水の科学・化学館⑨  世界7つの地域の環境問題−①


世界7つの地域の7つの主な環境問題
7つの問題・・・土地、森林、生物多様性、淡水資源、海洋・沿岸、大気、都市・産業

7つの地域・・・
アフリカ、アジア・太平洋、ヨーロッパ、ラテンアメリカ・カリブ海、北アメリカ、西アジア、極地域。

 各地域の環境の優先課題
  • アフリカ、ならびに西アジア、アジア・太平洋地域の低所得国においては、食料の確保と貧困の緩和。
  • ヨーロッパ地域においては、国境を超えて広がる汚染、非持続可能な生産と消費。
  • ラテンアメリカ・カリブ海地域においては、生態系の劣化、生物多様性の損失、都市域の汚染、土地劣化。
  • 北アメリカ地域においては、人間の健康への環境リスク、非持続可能な生産と消費。
  • 東ヨーロッパや東南アジアの経済急成長地域においては、エネルギー需要・汚染レベル・温室効果ガス排出の増大。


アフリカ地域
アフリカの国々に共通する主要な問題の一つは、その自然資源の利用における大きな不均衡です。
土壌や植生は過剰に利用されていますが、他方で、水、エネルギー、鉱物、そして生物資源は十分には利用されていないか、あるいは未加工のまま、輸出されています。

 アフリカの環境は2つの対立する力によって形づくられています。その一方は、いつまでも続く経済的・社会的・政治的諸問題、世界最高の人口増加率、貿易不振、資金不足、そして長期にわたる干ばつです。もう一方は、南アフリカにおける人種差別の終焉、複数の内戦の終結、選挙に基づく政府の増加、そして35カ国における構造調整計画の実施です。
 アフリカの主要な問題のひとつは自然資源の利用における不均衡です。ある資源は過剰に利用され、別の資源は利用が不足しています。経済発展と持続可能性とをうまく両立させることがこの大陸の環境と開発の主要な課題となっています。この課題は、この地域の文化的資産と自然資源の恵みの多様さのために、より複雑なものとなっています。

◇いくつかの要点:アフリカ地域
  • アフリカでは、5億ヘクタールの土地が中程度または強度に劣化している。
  • アフリカの森林はすべての熱帯地域の中で最も消失が著しい。残存する原生林は 30%のみである。
  • アフリカのサバンナは世界で最も豊かな草地である。そこには多くの原生植物や動物が生息し、大哺乳類の生息密度は世界最大である。
  • 安全な飲料水が得られない人口の割合が高い25カ国のうち19カ国がアフリカにある。
  • 多くの国、特に西アフリカの国々では、魚が主要なタンパク源となっている。
  • アフリカは、都市化の程度が最も低い大陸である。65%の人々が農村地域に住んでいる。
  • アフリカにおける環境の劣化は、弱い経済力と貧困に密接に絡んでいる。
施策と将来・展望
 多くの国において今なお制度上の不備があり、十分な機能が果たせていません。
 それには多くの原因がありますが、そのなかには、経験豊かな職員の深刻な不足、研修施設の欠乏、そして非生産的な政策、法制度が含まれます。

 ほとんどすべてのアフリカ諸国が現在、戦略的環境計画を策定しています。それは例えば、「国家環境行動計画」、「熱帯林行動計画」、「オゾン層枯渇物質消滅のための国家計画」などです。
 多くの国が次のような取組を行っています:環境教育や研修プログラムの強化、土地保有制度の改善、農産品の取引条件の悪化に備えた作物の多様化、農村地域の水供給と衛生の改善、森林破壊を減らすための管理の強化、そして、沿岸と海洋の環境保全。
 また、持続可能な開発に関係する、少なくとも4つの新しい地域行動計画の採択により、地域間協力が強化されました。それらは、紛争の防止と解決のための取組、砂漠化を防止し、「持続可能な農業と農村開発(SARD=Sustainable Agriculture and Rural Development)」を実現するための取組、そして土地劣化防止のための地域戦略などです。
◇いくつかの要点:アフリカ地域
  • 複数の国が環境上の目標を憲法に盛り込んでいる。
  • 多くの国が環境教育を学校課程に取り入れている。
  • 1985年のカイロ会議で試験的取組として提案された、村人への土地管理権の全面移管を、多数の2国間・多国間援助団体およびアフリカの国々が導入した。
  • ブルキナファソ、マリ、トーゴでは、水供給と衛生の改善が、手動ポンプつき堀抜き井戸により実現した。
  • ボツワナでは、水供給の限界と大規模な潅漑の非現実性を認めた国家水計画が食料自給政策の代わりに食料安定確保政策を導いた。


アジア、太平洋地域
アジア、太平洋地域の発展途上国では女性が自然資源の第一の管理者です。
しかし、この重要な役割は、政府や諸機関によって、しばしば無視されています。


 アジア、太平洋地域は世界の陸地の23%を擁するにすぎませんが、世界の人口の 58%が暮らしています。その高い経済成長にもかかわらず、絶対的貧困(1日の所得が1米ドル未満)の中にいる人々の3分の2以上がこの地域にいます。土地劣化、森林破壊、水不足、そして海洋と沿岸の資源劣化がこの地域の環境の重要な課題です。
 ムンベイ、ジャカルタ、マニラなどの巨大都市では、大気汚染が次第に深刻になりつつあり、フィジー、モルディブ、西サモアなどの小島嶼国では廃棄物の処分が問題化しています。
 この地域では多数の国が、洪水、干ばつ、サイクロン、地震、高波、土砂崩れ等の災害の世界的頻発地帯に属しています。世界的大災害の約半数がこの地域で生じています。

◇いくつかの要点:アジア、太平洋地域
  • アジアの材木資源は40年以内に枯渇するおそれがある。
  • 急激なエネルギー需要増大により大気汚染が著しく悪化し、酸性化の問題が浮上している。
  • 非持続可能な利用と整合性のない政策を原因として、この地域全域で生物多様性の継続的な消失が生じている。
  • 太平洋に投棄されている廃棄物のうち約70%は何の処理もされていない。
  • 人口集中地域において、液体・固体廃棄物の処分が次第に問題化しつつある。
  • 土壌劣化の影響を受けている世界の土地の最大部分がアジア、太平洋地域にある。
施策と将来・展望
 この地域では、最近多くの国で、新しい環境保全制度の創設や既存制度の強化が行われました。最も一般的な施策は命令・規制手法と戦略的環境計画です。
 重視されている分野は土地劣化と総合的な水系管理です。中国では、1983年の国家委員会による土壌浸食防止計画の策定以降、顕著な成果が認められます。そこではどこよりも速く再植林が行われていますが、なお一層の森林政策の強化とより適切な実施が求められています。
 現在多くの国が、産業に起因する水質汚染の低減のために経済的手法を取り入れています。大気汚染も主要な問題であり、酸性化問題が注目されています。また、多くの国において、洪水やサイクロン等の自然災害に対処するための仕組みが設けられています。
◇いくつかの要点:アジア、太平洋地域
  • シンガポールのグリーンプランには、2000年までに高水準な健康、クリーンな空気・水・土地を備えた都市を実現するための計画が盛り込まれている。
  • 中国は、2百万ヘクタールにおよぶ土壌浸食を防止し、作物生産高を倍増した。また、砂漠化した土地の10%を回復し、 12%の劣化を防ぐとともに、北部地域において1800万ヘクタールの植林を行った。
  • オーストラリアでは、土壌保全事業が税控除の対象となる。また、全農業世帯の3分の1が 2200の土地保全活動組織に参加している。
  • タイとフィリピンでは道路上の自動車台数を制限しようと計画している。
  • インドでは、更新可能なエネルギーのための計画において、バイオガスと風力が重要かつ信頼性の高いエネルギー源として確認された。
 【アジア、太平洋地域の地域協力】
この地域では次のような協力が実施されています。
  • ASEAN 環境行動戦略(1994-98)
  • 南アジア環境協力計画(1992-96)
  • 南太平洋地域環境計画アクションプラン(1991-95)
  • メコン川委員会環境ユニット
  • 総合的山岳開発のための国際センター(ヒンズークシヒマラヤの環境問題に対処)


ヨーロッパ、CIS諸国
ヨーロッパの典型的な百万人都市では、毎日おおよそ、11,500トンの化石燃料と、320,000トンの水、および 2,000トンの食料を消費しています。
同時に、300,000トンの下水、および 25,000トンの二酸化炭素を排出しています。


 CIS(独立国家共同体)諸国を含むヨーロッパ地域は、世界人口の15%を擁し、陸地面積は世界全体の5分の1以上を占めます。西端の大西洋から東端の太平洋までの距離は 11,000kmにおよび、面積の6割はロシア連邦です。
 この地域の環境問題の多くが、人口集中地域における大量の資源消費と廃棄物の排出から生じています。この状況は、近年、東欧諸国において急速な経済成長に伴い、高消費型の生活様式が広まってきたために悪化しつつあります。しかし、エネルギーと資源の利用効率は、この20年間、よりクリーンな生産プロセスの導入により、かなり向上しました。この変化の大きなきっかけとなったのは、 1970年代における石油価格の上昇です。
 多くの国では、私有自動車の増加により、道路に車が溢れています。乗用車、貨物車の双方とも、1990年から2000年までの間に倍増すると予想されています。西欧諸国の高投入型農業は食料生産量を増やしましたが、他方、環境汚染ももたらしました。世界旅行の約6割はヨーロッパを行先としています。そしてそれは環境へのいくつかの悪影響を、特に海岸地域において、もたらしています。

◇いくつかの要点:ヨーロッパ、CIS諸国
  • 硫黄酸化物や窒素酸化物の排出が大きな要因となって、中・東欧の森林の3〜5割が傷み、あるいは枯死しつつある。
  • ヨーロッパでは 1982年以降、新たに1千万ヘクタールの自然保護地域が設定された。しかし、魚類の52%、爬虫類の45%、および哺乳類の42%が危機に瀕している。
  • ヨーロッパの中心的工業地帯の約6割において地下水が過剰利用されている。
  • ウラル山脈より西のヨーロッパ地域では、約86%の海岸において、開発を原因とする生態系への強度ないし中程度のリスクが生じている。
  • ヨーロッパで排出されるフロン(CFC)は、世界全体の36%、二酸化炭素は30%、二酸化硫黄は25%である。中・東欧諸国においては大気環境が最優先課題となっている。
  • ヨーロッパでは一人あたり平均、年間 150〜600kgもの都市廃棄物を排出している。このことは、廃棄物処理の代替策やよりクリーンな生産技術の導入、およびリサイクル推進の動きをもたらした。
施策と将来・展望
ヨーロッパは恵まれた状況にあります。
そこでは、比較的新しい環境データが得られ、制度や行政機構が充実し、地域全体の協力意識がうらやましいほどに高く、テスト済みの環境政策オプションが豊富にあります。
 CIS諸国にとっては、環境問題の重視は比較的新しい課題です。 EU(欧州共同体)への参加に熱心な諸国(ブルガリア、チェコ、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、スロバキア)では、EUの厳格な環境基準に適合するための大きな環境努力を迫られています。これらの国の多くは、汚染賦課金や税収をもとに、1〜3億米ドルに達する環境基金を設けました。この基金の使途は環境上の目的に限られています。
 EU内では、現在、環境法制が社会と政府のあらゆる分野に浸透し、すべての人々の生活に影響をおよぼしています。さらに、複数の産業部門が環境行動計画を策定し、自らの責任を明確にしています。中・東欧諸国では、環境法制をさらに強化し、より効果的なものにする必要があります。
◇いくつかの要点:ヨーロッパ、CIS諸国
  • 1990年以降、少なくとも 15カ国が環境の状況についての新しい報告書を発行した。
  • 現在、中・東欧の 17カ国が、UNEPの環境自然資源情報ネットワーク(ENRIN)に参加している。
  • EUの環境行動計画は、あらゆる形の汚染と廃棄物に対する規制とともに産業界の積極的誘導策を盛り込んでいる。
  • ヨーロッパの環境改善のために、200以上の制度や規制、勧告が用いられている。
  • 1995年のソフィアでの環境大臣会議で合意されたヨーロッパ環境計画は、全ヨーロッパを対象とする最初の長期的環境計画である。
【中・東欧諸国での、よりクリーンな生産技術の導入レベルに応じた排出削減予測】
削減率, 1990-2010
基準ケース 促進ケース 最良ケース 最悪ケース
二酸化炭素 25% 55% 65% 5%
二酸化硫黄 60% 95% 98% 30%
窒素酸化物 55% 85% 90% 35%
揮発性有機化合物 35% 60% 75% 25%
粒子状物質 55% 97% 99% 35%
カドミウム 15% 65% 90% 2%
埋立廃棄物 5% 50% 60% -10%
基準ケース:現行の西欧の技術を新設備に導入
促進ケース:現行の西欧の技術を新・旧設備に導入し、石炭の代わりにガスを使用
最良ケース:利用可能な最良の技術を全設備に導入し、ガスと非化石燃料のみを使用
最悪ケース:旧設備、石炭をそのまま継続使用


ラテンアメリカ、カリブ海地域
南アメリカの乾燥農地の 72.7%(約3億6百万ヘクタール)が、中程度から強度に劣化しています。

 この地域の環境の特徴として、アマゾン川やラプラタ川のような大水系、その炭素吸収源としての重要性、およびその独特な生物多様性が挙げられます。このほかの特徴として、都市への人口集中、豊かな民族的多様性、拡大しつつある農業、そして増えつつある不平等と貧困などが挙げられます。環境破壊の主要因となっているのは、都市域や条件のよくない農業地域での人口急増です。
 構造調整政策は経済の復興をもたらしましたが、同時に貧困も増えました。 1990年時点で、十分な食料が得られない世帯は4割に達しました。人々は都市に移住して社会的問題を増大させ、貧しい人々の多くは、その場しのぎのために、脆弱な生態系を過剰に利用しています。
◇いくつかの要点:ラテンアメリカ、カリブ海地域
  • 世界の最も生物種の豊かな国10カ国のうち、5カ国はラテンアメリカにある。しかし、この地域の生物多様性は大きな危機にさらされている。次の40年間に森林地域の少なくとも10万種が消失する可能性があると推定されている。
  • 熱帯林の急激な消失は、徐々に緩和されつつある。これは、森林破壊を促す補助制度、税制、特別融資などの撤廃のための国際的取組や国内計画の効果によるものである。
  • この地域の放牧地の約47%は、浸食、過剰放牧、塩分増加、アルカリ化などにより、土壌の肥沃さを失っている。
  • 大量の農薬や他の汚染物質が水路を通じてカリブ海に流入し、リン、窒素、殺虫剤などによる汚染をもたらしている。
  • カリブ海の海水浴場の多くにおいて、タール分の平均的レベルは、現在、行楽客の利用に支障があるとされるレベルの10倍に達する。
  • アルゼンチン、ブラジル、チリ、パラグアイ、およびウルグアイは、オゾン層枯渇によるUV-B紫外線増加の悪影響を他のどの人間居住地域よりも強く受けている。
施策と将来・展望
ラテンアメリカ、カリブ海地域では、環境政策や活動の調整を目的に新設された環境制度、官庁、協議会が、政策の実施に大いに貢献しました。
 UNCED以降、この地域の多くの国が、政府の行動計画に環境を明確に位置づけようと大きな努力を払ってきました。
 次のような、環境上の新しい改善された取組が、法的枠組の中の主要な新制度として取り入れられました。
 環境管理の調整と法施行のための官庁機構;憲法への環境事項の盛り込み;環境基準や規制基準の法制化;経済的手法の導入;住民参加と環境教育の充実
 この地域の35カ国のうち、現在5カ国が環境行動計画を、6カ国が自然保護戦略を定めています。環境報告は、現在までに6カ国が発行し、3カ国が準備中です。いくつかの国では、現在、国内経済勘定に自然資源の劣化や損失の推定を盛り込んでいます。このことは、自然資源の劣化をコストとして評価しようという関心がこの地域で高まっていることを示しています(別記:グリーン勘定)。
◇いくつかの要点:ラテンアメリカ、カリブ海地域
  • 構造調整計画のために、複数の国が環境計画を中断した。
  • UNCED以降、複数の国が、健全な環境の権利を憲法に盛り込んだ。
  • 経済自由化によって、複数の大規模経営者は土地保有を増やし、市場での競争力の弱い小規模地主は土地を手放した。
  • ブラジルでは、バイオマスエネルギー利用の取組によって、ガソリンによる排出がかなり減った。
  • サンチアゴは、いくつかの主要道路へのバス・タクシーのアクセス権を入札制にした。
 【グリーン勘定】
 この地域の少なくとも4カ国が、自然資源勘定(グリーン勘定)を国内経済勘定になんらかの形で取り入れています。これは、主要な環境問題の要因に注目を集め、優先課題とするのに役立ちます。この目的のために、国連統計部は環境経済統合勘定システムと呼ばれるグリーン勘定システムを提案しています。このシステムは、従来の国内総生産(GDP)の代わりに、国内の自然資源の状態を含む真の国富の状態を示す、エコ国内生産(EDP)のようなグリーン指標の開発を助けるものです。このような指標は、環境政策立案者にとても有用なものと考えられます。


北アメリカ地域
米国では、何十万カ所にもおよぶ汚染された工場跡地の環境回復・改善に、今後30年間、1千億〜1兆ドルの費用がかかるであろう。(NSTC)

 カナダおよび米国は、製品とサービスの生産および消費において世界をリードしています。両国はその資源利用の影響を懸念し、環境問題についての住民意識を高めようと多くのことを行っています。
 環境問題の根本的要因は急速な経済成長です。過去25年間に、米国のGNPは5倍に増え、その結果、現在、毎年 45億トン以上の原料が消費されています。米国の人口は世界の 5%に過ぎないにもかかわらず、エネルギー消費量は世界全体の 25%にもおよびます。この地域における単身世帯の増加と私有自動車の増加(2人に1台)により、エネルギー消費が急増しました。ただし、最近その増加率は、省エネ計画やエネルギー利用効率の改善、消費者の意識向上などにより緩和されつつあります。
 生産・消費の形態は徐々に「脱資源化」あるいは「よりクリーンで簡素な生産」へと移行しつつあり、資源投入と廃棄物排出の最小化が図られています。
 北アメリカの人々の物質主義に対する態度も変化しつつあります。米国における最近の調査によれば、83%の人が消費が過剰であると認識し、 88%の人が環境保全のためには「自分達の生活様式の大きな変更」が必要と考えています。

◇いくつかの要点:北アメリカ地域
  • 米国では、1992年までに耕作地からの土壌浸食を、1982年時点と比べ、約 10億トン減らした。
  • カナダと米国は、林産品の輸出における、世界上位2カ国である。
  • 1996年時点で、米国では、728生物種が絶滅の脅威を受けている。カナダでは、254生物種が絶滅の脅威を受け、また、別の21種はすでに国内的あるいは世界的に絶滅している。
  • 北アメリカの家庭の水消費量はヨーロッパの約2倍であるが、代金は約2分の1しか払っていない。
  • アメリカの農村地帯には、240万人が安全な飲料水源の確保に困り、そのうち百万人は水道水なしで生活している。また、水質安全基準に満たない給水を受けている人がさらに 560万人いる。、
  • 漁場の枯渇により、東海岸の漁業が壊滅し、地域住民、特にカナダの漁業地域の住民は大きな打撃を受けている。
  • 北アメリカ全域の大都市で、新たな廃棄物埋立地の確保が困難になりつつある。このため、いくつかのコミュニティでは以前よりきびしいルールを作り、省資源やリサイクル、廃棄物分別に努めている。
施策と将来・展望
環境法制の立案・施行と科学的根拠に基づく環境基準・汚染質基準の設定によって、米国とカナダは、高く評価されています。
 北アメリカには環境問題での協力の長い歴史があります。米国とカナダは世界で最も長大で平和な国境を共有し、環境問題への対処に密接に協力しています。五大湖の生態系保全や酸性雨に対する共同活動などの共通の課題について討議するため、大臣級の会議や頻繁な検討会を定期的に開催しています。
 カナダと米国の政府は、国内、地域内、および世界の環境劣化防止に向けて取り組むことを公式に表明しています。このような取組には、住民、NGO、および多数の先見的企業の広範な支持が不可欠です。
◇いくつかの要点:北アメリカ地域
  • 米国とカナダは、1909年に、5大湖の水質モニタリングのための国際共同委員会を設立した。
  • NAFTAおよび付随する北アメリカ環境協力協定は、貿易政策と環境政策の連携強化のために役立っている。
  • 新たなカナダ環境保護法は、市民が環境浄化のために司法手続を始めることを認めようとしている。
  • 米国の二酸化硫黄取引システムは年間排出量を9百万トン削減しようとする取組の中心をなすものである。


西アジア地域
西アジアにおける食料不足は、1993年時点で107億米ドルと推定される。
砂漠化の進行と高い人口増加率によって、この不足は今後大きく拡大すると予想される。(FAO/ESCWA)

 この地域のすべての国は乾燥または半乾燥地帯に位置し、地域の4分の3は砂漠です。すべての国が緊急対応が必要な深刻な環境劣化の問題に直面しています。対応が遅れれば、必要な費用がかさみ、問題がより複雑化するでしょう。問題は主に乾燥性に由来します。取り組むべき課題は、土地浸食の抑止、水供給の改善、地下水の保全、4つの地域海(地中海、ペルシャ湾、アラビア海、紅海・アデン湾)の沿岸環境管理の改善などです。高い人口増加率(1990〜95年の時点で年3%以上)が問題をより複雑化しています。
 この地域の約半数の国は石油経済をベースとし、いくつかの国ではその豊かな資金で展開された高投入型農業が生物の食物連鎖や河川・海域の汚染を引き起こしています。

◇いくつかの要点:西アジア地域
  • 西アジアでは、残されていた原生林の11%が1980年代に消失した。
  • ペルシャ湾西岸における地下水源の枯渇により、独特な自然淡水泉の生態系が失われつつある。
  • 多くの西アジア諸国は水不足であり、バーレーンでは、必要量の18%にも満たない。しかし、1人あたりの水消費量は、現在、毎日 300〜1500リットルととても高レベルである。
  • 毎年約 120万バレルの油がペルシャ湾に流出している。
  • この地域の沿岸地帯は開発や行楽のための貴重な経済資源であるが、世界で最も脆弱で脅威にさらされた生態系でもある。
施策と将来・展望
ほとんどどの国の環境部局も、要求される仕事に比べて、人員と予算が限られています。
つまり、合意された政策や法律の実施に必要な資源が不足しています。

 この地域では、過去20年間に環境に関する制度や法律が大きく進展しました。今では、すべての国に、環境機関または環境官庁があります。しかし、前例のない都市と産業の発展、紛争、不十分な廃棄物処理・処分システムにより、環境と人の健康に重大な脅威が生じています。
 環境保全のための国際的取組への参加率は、高くありません(下表)。しかし、これらの条約の履行を確保するための地域的なしくみができつつあります。
◇いくつかの要点:西アジア地域
  • この地域の環境保全エリアは現在、2400万ヘクタール(陸地の約6%)以上をカバーしている。
  • 環境に関する最高レベルの地域組織は、アラブ環境担当大臣協議会とペルシャ湾協力協議会である。
  • インターネットによる情報提供サイトを作ろうという計画があるものの国レベルでも地域レベルでも環境のデータや情報が全般的に不足している。
 【西アジア諸国の国際環境条約への加入状況】
絶滅危惧生物種の取引
1973
モントリオール議定書(オゾン層)
1987
バーゼル条約(廃棄物)
1992
砂漠化防止条約
1994
バーレーン    
イラク        
ヨルダン  
クウェート    
レバノン  
オマーン      
カタール      
サウジアラビア  
シリア  
アラブ首長国連邦  
イエメン        


地域
南極と同様、北極の環境も地球温暖化や海水面レベルと密接に関係しています。地球温暖化は雪や氷を溶かすことによって太陽光の反射率(アルベード)を減らし、 太陽エネルギーの吸収量を高めてさらに地域の温暖化を促す可能性があります。

 地球温暖化やオゾン層枯渇の問題に関連して重要性が増している極地域に言及しないならば、どんな環境報告書も完全とは言えないでしょう。北極地域は、カナダ、フィンランド、ノルウェイ、ロシア、スウェーデン、アラスカ、グリーンランド、アイスランドにまたがる 1480万km2の陸地、および約 2000万km2の北極海とからなりますが、近年、漁業、林業、鉱業、石油探査、観光、軍事活動などの圧迫が増し、多くの自然生物種や生息域が、人間活動によって脅威にさらされています。
 南極は面積 1400万km2におよぶ、最も乾燥し、最も風が強く、最も冷たく、最も清浄な大陸です。この地域を科学と平和のために献げるために南極条約が結ばれ、その協議機関によって協力的な管理が行われています。冬季にはほとんど無人で、夏季にも科学的研究および若干の観光が行われるのみです。
◇いくつかの要点:極地域
  • 過去百年間に観測された海水面の 10〜20cmの上昇にグリーンランド大氷原の溶解が関与していると認められる。
  • 北極海の海洋資源は非常に豊かである(夏季における24時間の日照がその一因となっている)。しかし、過剰な漁獲や海洋哺乳類の捕獲によって脅威を受けている。
  • 北極地域における森林開墾により地形や気候が変化し、生物多様性が減少した。
  • 1995年時点で北極地域には285カ所の保全地域があり、210万km2をカバーしている。
  • 南極周辺の海洋漁業はオキアミやナガスクジラ類を中心としているが、全般的に許容レベルを十分下まわっている。
  • もし南極の大氷原が溶解したならば、少なくとも 60mの海水面上昇が生じるだろう。
  • 南極上空のオゾンホールはこの先何十年も続くだろうと推定される。
施策と将来・展望
北極と南極の環境は、主として、国際的な協力による政策と行動によって守られています。
 北極地域における最も包括的な国際計画は、北極環境保護戦略です。これは、ロシア、米国(アラスカ)、カナダ、グリーンランド/デンマーク、アイスランド、ノルウェイ、スウェーデン、フィンランドの8カ国によって採択され、モニタリング、評価、海洋環境、事故、保全、持続的開発の各作業グループを設けています。北極協議会は、1996年に設立されました。
 南極での人間活動を規制する主なしくみは南極条約です。あと3カ国が批准すれば発効する、1991年マドリッド議定書により、環境保全が確保されようとしています。
◇いくつかの要点:極地域
  • 先住民の重要な食物である北極地域の魚や野生生物から高レベルの有毒物質が検出されている。
  • 北極監視評価計画(AMAP=Arctic Monitoring and Assessment Programme)は北極地域の環境の状況について総合的な評価を行っている。
  • 南極条約協議会では環境の状況の総合的な報告書作成の準備をしている。
  • 極地域に関する環境施策は、国際協定に基づく環境保全を中心としている。


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