水のコンテンツ⑦ 『水』をとりまく諸問題 その7 

21世紀初頭の『人類存亡の危機』ニュース 次々に追加します。

合成洗剤の消えぬ不安   「疑わしきは使わず」

毒性への疑問
合成洗剤の泡に包まれていた川70年 合成洗剤の泡に包まれていた川72年
 合成洗剤の泡に包まれていた川。
1960年代後半から進んだ界面活性剤の改良(ソフト化)で、
現在は見た目はきれいになった。だが生態系への毒性など、
すぐには見えない形での環境影響が課題となっている
=上は70年、下は72年、いずれも東京都大田区の多摩川で
 1月8日付の記事ではまず環境への影響の観点からせっけんと合成洗剤を比較したが、反響の中で最も多かったのは合成洗剤の毒性についてのものだった。合成洗剤は多種類の化学物質を含む。環境ホルモンなど、最近になってごく微量で影響を及ぼすものが表れてきたことが、毒性に対する関心を高めているようだ。

 「環境にとってどちらが良いかより、どちらがより安全かを論じるべきです」(埼玉県、主婦、54歳)

 「合成洗剤追放は、労働組合と市民団体が一緒になって運動してきた数少ないテーマだ。水、環境や化学物質のあり方を考える入り口にもなってきた。自然に返らないものを使わない、作らない、という流れの先取りでもあった。記事はせっけんの毒性が1番低いと指摘してはいるが、いま問題なのは、未知の部分もあるとはいえ、合成洗剤の生態毒性やいわゆる環境ホルモン作用だ」(合成洗剤追放全国連絡会事務局長、和田滋さん)

 「分解性が最もよく、水生生物への毒性が最も低いという長所があるので、せっけんの方が環境に対しては絶対に影響が少ない。そのメッセージが、記事を読んでも伝わってこない。合成洗剤の化学物質としての毒性が明確に書かれておらず、合成洗剤もせっけんもどっちもどっちという印象を与えたのは乱暴で誤解を招く。地球環境を守るには、今こそ『疑わしきは使わず』の考え方に立つべきだ」(婦人民主クラブ、小塚知子さん)
○「人体に影響ない」
厚生労働省は
 「合成洗剤には発がん性がある」「催奇形性がある」「肝臓障害が出る」といったお手紙もいただいた。これらについて、厚生労働省の化学物質安全対策室で聞いた。
 まず、不安の強い界面活性剤については「毒性について様々な実験をやっており、通常の範囲での使用では人体に影響はない」との答え。界面活性剤以外の成分については「洗剤メーカーで安全性の試験を実施しており、問題ないと考えている」との回答だった。
 ただし報告が多い肌荒れについては「症状があれば、専門医で受診して、肌に合わないものの使用はやめてください」とのこと。
 いただいたお手紙には「合成洗剤を使うと肌が炎症を起こすので、せっけんしか使えない」と、「主婦しっしん」に悩む声も多かった。「洗い物をせっけんに切り替えて、手荒れが治った」「せっけんにかえたら子どものおむつかぶれが消えた」などの体験談も数多くつづられている。実体験に基づくだけに説得力がある。
 厚生労働省のいう「通常の範囲での使用」はどの程度のものなのか、長い間の蓄積の影響はどうかなど、主婦の不安は完全にはぬぐえないようだ。
○「難点解消した複合せっけん」
業界の見方

 石けん技術開発協会の常任理事で、渋谷油脂社長の渋谷卓磨さんからは、「せっけんも改良が進んでいます」というお便りをいただいた。
 せっけんと、分解性の良い脂肪酸系の界面活性剤を組み合わせたのが複合せっけん。これなら「生分解性が良い、安全、洗い上がりが良い」といったせっけんの長所を残したまま、「水に溶けにくい、せっけんカスが出る、使用量が多い」などの難点が解消できるという。
 1999年に大阪市立工業研究所などが開発した新しい複合せっけんは、有機汚濁を普通のせっけんの約4分の1、これまでの複合せっけんの半分に抑えており、合成洗剤と並ぶ。低温の水にも溶けやすく、洗浄力も向上するなど、使い勝手も良くなるという。
 炭酸塩など助剤を全く含まない洗濯用せっけんが「100%純粋」を好む消費者に売れていることについては、「省資源や使いやすさを考えると、助剤をそこまで敵視してはいけない」という考えだ。
◇環境残留性にも問題
 毒性と並び、合成洗剤にまつわるもう1つの不安は環境残留性だ。東京農工大の高田秀重・助教授(環境有機地球化学)からは、「合成洗剤には下水処理場では分解されずに環境に排出され、残留する成分がある」と指摘するファクスをいただいた。
 高田さんらの調査によると、東京湾の海底からは、多くの合成洗剤に配合されているDSBP、DAS1という2種類の蛍光増白剤と、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)を使った洗剤に不純物として微量に含まれるアルキルベンゼンが見つかっている。アルキルベンゼンは食用になるハゼや貝にも蓄積している。

 蛍光増白剤は、東京湾では30年以上前に積もった海底の泥で見つかり、新しい泥ほど濃度は増える傾向がある。琵琶湖の底でも見つかり、近年の濃度上昇は東京湾より顕著という。
 太平洋に出て相模湾の深さ1400メートル以上の海底からも検出されている。蛍光増白剤は下水処理では最悪の場合20%程度しか分解されず、高田さんによると、いったん海の底にたまると分解しないという。年間約10トンが東京湾に流入していると推測されている。

 アルキルベンゼンも、下水処理場では平均6割程度しか分解されないという。

 高田さんは、「今見つかっている濃度で直ちに生物に影響があるというデータは無いが、環境ホルモンのように、後から影響がわかることがある。環境中で分解せず残留するような成分は避けるべきだ」と話している。このため「少なくとも蛍光増白剤、LASを含む合成洗剤は使うべきでない」という考えだ。

 大手メーカーは蛍光増白剤、漂白剤、酵素などさまざまの成分を加えて製品の「差別化」をはかり、次々に新製品を発売してきた。読者からの反響には、こうした成分の環境や健康への影響を心配する声も多かった。

 大手メーカーに、検出された蛍光増白剤を使っているか聞いてみた。花王とP&Gは「成分は公表できない」。ライオンは「多くの製品で、検出されたのと同じ2種類の蛍光増白剤を使っている」と答えている。

 各社とも粉末の洗濯洗剤にはすべてLASが含まれているほか、多くに蛍光増白剤も含まれている。液体洗剤ではLAS、蛍光増白剤とも含まれていない製品もある。生協ブランドでは粉末でも両方とも含まない洗剤を発売している。  <2001年1月21日朝日新聞一部加筆>


2003年3月、京都などで「第3回世界水フォーラム」開催

 渇水など水問題の解決策を話し合う第3回世界水フォーラムが2003年3月16日から23日まで、京都を中心とする滋賀、大阪の琵琶湖・淀川流域で開かれる。29日の運営委員会(会長・橋本龍太郎元首相)で決まった。昨年のオランダでの第2回フォーラムは、各国から官民の約5700人が参加し「世界水ビジョン」を採択。第3回は水問題への具体的な行動を提起する「水行動報告書」を発表する予定だ。


世界の気温 100年後は最大5.8度アップ 
「人為的な影響」はっきり

 各国の科学者でつくる「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の第1作業部会は2001年1月22日、地球全体の平均気温が2100年までに1.4―5.8度上昇すると予測する報告書を発表した。1995年の報告書では、最大で1.0―3.5度上昇するとの予測だった。報告書は「温暖化への人為的な影響がよりはっきりしてきた」と人間の活動による影響を明確に指摘し、各国に早急な温暖化対策を促している。

 温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)濃度について、報告書は今世紀末までに現在の367ppmから540―970ppmと倍程度になると予測。森林伐採をしなかったとしても、40―70ppm減るだけで、それだけ化石燃料の燃焼の影響が大きいことも指摘した。

 地球の気温予測の上方修正は、工場排煙などについて各国の大気汚染対策が進む結果、太陽光を遮る二酸化硫黄が減り、かえって温暖化が加速するというシナリオに基づく。

 ただ、海面上昇については、南極西部の氷床が95年に予想したほど解けないことがわかったとし、2100年までの上昇予測は、95年当時の13―94センチから9―88センチへと下方修正した。

 温暖化の現状については、1860年ごろから現在までに、地球全体の平均気温は0.4―0.8度上がったと指摘した。95年の報告書は0.3―0.6度上昇したとしていたが、90年代後半に暑い年が続き数字を押し上げた。20世紀が、過去1000年で最も暑い世紀だったことも指摘。1960年代に比べて積雪面積が10%減り、北極の8―9月の氷がここ数十年で40%薄くなったとした。

2001年1月22日付朝日新聞

世紀末に気温最大5.8度上昇」の意味
地球の悲鳴、深刻に   国連IPCC報告
温暖化は確実に進んでいる
 今世紀末には気温が最大で5・8度上昇する――。各国の地球温暖化の研究者でつくる国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が、第3次報告書の一部をまとめた。これまでの2回の報告と異なるのは、現在の地球温暖化は人間活動の影響である、と明確に指摘したことだ。気温上昇も前回より上方修正した。二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの増加による地球温暖化は確実に進んでいる。報告の意味や、今後の課題などを探った。

 ●「人間に原因」
 今から約1万年前、最後の氷河期が終わり、次の間氷期に移ったころにマンモスが絶滅した。この際の気温上昇は5度前後と推測されている。今回の報告が示した気温上昇の最大予測値「5・8度」は、これを上回る。古代文明が誕生してから、現在までの地球上の温度変化は最大で2度前後にすぎず、「想像もつかない大変化が起きる」と慶応大の西岡秀三教授(環境工学)は指摘する。

 IPCCは、これまで2回の報告書を出している。1990年の第1次報告書は、21世紀末までの温度上昇を「1〜3度」、95年の第2次報告書は「1〜3・5度」と予測していた。今回、「1・4〜5・8度」に上方修正した理由としてIPCCは、大気を冷却する効果を持つ二酸化硫黄の排出量が、石炭火力発電所の環境対策で減少する――などを挙げた。大気汚染改善が温暖化を後押しするという皮肉な因果関係だ。さらに「温暖化が自然現象である可能性は極めて低く、大部分は人間活動に起因している新たで確実な証拠が得られた」と明記した。

 環境NGO(非政府組織)「気候ネットワーク」の畑直之さんは「地球温暖化は進み出すと簡単には止められない。温暖化が自然現象ではなく、人間活動の影響という分析は極めて重要なポイントで、今の大量生産・大量消費の社会を改めよ、という最大の警告だ」と指摘する。

 ●信頼性高く
 科学技術の進歩で、観測方法や分析モデルが改良され、予測精度が向上した点も見逃せない。報告の内容は、悲観論で描いた未来図では決してないのだ。

 IPCCは報告書の作成にあたり人工衛星の観測結果を分析し、▽60年代以降の積雪面積が10%減少している▽北半球の中高緯度地方の湖の年間氷結期間が2週間短くなっている――などの事実を示した。さらに樹木の年輪から、観測記録のない100年以上前の気温の推測も行い、データの信頼性を高めた。

 予測には、世界の研究機関が開発した七つのモデルを使った。全地球的な気候変動を数値予測するシミュレーションで大気と海洋の相互影響などの分析を加えたうえで、人口増加、各国のGDP(国内総生産)、CO2排出規制など社会的な変化で異なる35通りのシナリオを対応させた。

 報告書の作成に携わった気象庁気象研究所(茨城県つくば市)の近藤洋輝気候研究部長は「前回は予測だけだったが、今回は過去の気候観測データを使って再現実験を行い、モデルの予測と観測結果が一致したことを確かめた。信頼性は高い」と話している。

 ●日本に影響大
 今の地球のCO2濃度は約0・037%。大気中にCO2や水蒸気などが全くないと、地球の平均気温は氷点下18度まで下がるとされる。CO2はこれほど強い温室効果を発揮する。報告書は、CO2濃度は今世紀末までに0・054〜0・097%と今の2倍前後になると予測した。

 「5・8度」のシナリオは、発展途上国で経済成長が急速に進み人口も増加、途上国、先進国とも温室効果ガスの排出規制が課せられず現状のまま進んだ場合――から描かれた。一方、途上国にも排出規制が課せられると、温室効果ガスの全排出量は2050年から減少する。だがそれでも大気中に蓄積したガスの影響が長く残り、最低でも「1・4度」の気温上昇が避けられないとの結果が出た。

 温暖化による気温上昇は地球上のどの場所でも一律に起きるわけではない。熱帯雨林がCO2を吸収する低緯度地方と、人口が密集し人間活動により大量のCO2が排出される北半球の中高緯度地方では温暖化の影響は異なり、人口密集地域の方が気温は高くなる。報告書はアジアや北米大陸では平均より40%以上も温暖化が早く進み、特に冬の気温が高くなる傾向と分析している。

 近藤部長は「日本は温暖化の影響を受けやすい地域に含まれ、前回の報告でも予測の上限に近い3度の上昇が指摘されていた」と話す。温暖化によって各地にどんな具体的影響が現れるのかについては、IPCCの別の作業部会が分析を進めており、報告は来月にまとまる予定だ。

 政治家に実行責任−−「CO2削減でまず合意を」

 IPCCは「CO2の大気中濃度を現在の水準にとどめるには、ただちに排出量を60%以上削減しなければならない」などとたびたび警告してきた。今回の報告の概要は、昨年11月にオランダ・ハーグで開かれた気候変動枠組み条約第6回締約国会議(地球温暖化防止ハーグ会議、COP6)でもその初日に報告された。だが、同じ国連が設置した機関なのに、政策を決める政治家による会議は決裂し、具体的削減策は今年5月にドイツ・ボンで開催予定の「再開COP6」に先送りされた。

 西岡教授は「予測は科学者が行い、それを政策に反映するのは政治家という役割分担がある。まず『再開COP6』で削減策に合意することが大切で、これは政治家にかかっている」と指摘する。しかし、環境省内部からは「科学ではなく政治・外交案件になると、どうしても国益や経済が優先されてしまう。温暖化に対する危機感を感じている人はわずかだ」という悲観的な声も漏れてくる。

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IPCCとは?−−88年から科学的に討論

 IPCCは1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)の協力で設立された。80年に米国地球流体力学研究所の日本人研究者らが「CO2濃度が4倍になると気温は4.1度上昇する」という研究結果を発表し、地球温暖化が国際的に大きな反響を集めたことから、温暖化問題の科学的側面について政府間の公的な討論の場を設けようと、研究者や政府関係者らをメンバーに組織された。

 温室効果ガスの濃度変化や温度上昇を予測する第1作業部会▽気候変動の社会や経済への影響を研究する第2作業部会▽温室効果ガスの削減や気候変動の影響緩和を扱う第3作業部会に分かれ、約1500人の科学者が5年ごとに報告書をまとめる。

 今回報告をまとめたのは第1作業部会で、報告書は厚さ約3センチの2冊。政策決定者向けに書き直した約18ページの要約版が、各種会議の公式資料になる。要約版の作成作業は、研究者が1行ずつチェックする形で進めた。文章表現でも「ほぼ確実に」は確率99%以上、「非常にそうらしい」は同90〜99%、「そうらしい」は同66〜90%などと詳細に定義している。

<IPCCの三つの報告書の比較>
報告年 気温上昇 海面上昇 理由・影響
第1次 1990年8月 1〜3度 35〜65センチ 予測の不確実性はかなりあるが、人間活動で生態系や人
類に影響の恐れ
第2次 1995年12月 1〜3.5度 13〜94センチ 不確実だが、人為的影響が気候を変化させている
第3次 2001年1月 1.4〜5.8度 88センチ 温暖化傾向は異常で、大部分(一部のみ)人間活動に起因
(毎日新聞2001年1月29日)



温暖化、2025年に50億人が水不足状態

 地球温暖化の影響を検討している「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第二作業部会は二月十七日、温暖化により世界各地で水不足に襲われる人が、現在の十七億人から、二〇二五年には約三倍の約五十億人に増加する――などとした報告書をまとめた。

 温暖化の被害は特に途上国で深刻で、最悪の場合、損失が国内総生産の半分に達する国もあると報告書では予測している。温暖化対策の国際ルール作りを目指し、六月以降に再開される気候変動枠組み条約第六回締約国会議(COP6)にも影響を与えそうだ。

 十三日から、スイス・ジュネーブで開かれていた第二作業部会は、温暖化に伴う環境・社会・経済影響を評価してきた。報告書では、特に中央アジアやアフリカ南部、地中海沿岸諸国で深刻な水不足が起きるとし、熱波が頻繁に発生する結果、高齢者や病人などの死亡率が上がると予測する。

 また海面上昇による洪水の増加やマングローブ林の減少、砂浜の浸食被害の拡大も指摘。こうした気象災害の増加で、保険会社が被害を補償できず、破産する可能性にも言及している。

 温帯から熱帯にかけてのアジアでは、海面上昇や台風の頻発で、低地に住む計数千万人が移住を迫られ、食糧生産も減るという。 (2001年2月17日読売新聞一部加筆)

温暖化による海面上昇で、日本は290万人の移住必要に

地球温暖化について各国の科学者らで構成する「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の第2作業部会は2001年2月17日、経済や生態系への影響に関する報告書をまとめた。このなかで、温暖化で海面水位が50センチ上昇したとすると、日本では1412平方キロメートルが海面下に沈み、人口の2.3%にあたる290万人が移住を余儀なくされることが明らかになった。1月の第1作業部会の報告では、2100年までに世界の海面水位は、9―88センチ上昇すると予測している。

 今回の報告で、植物の分布や動物の生息域がより高緯度に移動したり、開花時期が早まったり、温暖化の生態系への影響がすでに世界的に表れていることもわかった。

 とくに地域別の影響を詳しく調べており、アジアでは海面上昇で海面下に沈む数1000万人が移住する必要があると指摘。特にベトナムでは、海面が1メートル上がったとすると総人口の23.1%にあたる1710万人が移住を迫られる。

 生態系への影響では、日本では、過去30年で高山植物の種類が減り、琵琶湖で降雪量が減り富栄養化が進んでいるという。

 IPCCは1月の第1作業部会の報告で、地球全体の気温が2100年までに最大5.8度上昇するとの予測を発表している。

<2001年2月18日朝日新聞>


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