水のコンテンツ⑬ 『水』をとりまく諸問題 その13
  21世紀の『緊急課題』-⑥


野放し」貯水槽、続々
「水・家で」特集に読者から投書 家で水道水とどうつきあうかをテーマに連載した「水・家で」で、貯水槽や水道管、浄水器、節水について報告したところ、たくさんの投書をいただきました。今回は最も反響の大きかった貯水槽を特集します。

○要望強い「清掃義務」 浄水器フィルター、緑色に/茶褐色の水


 ●ずさんな管理
 愛知県の主婦(45)は、汚れた貯水槽の記事を読んで「私の住むマンションも同じだと思いました」というファクスを送ってくれた。
 築後8年の8階建て。住民の管理組合が民間の管理会社に費用を払い、貯水槽を含めた建物の管理を任せている。当初は定期的だった貯水槽の点検はだんだん減った。3年前を最後に清掃をした気配もない。
 気持ちが悪くなり浄水器をつけたら、フィルターが緑色に染まった。浄水器メーカーは「藻ではないか」という。管理組合を通じて管理会社に清掃を頼んでも、「手が回らない」「9トンタンクなので、10トン以上に課せられる法律上の清掃義務はない」と応じない。
 主婦は貯水槽の管理のいい家を探し始めた。ローンの返済額が増えても、家族の健康のためには引っ越さざるを得ないと考えるからだ。

 関東地方の20代の主婦が住む2階建てのアパートでこの冬、水道から茶褐色の水が出た。30分以上流しても砂のようなものが混じる。貯水槽のせいかなと思った。
 大家は「お宅が引っ越してくる前に新しいタンクに取り換えた」というが、同じアパートの住民の間では「住んで10年以上、清掃も交換もない」との声がある。貯水槽は10トン以下なので清掃義務はなく、住民は大家とのトラブルを恐れ、だれも清掃を要求しない。
 飲み水や料理には今年から、ペットボトル入りの水を買って使っている。3人家族で月5000円。夏場は1万円を超えそうだ。「小型の貯水槽にも早く清掃を義務づけてほしい」と訴える。

 ●直結にも関心

 貯水槽が必要ない「増圧直結給水方式」への関心も高かった。集合住宅の地階に増圧ポンプを据え、水道管から各戸に直接給水する方式だ。

 東京都渋谷区の日本キリスト教団美竹教会は築20年の4階建て。牧師の妻の上田てる子さん(60)は直結方式にしたいと思っている。
 この4月、数年ぶりに貯水槽の清掃を業者に頼んだ際、「ワカメのようなものがこびりついている」と指摘された。業者は年1回で最低4万円。教会の財政は厳しく、夫らが2年に1回、たわしで掃除している。
 福島市の会社役員の吉田福光さん(56)はマンションでこの冬、貯水槽の水が凍結し、水が出なくなった。「直結方式なら水道管を保温するだけで凍結は防げる。寒冷地域では直結方式を推進すべきだ」と主張する。

 直結方式はどこに頼めばいいか。自治体はそれぞれの条例で給水方式を決めている。地形などの問題で、直結方式を認めない自治体もあるので注意が必要だ。積極的な東京都はノウハウを持つ都の指定水道業者が約4千あり、都の担当者は「近くの水道局の営業所に何軒か紹介してもらい、相談して」という。
 貯水槽メーカーは直結方式が広がれば売り上げに響く立場だ。業界団体「日本ステンレスタンク工業会」の勝野邦彦・常務理事(59)は「大地震で断水時、貯水槽は貴重な飲料水源になる」との手紙をくれた。
 昨年6月には厚生省(当時)に要望書を提出して防災上の重要性を訴えたほか、「長い目で見れば経済的に優れている」との試算もまとめた。

年1度は洗浄を 金属タワシだめ 愛知・清掃業者の実施例

 愛知県で貯水槽の清掃業を営む由利廣夫さん(47)の妻が「貯水槽はせめて年に一度、清掃が必要。信用できる業者を選ぶことが大切です」とファクスしてくれた。
 由利さんに会うと、たくさんの現場写真をもとに説明してくれた。

 貯水槽は毎年清掃しても、地域の浄水場や水道管の状態によっては濁りやさびなどが底にたまる=写真(1)。きれいにするには、水のシャワーの高圧洗浄で汚れを落とし(2)、タオルでふき取り、ホースのノズルを付け替えて消毒したうえで、新しい水をためる。
 繊維強化プラスチック(FRP)製の貯水槽は金属たわしなどで傷をつけると、汚れがつく原因になる。「高圧洗浄できるかどうかは業者選びの目安」という。由利さんは車に高圧洗浄用のポンプを積み、屋上の貯水槽用に長さ約100メートルのホースを用意している。
 補修技術の有無も重要だ。FRP貯水槽の内壁補修に使う樹脂は、塗り方が悪いとはげ落ち(3)、水道水に混じる。
 定期点検も欠かせない。長年放置すると、赤い水が出て初めて鉄製の貯水槽のさびに気づいたり(4)、ステンレス製でも表面処理をしていない古いタイプは水道水の塩素の影響で水に触れない部分にさびが出たり(5)することがある。
 「貯水槽は水道水の汚れを沈殿させる利点もある。きちんと清掃し、補修しながら使えば、住民の健康を守れます。管理の仕方の問題なんです」と由利さんは語る。

貯水槽はこんなに汚れている。
写真はいずれも東海地方で。
由利さん提供
(朝日 2001/06/01)
水回り
おじさん


雄叫び

毒舌・戯言
まぁ、ともかく あなたのお世話になっている「貯水槽」をちょっと覗いて見てごらんなさい。
 ほとんどの人がぞっとするはずです。
 とにもかくにも、よくもまァ、こんな水を毎日つかっているもんだと呆然とするでしょう。
万一、その中が、澄んだ状態であれば、あなたはよほど幸運の持ち主と言えよう。
 ほとんどの人が、「貯水槽」の中を見ないから、その惨状を知らぬだけ。おー、こわ(恐)。

水道料金、事業体の3割が値上げ

 水道料金を引き上げる市町村が相次いでいる。消費税増税に伴う値上げの目立った97年4月以降の約4年間で、全国に約1900ある市町村や広域の企業団など水道事業体のうち、約3割にあたる約590が値上げを決めたことが、水道事業体でつくる日本水道協会や都道府県を通じた朝日新聞社の調査でわかった。水源となるダムの建設費や水質悪化に伴う浄水設備費などがかさむのが主な理由だ。

 値上げ事業体は水道協会の資料だと97年4月〜00年4月で約470。00年4月以降は都道府県を通じた集計で約150あった。このうち2度値上げした約30を引くと、全体で約590になる。

 80年代から90年代半ばまでは値上げ事業体数が毎年200以上、値上げ率も平均20%以上が多かった。97年4月以降は事業体数が年200以下、値上げ率16〜17%と抑制傾向とはいえ、日本経済が不況と物価下落の続くデフレ状態だったことを考えれば、むしろ値上げが際立ったといえる。

 家庭用料金の目安の20トン月額は全国平均で昨年4月に3051円と、20年前の2倍近い。消費者物価指数の上昇率の30%台を大きく上回り、電気などの公共料金が下落する中で突出している。

 独自の水源をもたない小規模事業体の経営が厳しく、料金を高くする傾向がみられる。ダム開発や浄水処理のほか、更新期を迎えている配水管などの設備費がかさむ一方で、不況などで水需要が伸びず、合理化の余地の少ない小規模の場合は値上げしがちだからだ。

 国会で審議中の水道法改正案は、経営難に陥った事業体がコストを下げるために業務の民間委託や広域統合を進めやすくする狙いがある。今後値上げが難しくなれば、広域統合や将来の民営化までをにらんだ動きが進みそうだ。また、コスト増につながるダムの水の受け入れを拒否する事業体も出ている。
(2001/06/01 朝日)
水回り
おじさん


雄叫び

毒舌・戯言
グラフを見ての通り、「水道料の値上げ」は過去の料金が安すぎた(?)ことも一因。
 庶民は「水は安いもの」との感覚になってしまい、節水意識はどこへやら。
そして、供給側が、断水しては大変だ。水の需要量は必ず増えていくと誤算し、
過大な設備投資をドンドン行い、そのツケがいよいよ表面化したということ。
 水道料値上げで、節水意識が高まれば、もっと値上げというイタチごっこの繰り返し。
「水売る商売」(水道局・企業局)・・水には流せぬ。

世紀を築く:メダカの危機  どう図る、生物との共存


メダカのために池をつくるなど、各地で活発な保護活動が続いている。
 旧環境庁が2年前、絶滅の恐れがある野生生物の種をまとめたレッドデータブックに記載したことがきっかけだ。
 かつては、あちこちで群れになって泳いでいた。ふと振り返ると、その小さな姿が消えかかっている。

 ●にぎわいが消えた水田

 メダカは水田や水路、それにつながる池や小川などを生息域にしている。
 生きていくには、ゆったりとした流れやよどみのある水辺の環境が欠かせない。
 戦後、水路や川の護岸が次々にコンクリート化した。水系は断ち切られ、水の流れはメダカが泳げないほど速まった。
 水田は大規模化した。管理しやすいよう、稲刈り後に田が乾き切るほど水はけをよくしたことも、メダカの減少に拍車をかけた。農薬の影響も指摘されている。
 確かに水田の生産性は向上し、農家のきつい農作業は軽減された。
 「メダカの危機」は、その代償といえるだろう。

 「メダカ博士」と呼ばれる新潟大理学部の酒泉満教授は「メダカだけが問題ではない」と指摘する。メダカがすめない環境は、タイコウチやゲンゴロウ、タガメといった水生昆虫もすみにくい。好物のカエルがいないから、ヘビや鳥の姿も消える。
 いま、私たちの目の前に広がっているのは、「生きもののにぎわいが薄い」農村の風景だ。それを、仕方がないとあきらめるか。なんとかしたいと考えるか。
 生きものと水田の共存を回復させることで、農業と地域のあり方を考え直す試みが、ささやかながら始まっている。

 ●ふたつの小さな試み

 農業水利が専門の水谷正一・宇都宮大農学部教授は、水田整備の現場で生きものの姿が消えてゆく様子を見てきた。
 「メダカはそのシンボルだ」と語る。
 水谷教授らが知恵を出し、栃木県内の農村で去年の春、「2階建て水路」が誕生した。水田整備でつくられた深い水路を暗きょにして、その上を土の水路が通る。
 約700メートルと短いものだが、まずはドジョウやタガメが戻ってきた。
 草刈りなど、手間がかかる水路の管理は住民グループが協力し、あぜには野生のカキツバタやショウブを植えた。
 ドジョウなどに配慮し、除草剤の散布を控えた農家もあるという。安全なコメを求める消費者の願いにもかなっている。

 農水省も「生態系保全型水田整備推進事業」と名付けた試みに乗り出す。やはり「メダカの危機」がきっかけだ。
 部分的ではあるが、コンクリート水路の底を土にしたり、流れが緩やかなよどみをつくったりした水路がある。そこに、どんな生きものが暮らしているか。
 今年度から2億円をかけて調査する。そのデータを農家にも提供することで、生態系に配慮した水田のあり方を共に探っていきたいという。

 ●どんな世界に住みたいのか

 ふたつの例は、水田に生きものを呼び戻すための小さな「実験」にすぎない。
 生産性を追い求める農政から環境保全型農業への転換は、口で言うほど容易なことではない。
 水田整備のあり方や農法の見直しにもつながってくる。そのために生じるコストを社会的にどう負担するのか、というハードルを避けて通ることはできない。
 たとえば、手間をかけた高い農作物を消費者がどう受け入れるのか。農家の後継者不足が深刻で草刈りもままならないのに、だれがその環境を維持してゆくのか。
 もちろん一足飛びにいくはずもないが、こうした課題を少しずつ解決する工夫を重ねることで、新しい農村の姿も見えてくるのではないだろうか。

 「メダカが消える日」(岩波書店)の著者で環境教育コーディネーターの小澤祥司さんは、「メダカの危機は結局、『私たちはどんな世界に住みたいのか』という問いかけなんでしょう」というのである。
 メダカとともに、私たちもなにかを失いつつあるのではないか。
 ありふれた小さな生きものがいた風景を、もう一度思い出してみたい。


 メダカは日本、アジア大陸東部、台湾などに分布している。学名はオリジアス・ラチペス。オリジアスはイネのラテン名であるオリザに由来する。春から夏にかけて水田などで繁殖するが、日本では水田が開墾抑制や耕作放棄などで、1969年以後は減少している。
(朝日社説 2001/05/21)



《水》脱ダムで川を再生  米では住民に浸透


 米国で既存のダムを壊す運動が広がり、撤去された主要なダムや堰(せき)の数が累計で500を超えた。老朽化したダムを修復するより撤去したほうが安上がりとの判断からだ。また、サケを遡上(そじょう)しやすくするなど「自然の川」の再生を求める市民意識の高まりが背景にある。

 米環境NGO(非政府組織)の国際河川ネットワークなどによると、建設後50年以上たつダムが増えた90年代に入って動きが加速し、全米で年平均15ほどのペースで取り壊しと河川再生の工事が進んでいる。
 99年の調査では撤去されたダム・堰467の内訳は、発電用が27%、釣りなどのレジャー用が22%のほか、防火目的などのため池、鉱山用、かんがい、治水などが続く。規模をみると、えん堤の高さが判明している364のうち15メートル未満が9割。90年代以降は30〜40メートル級も目立ち始めた。

 米国で過去最大の「ダム壊し」となる現場を訪ねた。
 野球のイチロー人気でわく米シアトル市から車とフェリーで3時間。世界遺産に指定されているオリンピック国立公園の原生林を抜けると、エルワー川の上流にグラインスキャニオンダムがあった。
 「こんな大きなダムがなくなるなんて」。案内してくれた地元ポートエンジェルス市職員がつぶやく。
 こけむしたコンクリートのえん堤は63メートルもの高さがある。背後のダム湖の面積は1.7平方キロにのぼり、東京ドーム36個分にあたる。
 日本でいえば昭和の初め、74年前に建設された民間の発電ダムだ。大昭和製紙の現地工場に電力を送り続けてきた。それが3年後に取り壊しが始まることになった。
 ダム湖は1年ほどの工事で原野に変わる。下流のエルワーダム(高さ32メートル)も同時期に取り壊される計画だ。

    ◇

 「すべてのダムが悪いわけではない。役割の終わったダム、有害なダムは壊すべきだ」
 「地球の友」の北西部地区ディレクターをつとめるショーン・カントレルさんはシアトル郊外の事務所で淡々と語った。エルワー川のダムを壊す運動の中心の環境NGO(非政府組織)だ。
 80年代から釣り人や漁業関係者、先住民とともに、サケやマスが遡上(そじょう)できるようにすべきだと訴えてきた。いまはほかの地域から安く電力を調達できる。老朽化したダムを修復し、えん堤に魚道を設けるよりも一気に壊したほうがいいと主張した。
 運動の成果として「エルワー川の生態系と漁業回復法」が92年の連邦議会で成立し、撤去が公式に決まった。

 具体的な日程が固まっのは00年2月。壊す主体となった連邦政府の内務省が民間企業から2つのダムを2950万ドルで買収したときだ。撤去と河川の復元には1億3500万ドルかかる。
 内務省はダムの撤去で漁業の回復や観光振興など100年間に1億6400万ドルの利益がもたらされるとの試算を示している。100年間でみれば元がとれる計算だ。
 地元選出の上院議員などダム存続派の抵抗もあった。NGOは大学生や高校生ら若い層に自然保護を説くなどし、存続派を取り込んでいった。

    ◇

 五大湖に近いウィスコンシン州コーラ村。小さなダムの撤去の問題を話し合う官民の会議が4月下旬、開かれた。米国やカナダの連邦、州政府、ダムを持つ企業、NGOから参加した約50人の報告は実践的な内容だった。

 「自然が回復するのは速い。壊して1年半で草が茂り、魚影が戻る」
 「たまった土砂は有害物質が含まれている場合があるので念入りに調査すべきだ。作業中に手がかぶれたことがある」
 「ダムの撤去に抗議した地元のお年寄りは、長年見慣れた景色を失いたくないといった。そんな住民の気持ちに配慮した対策が必要だ」
 ダム壊しは官民が協調した日常的な活動になっている。費用は連邦、州政府、企業、寄付をもとにしたNGOの基金などが幅広く負担する。
 産業重視のブッシュ政権の登場やカリフォルニアの電力危機で逆風といわれるものの、多くのNGOは「大きな流れは変わらない」とみる。

 日本は「ダム壊し」には遠い。国土交通省は「米国の小規模ダムにあたる堰(せき)はすでに191基を撤去した」と主張する。だが、撤去しても別の堰をつくるケースがほとんど。老朽化したダムは修復して長く持たせるのが基本的な考え方だ。
 いまの論点はダムを新たにつくるかどうか。田中康夫長野県知事は「できうる限りコンクリートのダムをつくるべきではない。先に川のしゅんせつが必要」とするのに対し、国土交通省側は「ダムを最初から排除すべきではない」と反論する。
 「脱ダム先進国」の米国では「川の再生」がキーワードだ。古いダムを壊せば自然の生態系を取り戻し、くらしを豊かにできる。そんな考え方が多くの住民に理解されつつあるようだ。

(2001/05/20 朝日)
水回り
おじさん


雄叫び

毒舌・戯言
 人類は、「文明の利器」をさんざん享受してきた。
それは、便利さの代償に「本来あるべき自然の姿」と交換してきたことにほかならない。
それを取り戻そうとして、古いダムを破壊するのも一つの方法だが、「懐古趣味」的な面がやや鼻につく。
 「古き良き、昔の幻想」と一線を画した「現実から未来への」発想が必要か。
 「古きことは皆良し」ではなく、「新しき時代」には古いものが自然淘汰されていくことは、ある程度やむをえないことだ。
 人類、皆、「文明の利器」にたっぷりと恩恵を受けているのだから。


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