水のコンテンツ⑨ 『水』をとりまく諸問題 その9
  21世紀の『緊急課題』-②


地球温暖化 深刻さが一段と増してきた

 石油や石炭、天然ガスの消費などによって地球の温暖化がじわじわと進行し、人間を含めた生物や自然に大きな影響を与えることが心配されている。

 その理論的な根拠は、気象学などの世界の専門家が集まった「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が1995年11月にまとめた第2次報告書である。
 「最近の地球の温暖化傾向は人間活動によってもたらされた」と報告書は指摘した。さらに、このままいくと2100年には地球の平均気温は1〜3・5度(中間値で約2度)上昇すると述べていた。

 このIPCCの「温暖化の予測」を担当する第1作業部会が2月22日、新たな報告書を発表した。
 温度予測をより高く修正し、21世紀末までに1・4〜5・8度上昇するという。温暖化による海面上昇は前回より下方修正されたものの、9〜88センチ上昇すると予測した。
 従来予測でも人間が経験したことのない温度変化を意味した。地球上では氷河期や間氷期が繰り返されても緩やかな温度変化だった。
 それが最大5・8度の上昇なのだからより深刻な事態が待ち受ける。しかも北半球の高緯度地域ではもっと急激に温度が上昇する。人工熱の放出で都市部が高い温度になるヒートアイランド現象が重なって大都市の温度上昇も加速する。

 温暖化で起こる異常気象の頻発、農業生産量の減少、感染症の増加などがさらにひどくなる。海面上昇で水没する国が出るし、日本でも砂浜の消失などが起こるだろう。
 「大変な時代に突入する」という意識を一人一人が持ち、温暖化防止の対策を早く軌道に乗せる必要がある。だが、世界の動きは鈍い。

 昨年11月にオランダで開かれた気候変動枠組み条約第6回締約国会議(COP6)は決裂した。森林による二酸化炭素の吸収をどれだけ認めるかで折り合いがつかなかったのは各国が国益を優先させたからだ。
 日本も温室効果ガスの削減目標達成のためできるだけ森林吸収に頼ろうとして譲らず、世界の環境NGO(非政府組織)から批判された。

 COP6は5月にボンで再開される。森林吸収や温室効果ガスの排出枠を売買する排出量取引などのルールが決まり、97年のCOP3で採択した京都議定書発効の道筋がついたとしても、なお問題が残る。
 途上国をどう温暖化防止に参加させるかということと、最大の二酸化炭素排出国の米国が「途上国の参加がない限り京都議定書を批准しない」と主張していることだ。中国やインドが先進国並みのエネルギー消費国になれば温暖化は加速する。
 未来世代のために先進国が森林吸収や排出量取引に過度に頼らず、省エネなど国内対策を徹底させることが必要だ。特に米国がカギを握る。ブッシュ新政権が温暖化対策に積極的になることを強く求めたい。

 先進国が足並みをそろえたうえで資金援助や技術移転を充実させ、途上国が温暖化防止に前向きに取り組めるようにもっていきたい。
 日本も中央省庁再編で新発足した環境省や経済産業省が、産業界を巻き込んで温暖化防止の先頭に立つべきだろう。画期的な内容の京都議定書を採択したCOP3の議長国だったことを忘れてはならない。

[毎日新聞2001年1月23日[社説]加筆



食糧問題・・飽食の先進国-重い責任

 アンゴラの首都ルアンダ郊外にあるビアナ難民キャンプ。コンゴ民主共和国(旧ザイール)からの難民約7000家族が、飢えと隣り合わせの日々を送る。世界食糧計画(WFP)から、一人当たり一か月につき9キロのメイズ(主食のトウモロコシの実)、0.17リットルの油、150グラムの塩などの配給を受けているが、3人の子供を抱える母親、ムジンガ・マルゲさん(38)は、「これでは、とても足りない」と肩を落とす。

 1975年の独立以来、四半世紀にわたって内戦が続くアンゴラは、慢性的に食糧不足状態。ルアンダの防波堤では、獲物を求める地元の人々が、釣り糸を垂らしている。

 部族間の抗争など紛争が多発するアフリカでは、食糧の生産性を上げるのは至難で、先行きは暗い。

 国連食糧農業機関(FAO)は、食糧不足で栄養失調状態にある人々の数を、全世界で約8億人と推定する。インド、バングラデシュなどの南アジアをはじめとするアジアに5億人、アフリカに2億人、そのほか1億人という分布だ。

 北朝鮮は、深刻な干ばつや台風などの影響で7年連続の食糧不足に陥っているが、こうした局地的な飢饉(ききん)は、むしろ例外のケース。70年代に始まった「緑の革命」など生産技術の進歩により、世界の食糧需給は、穀物ストックの取り崩しを計算に入れれば、一応、均衡状態にある。

 だが、その食糧の消費が先進国偏重であるというのは、否めない事実だ。

 「生産された食糧へのアクセスが、多くの人々に保障されていない。食糧も市場原理に従属し、購買力のある者だけが入手する。先進国で生産された食糧の大半は先進国で消費される。一方、途上国では、国民を養うのに必要な食糧を生産する能力がない」と、WFPのナマンガ・ウゴンギ事務局次長は指摘する。その結果、先進国では飽食が問題になり、途上国では、栄養不足が慢性化するという構図ができる。

 世界の飢餓人口の約半分を抱えるインドでは、貧富の格差是正とともに、人口増加抑制にも取り組んでおり、人口増加率は70年代の2・22%から99年には1・63%にまで下がった。だが、貧困層の多い州では、増加になかなか歯止めがかからず、1999年5月には10億人目の赤ちゃんが誕生。このままのペースで進めば、2045年には世界最大の人口を抱え込むことになる。

 96年11月にローマで開かれた世界食糧サミットは、「すべての人が、安全で栄養的な食糧を入手する権利を持つ」と宣言し、世界の食糧安全保障の達成と飢餓撲滅のため、2015年までに8億人の栄養不足人口を半減させる目標を掲げた。それ以来、FAOは、毎年10月16日の「世界食糧デー」を中心に、飢餓からの解放を唱え、今年は、「飢えのない新千年紀」の実現をアピールした。だが、例えば74年の世界食糧会議ですでに、「今後十年以内に飢餓を撲滅する」と宣言していたのだ。国際社会が、問題解決に向けて十分に取り組んできたかどうか、疑問も多い。

 「途上国の安価な労働力や資源を活用して豊かになった側面も踏まえ、先進各国には、受益に対する負担を受け入れ地球規模の責任を負うことが求められる。ただし、途上国がまず自助努力をする必要があり、先進国からの援助は、そうした努力を後押しするものとして行われるべきだ」というウゴンギ事務局次長の主張には耳を傾ける価値がありそうだ。

 自然災害 世界食糧計画(WFP)が実施する食料援助のうち、干ばつ、洪水など自然災害の被災国に対する援助が近年増え続け、今年は全体の40%を占める勢いだ。そのうち83%が、アフリカの角と呼ばれるエチオピア、エリトリア、ソマリア、ジブチなどアフリカ東部一帯、またタジキスタン、アフガニスタンなどを含む中央・西アジアなどで猛威を振るった干ばつ被害地へ向けられた。日本も、このうち特に被害が大きかったエチオピアに対し、480万ドル(約5億2千万円)の緊急援助を行った。
(2000.12.9読売加筆)



化学物質・・世界脅かす“裏の顔”  
 19世紀に物質を人工的に化学合成することを覚えた人類は、今世紀、おびただしい種類の化学物質を生み出した。その数は十万種といわれ、身の回りのあらゆるところに使われている。

 生活の利便や生産の向上など、様々な恩恵をもたらしたこうした物質のうちには、人類自身や動植物にキバをむくものがあることに初めて警鐘を鳴らしたのは、米国の女性科学者レーチェル・カーソンで、警告の書『沈黙の春』が出版されたのは1962年のことだった。
 以来、様々な問題が顕在化し、対策を迫られたが、残された大きな問題のひとつが、強い毒性で知られる「ダイオキシン」や「PCB」(ポリ塩化ビフェニール)だ。

 ベトナム戦争中の1960年代、ダイオキシン類を含む枯れ葉剤を米軍が多量に散布し、障害児が多く生まれた。ダイオキシンは、発がん性や皮膚、肝臓障害なども指摘され、残留性も高い。一方のPCBはトランス(変圧器)やコンデンサー(蓄電器)の絶縁油として広く使われたが、68年にカネミ油症事件が社会問題化し、74年に製造・使用が禁止されている。

 各地の焼却炉がダイオキシン類を発生させて、大きな社会問題になったことは記憶に新しいが、他にも様々な問題が尾を引いている。9月には、東京都大田区内の土壌から環境基準の16倍ものコプラナーPCBが検出されたことが分かり、住民の間に不安が広がった。10月4日には、東京都八王子市の小学校の蛍光灯のコンデンサーが破裂し、飛び散ったPCB油が児童に付着する事故が発生。身近にPCBが存在していることを、改めて印象付けた。
 国内には現在も中小企業を含むあらゆる種類の事業者のもとに、合計3万トンものPCBが入ったトランスやコンデンサーが保管され、92年の調査では、そのトランスの7%が行方不明になっていることも分かった。

 大田区の件について、「PCBを保管していた事業者が地中に染み込ませて廃棄した疑いがある。ほかにも同様の事例が起きているのではないか」と懸念するのは、細見正明・東京農工大教授だ。

 残存PCBの処理問題は火急の課題で、環境庁(来年から環境省)は2001年度から補助金を出して国内二か所にPCB処理施設を建設する。電力など大企業も自ら処理施設を作り、保有PCBの処理を進める方向にあるが、問題は、中小企業が持つPCBだ。

 どこで処理し、回収・処理費用をだれが支払うのか。細見教授は「以前は皆が素晴らしい物質と思って使っていた。国や大企業の処理施設で処理するとしても、処理費用は国などが補助すべきだ。さもないと違法廃棄が横行し、深刻な問題となるにちがいない」と指摘する。

 ダイオキシンやPCB、農薬のDDTなどのように残留性や蓄積性、毒性、長距離移動性が高い物質は「POPs」(残留性有機汚染物質)と呼ばれる。これら物質は、生殖能力を低下させる環境ホルモン作用も指摘されている。また、大気や水で運ばれ、南北両極域の海洋生物に高濃度で蓄積していることが分かり、世界的な規制の必要性が指摘されるようになった。
 このため国連環境計画(UNEP)は、12物質をPOPsに指定し、製造・使用中止と削減を国際的に進める「POPs条約」の採択を目指している。12月に南アフリカで開かれる会議で成案が決まることになっており、各国が早急に対応を進める必要がある。

 50年代から70年代にかけ、様々な産業公害が社会問題化したが、発生場所や原因者がはっきりしており、規制や対策も比較的容易だった。だが、POPsに代表される最近の化学物質の問題は、発生源も世界に散在し、影響も全地球規模に及ぶ。
 突き詰めれば、大量生産、大量消費、大量廃棄の生活様式を追い求めた現代人全体が生み出した問題ともいえる。新世紀に、そうした生活の見直しが求められることだけは間違いない。

 ダイオキシン類 ポリ塩化ジベンゾパラジオキシンとポリ塩化ジベンゾフランの総称。分解されにくく、以前は、除草剤などに含まれていたものが環境中に蓄積したが、最近では焼却施設が主な排出源になっている。農地や河川、湖沼、海洋の底に蓄積したものが、野菜や魚介類などを通して人体に摂取されることが多い。昨年、ダイオキシン類対策特別措置法が成立し、規制が強化された。(2000.10.20読売加筆)



貧困・・「人類共通の恥」訴え

 情報技術(IT)や経済のグローバル化が世界を大きく変える一方、貧困、民族・宗教対立などが、人類にとって、ますます深刻な問題となっている。我々はさらに何をすべきなのか。「貧困」を手始めに、豊かな世界実現と日本のかかわり方を探っていく。

 ITが未来のキーワードになる中、世界が注目する国がある。約10億の人口を抱えるインドだ。優秀な技術者を多く抱え、1999年にはIT省も創設した。技術者の不足に悩む欧米、日本にとっても、インドは有望な技術者供給国だ。

 しかし、インドの現実はバラ色からほど遠い。世界銀行によると、同国で一日の収入が1ドル以下の貧困層は全人口の44・2%、2ドル以下は66・2%だ。
 インドでITの恩恵に浴す人々はほんのわずか。ITの発展は、貧富の差をさらに広げるという「デジタル・ディバイド」の懸念さえもたらしている。インドは、その“先進地域”になる可能性がある。

 大陸諸国を合わせた全電話台数が東京と同じくらいというアフリカの事態はもっと深刻だ。
 99年5月、世界銀行などがアフリカの現状報告書を出版した。タイトルは、「アフリカは21世紀に生き残れるか」。
 サハラ砂漠以南のアフリカでは、人口一人当たりの現在の平均所得が、60年代を下回り、3億に近い人々が一人一日0.65ドル(約七十円)で生活し、子供1000人のうち157人が5歳までに死亡する(先進国では9人)。

 国連が発表した「ミレニアム報告書」は、「貧困は人類共通の恥であり、撲滅は一人一人の課題」と訴えた。貧困問題は7月の沖縄サミットでも主要議題となった。その一掃は、日本はじめ先進諸国の、人類への公約となっている。

 援助・自助 共に努力
1日1ドル以下で生活
する人の地域別人数
南アジア地域 5億2200万
サハラ砂漠以南のアフリカ地域 2億9100万
東アジア・太平洋地域 2億7800万
米大陸・カリブ海地域 7800万
欧州・中央アジア地域 2400万
中東・北アフリカ地域 600万
(98年、世界銀行による)

 12億人。1日に1ドルも稼げず、「貧困」にあると国連が推定する地球上の人の数だ。インド政府は独自の基準を設け、最新の統計基準(93〜94年)では、都市部で月収264ルピー(1ルピーは約2.5円)、農村部で月収229ルピー以下が貧困とされる基準になっている。その数約3億2千万人、日本の人口の3倍に達しようという数字だ。

 首都ニューデリー市内でも、貧困のすさまじい様が見られる。ゴートゥンプリと呼ばれるスラムは、廃材の掘っ立て小屋が4キロにわたって並び、ここの7500人が、群がるハエの中で生活する。栄養失調のせいか、子供たちには皮膚病が目立つ。政府統計によると、全国で5歳から14歳までの子供のうち半数は就学していない。ここではそれも大きく下回るだろう。
 こうした貧困の実情は、政府開発援助(ODA)の拠出額世界一の日本に援助の見直しを迫っている。

 日本の民間援助団体「シャプラニール・市民による海外協力の会」は南西アジアを中心に貧しい人々の救済活動を続けているが、下沢嶽事務局長は「日本の援助は道路や通信設備などインフラ整備が中心」と批判、貧しい人たちが実感できる援助の必要性を強調する。日本の援助はしばしば「顔の見えない援助」で、巨額の援助が外交カードに使われていると言われる。その要因がこうした援助の仕方にあるのは確かだ。

 このため政府は、2000年8月に作成したODA中期政策で、貧困対策に重点を置く方針を打ち出した。外務省経済協力局の飯村豊局長は「これまでのODAは社会的弱者や貧困に目を向ける点で遅れていた」と認め、今後は派遣人材の育成などを通じ「援助の質を高める」という。

 今年の沖縄サミットでも、参加国は貧困にある人口の割合を2015年までに半減することで合意、各国が貧困撲滅に積極的に取り組むことを約束した。
 だが、本当に15年でそれが達成されるのか。疑問の声は強い。南アフリカは金、ダイヤモンド、希少金属の世界有数の保有国。94年5月には、その富を独占していた白人少数支配に終止符が打たれ、人種融和の民主体制が実現された。初の黒人大統領になったマンデラ氏は就任演説で「全国民に正義と平和、パンと水が行き渡るようにしよう」と宣言、南アはアフリカ発展の「希望の星」となった。それから6年。黒人の失業率はまだ50%にのぼり、かつて不平等と貧困の象徴だった「黒人居住区」は、今も電気も水道もなく、スラム状態から脱していない。「希望の星」の苦闘は、貧困撲滅の難しさを物語っている。

 先進国も途上国も、貧困撲滅には経済成長が不可欠という立場では同じだ。その成長を促すためには、先進国が援助を拡大し、効率的にするだけでなく、被援助国も、教育の遅れ、汚職による不公平な富の集中などの問題解決に積極的に取り組み、自助努力をすることが必要だ。そうした努力を促す援助の方法というものもあるだろう。

 南アのムベキ大統領は、9月に世界の首脳を集めて開かれた国連ミレニアム総会で「この千年で、人類が貧困と未開発を撲滅できる資本と技術を生み出したのは本当だ。だが、その能力を貧困と未開発の撲滅に使わなかったのも本当だ」と演説した。来世紀、この反省をどう生かせるか。先進国、途上国双方が問われている。

(2000.12.7読売加筆)


貧困・・「感染症」拡大の元凶 

 援助関係者がよく口にする言葉に、「ウインドーズ・オブ・オポチュニティー(機会の窓)」という言葉がある。数少ないチャンスを生かすための窓というぐらいの意味で、貧困や災害から人々を救うには、この窓をいかに開き、チャンスをつかむかの戦いだという。それに失敗し続けてきたものがある。貧困ゆえにかかる感染症との戦いだ。

 世界保健機関(WHO)によると、98年に世界で病死、事故死、自然死を含め約5390万人が死亡した。うち「感染症」による死者は25%だ。だが、貧困地域が多いアフリカ、南西・東南アジアに限ると、これが45%に跳ね上がる。
 その病因を見ると、9割までが6つの病気に絞られる。98年は、1位が肺炎・インフルエンザなどの呼吸器系感染症(死者数350万人)、2位がエイズ(230万人)、3位が下痢性感染症(220万人)、4位が結核(150万人)、5位がマラリア(110万人)、6位がはしか(90万人)だった。

 エイズを除けばどれも安価な薬で病気の進行を遅らせたり、防いだりできる。エイズにしても、有効な治療薬は未開発だが、教育やコンドーム普及などで予防はできる。WHOのデビッド・ヘイマン感染局長は「病気の発生する国の資源、認識不足による対策の遅れが、まん延を防ぐのを困難にしている。その多くが途上国だ」と語る。
 この20年間、急速に広がり、人類の脅威となったエイズが、まさにそうだ。WHOと国連エイズ計画(UNAIDS)の最新エイズ報告書によると、現在、エイズウイルスに感染している人は3610万人で、今年の新感染者は推計530万人。これまでにエイズで死んだ人は実に2180万人にのぼる。

 中でも、サハラ砂漠以南のアフリカの状況が深刻だ。この地域だけで今年380万人が新たに感染し、地球全体の70%にあたる2530万人の感染者が生活している。うち55%が成人女性で、十人に一人の子供がエイズで母親をなくし、2010年までに4千万人の孤児ができるという。
 エイズの広がりは、アフリカ各国の経済にも影響を与えている。全体の影響を示す統計はないが、同報告書は南アフリカについて、エイズが今のままなら「国内総生産(GDP)は2010年に17%減る」と警告している。

 さらにエイズに加え、90年代半ばからエボラ出血熱が新たな脅威として注目を集めている。感染すればほとんど死ぬと言われ、99年10月にもウガンダで発生が確認された。WHOのヘイマン局長は「この先、新たな感染症がまた出現するだろうし、グローバル化で、もはや一国の問題では終わらなくなっている」とし、情報収集のためのネットワーク作りや予防システムの整備が必要とする。
 最貧国では、もともと医療予算が限られ、国連では年間の一人当たり医療予算は10ドルに満たないとみている。世界で年間560億ドル以上が「健康の研究」に費やされているが、「全人類の90%に影響する健康問題」にはその一割も充てられていないともいう。

 日本は沖縄サミットで、感染症対策に、今後5年間、総額30億ドルの援助を行うと表明、WHOは、先進国が感染症に目を向けるきっかけを作ったと評価している。平均寿命の最も長い日本と最も短い国の間には2倍以上の開きがある。この地球のいびつな現実を放置してはならない。

 寿命 WHOが今年発表した報告書「世界の健康状態」によると、1999年の平均寿命のトップは日本の80.9歳。一方、最も短かったのはシエラレオネの34.3歳で、これに続くマラウイ、ザンビア、ニジェール、ボツワナのアフリカ諸国も、平均寿命が40歳に達しなかった。 WHOの担当官は、「アフリカ諸国での寿命の短さの主因は、感染症や貧しさによる栄養状態の悪化、内戦など。サハラ以南の諸国では99年、エイズのため平均6年間も寿命が縮まった」と指摘している。
(2000.12.8読売加筆)



魚の立場で考えよう 水質の新基準を提言−−環境庁検討会、「人間本位」見直し

 環境庁の「有害物質による水生生物影響等検討会」(座長、須藤隆一・東北工大教授)は2000年12月26日、有害物質が魚や貝などに及ぼす影響を考えた水質基準をつくるよう提言した。現在の環境基準は人間の健康を考え設定されたが、欧米には既に魚の生存のための基準があり、同庁は今回の提言を基に「水生生物の立場に立った環境基準」を3〜4年後をめどにつくる方針だ。

 基準の目的は水中にすむ動植物と、そのえさとなる生物の保護。検討会は魚の生息域を、川の上流、川の下流、海域に3分類し、各生息域ごとにカドミウムなどの重金属、ノニルフェノールなどの環境ホルモンなど計81物質の基準を優先してつくるよう求めた。同庁は来年度から淡水上流域で12種(イワナ、ヤマメ、アユなど)▽同下流域で15種(コイ、フナ、シジミ類など)▽海域で6種(イワシ類、アジ類、タラ類など)と、それぞれの主なえさの生物が、81物質によってどんな影響を受けるのかを、年間に20〜30物質ずつ調査していく。

 有害物質は水生生物にさまざまな影響を及ぼす。カーバメート系殺虫剤はメダカのふ化率を低下させ、界面活性剤はその捕食能力を下げるなどの報告がある。
 しかしどの程度の量で影響を受けるかは魚の種類ごとに大きく異なる。このため検討会は「ある物質に対して最も弱い魚を、その生息域での基準対象にすべきだ」と求めている。

 カドミウムについては上流域で1リットル当たり0・8マイクログラム(マイクロは100万分の1)、下流域で同120マイクログラムと例示した。現在の人の環境基準ではカドミウムは1リットル当たり10マイクログラムで、上流域は魚の基準の方が人の基準より厳しく、下流域はその逆となる。同庁水質保全局は「魚の環境基準ができれば、両方守ってもらうことになる。つまり厳しい方が基準になり、水中の生態系の保護や水質改善に役立つ」と話している。

 欧米では1970年代から水にすむ生き物を守るための基準整備が始まった。米国では淡水と海水にすむ生物が死亡、成長阻害、生殖阻害などを起こさないように126物質について水質基準を定めた。欧州連合(EU)は78年、魚類がすむ淡水や、エビ、カニなどの甲殻類がすむ海水について、生息保護を目的にして有害な27物質の水質目標を各国がつくるよう指令を出した。

[毎日新聞2000年12月27日]


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