP NEXT